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恋って、多分こんな感じ。

原作: その他 (原作:アイドルマスターSideM) 作者: 和久井
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昼ご飯とフェロモン

お昼ご飯は、事務所の1階に店を構えるたまこやで買ってきたデラックス弁当を事務所で食べた。
たまこやではいつもこの弁当を注文してしまう。
デラックス弁当はハンバーグ・からあげ・エビフライ、そしておばちゃん特製の卵焼きが入っている。

もちろん、ご飯は大盛りだ。

いつもなら美味しいご飯を食べるだけで元気になれるのだが、今日は半分も回復していない気がした。

2人には話を聞いてもらって申し訳ないな、と考えながら龍は食後のお茶を飲む。
温かいお茶が心地良くて、龍はふぅ、と息をつく。
息を吐くたびに、自分の身体がずぶずぶと革張りのソファに沈んでいくような気がして、そのままソファから動けなくなっていた。
デラックス弁当断ちをすれば大人になれるんじゃないか――とぼんやりとした頭で考えていた。

「悩み事かい?」
「うわあ!」

背後から急に声がかかり、龍は思わず大声を上げた。
パシャンと音を立ててお茶が机に零れたので声の主を確認する前に慌てて立ち上がり、おしぼりで拭く。
背後からくつくつと笑い声が聞こえる。

「驚かせたのならすまないな」

葛之葉雨彦だった。

龍は思わずきゅっと口を固く結んだ。
雨彦と話す時、龍はいつも緊張してしまう。
自分の考えが見えてしまっているようで、今のように考えている事をずばりと当てられる事が多かったからだ。

「俺って、そんなに分かりやすいですかね?」

固く結んでいたはずなのに、気づけば口を開いてしまっていた。
しかし雨彦はは特に気にしていない様子で、「気にする事じゃない」と向かいのソファに座った。

「俺が見えやすいだけさ」

 じっと見つめてくる藤色の瞳から龍は堪らず目をそらした。

そして恐る恐る訊ねる。

「……今の俺って、どんな感じです?」

 雨彦は少し目を見開き、「そうだな」と口を開けた。

「そこそこ深刻な悩みを抱えてそうだな」

雨彦は見たままを口にしたが、龍は驚いて雨彦を見た。

「正解です」

そんな龍を、雨彦は心配そうに見る。

「……お前さん、占い信じるタイプだな」


「ほお。大人の魅力、ねぇ」

そう言いながら、雨彦は龍が淹れたお茶を飲んだ。
つられるようにして龍もカップに口をつける。
淹れたてのお茶は熱く、唇に刺激を与えただけだった。

「雨彦さんってフェロモンがすごいですよね」

一瞬顔をしかめながらも龍は話を進める。

「声も渋くて、ほら私服もセクシーじゃないですか」

雨彦は冷めた顔でお茶を飲んでいる。
龍は自分のお茶をもう一度見つめ息を吹きかけた。

「木村もこうなりたいのかい?」

 龍を挑発するように、雨彦は膝に肘をあて前屈みになってみせた。
普段なら目を逸らしてしまいそうな体勢だったが、龍はそんな雨彦を観察するようにまじまじと見つめる。

「セクシー……セクシー良いですね!」

そう言いながら龍は立ち上がった。
数回深呼吸をした後、背筋に力を入れる。顎を引き、視線はまっすぐ。
龍の背中は綺麗に伸びていた。

「さっき、道夫さんに綺麗に立つ方法を教わったんです!」

見下ろす事が出来ないらしく、遠くを見つめたまま龍は話し続ける。
先ほどミーティングルームで道夫と次郎と会話した際に道夫に教わったものだった。
道夫は「伊集院君の受け売り」と自虐していたが、その立ち方はモデルのようで、龍は道夫に、そしてそれを教えた北斗に感動した。

「これに雨彦さんからセクシーを教われば完璧かも!」

そこで龍は背筋を伸ばす事を止め、雨彦を見下ろした。そのまま頭を下げる。

「雨彦さん、お願いします! 俺にセクシーを教えてください!」

雨彦は「ほお」と声を漏らした。
しかしまだ龍をからかうように話す。

「俺なんかで良いのかい?」
「雨彦さんが良いんです!」

何を言っても変わらず自分に頼み込む龍を見て雨彦は息を吐き、腕を組んだ。

「嬉しい事言ってくれるねぇ」

雨彦の言葉に、龍の顔が輝いた。
そんな龍の顔を見て、雨彦もつられて笑顔になった。


龍は横に立つ雨彦の横顔を見上げた。
事務所の中でも一番身長が高い彼はすらりとした立ち姿で、それには誠司とはまた違った存在感があった。

「とは言っても」

雨彦は首を回して龍を見た。

「俺も、次郎とほぼ似たようなもんでね」
「何も考えてないんですか?」

龍はその場にしゃがみ込んだ。
龍と床の距離が縮まり、長身の雨彦が更に大きく見えた。

「感じたままにやっている、という事かな」

そう言うと、雨彦は一度龍から目を逸らし自分の人差し指に口づけるように息を吹きかけた。
その手を龍の顔の前に伸ばす。

「お手をどうぞ、お嬢さん」
「お……」

その凄艶さに、龍は咄嗟に言葉が出てこなかった。
しゃがんだまま口をぱくぱく動かすだけの龍を見て、雨彦は昼間の時のようにくつくつと笑った。

「刺激が強かったかい?」

 そこでからかわれた事に気づいた龍は慌てて立ち上がった。
勢いをつけただけでは彼の身長に到底及ばない事は分かっていたが、上から声をかける気持ちで叫んだ。

「お嬢さんじゃないですよ!」

言葉がついてこない龍に、雨彦は声を上げて笑った。

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