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『狂った歯車、自我との葛藤』

ジャンル: その他 作者: ちゃんまめ
目次

前編

  中学校の頃、成績が良かった私は県内でも有数の進学校に入学出来た。

勿論、それは私が勉強を頑張ったから実現出来た事だ。

テスト勉強は毎日夜中までしていた。

ある時、朝方まで勉強をしていたら一時間目の美術のテストの時に頭がよく回らなくてあまり納得がいく結果を出せなかったからテスト勉強は午前二時までと決める様にした。

高校受験に必要な科目は国語、数学、理科、社会、英語の五科目だから中学三年生になると皆、保健体育や家庭科など受験には必要のない科目のテストは適当に受けていた。

完璧主義な私は例え受験と関係ない科目でも勉強を頑張った。

でも総合で一位を取った事はなかった。

万年二位だ。

完璧主義だけど競争心が無い私は別に悔しくはなかった。

高校受験の為に進学塾にも通った。

男の方がどんどん成績が伸びると聞いた事があったけど、正にその通りで私は成績に伸び悩んでいた。

特に私は数学、理科といった理系の科目が苦手だった。

一番上のクラスにずっと居たけど、下のクラスに落ちた事もあった。

それだけならまだしも、私の心の弱さを察した塾の先生が点数が悪かったけどクラスは落とさないでおいたよ、という話を聞いた時はその優しさが逆にショックだった。

私は学力勝負で志望校を受験しようと思っていたし、今の成績なら問題ないだろうとも思っていた。

そんなある日、推薦での入学を希望するかどうかという面談が行われる事になった。

確かに推薦を貰えればほぼほぼ合格が保証されるし受験勉強もしなくて済む。

私が志望している高校は女子高でハンドボールが強く、私の中学も女子のハンドボール部が強かったからハンド部だったら推薦を希望したかも知れないが、私はバレー部だった。

別に弱かった訳ではない。

県大会で三位になった事もあるけど志望する高校には需要が無いだけだ。

勉強を頑張って入学を目指すと担任に伝えようと面談に臨んだが、担任からは驚く言葉が発せられた。

「是非、推薦入試も受けて欲しい。」

私は唖然と先生の話を聞いていると先生はなんと涙ながらにその理由を話し始めた。

「職員会議では藍井は志望している高校には推薦入試では入れないだろう。藍井の成績なら勉強で入れるから推薦入試を受けさせる事は逆に負担になってしまう。こう他の先生は言ったけど私は学業も

部活にも真面目に取り組んで生活態度も模範的な藍井が推薦出来ないのは悔しくて…。もし、藍井を推薦出来ないならば私のクラスからは一切推薦入試を受ける生徒は出さないとまで言ってしまった。」

確かに私は行動が模範的だと様々な表彰状も貰っていた。

先生の想いを聞いて推薦入試を受けざれおえない状況になってしまった事に戸惑い涙が溢れたのか、教師という立場の人間が涙を流し私に本音を伝えてくれた事が嬉しかったから涙が溢れたのか分からいまま「推薦入試も頑張ります…」と伝えて教室を後にした。

教室を出ると廊下のあちらこちらで推薦を貰えなかった生徒が泣いていてそれを慰めている子達の光景が見えた。

私は一目の付かない場所で独り泣いていた。

そこへ部活で一緒に汗と涙を流した小学校からの親友の理恵が来た。理恵はバレー部の中でもキャプテンを務めていてバレーセンスも一流で強豪校へのスポーツ推薦が決まっていた。

「大丈夫?」その言葉に私は面談での出来事を掻い摘んで話「みんな推薦を貰えなくて泣いているのに私だけ推薦貰って泣いているなんて失礼すぎるよね…」と呟いた。

理恵は「そんな事ないよ。あさみは優し過ぎるんだよ。自分の負担が増えるだけなのに推薦入試も受けるなんて…。辛くなったらいつでも話聞くからね!」と優しく励ましてくれた。

今、振り返ればこの出来事が私の人生の大きな転機。

そして歯車が狂いだした出来事だったのだろう。

 それから私は放課後毎日、推薦入試の対策の為に面談の練習をしたり小論文の書き方の勉強をしたりした。

案の定、推薦入試の結果は不合格だった。

予想通りだったので特に悲しくも悔しくもなかった。

そして普通に受験し無事志望校に受かった。

同じ高校を受験した生徒は全員合格したから遺恨が残らず済んだ事の方が安心したくらいだ。

努力によってトップの成績を残していた私だが高校に入ってから思う様にその勉強が出来なくなっていた。

自我が強くなる高校時代、家庭環境が良いとは言えない家で暮らす私は己に問いかける事が多くなっていった。

友達の前では明るい性格で振る舞えるのに家族に対しては反抗的な態度しか取れず全くの別人の様だった。

思い返せば家族に素直な笑顔を見せたり「ありがとう」「ごめんなさい」の大切な言葉さえ言っていなかった。

友達の前での明るく笑顔も見せる自分と家族の前での反抗的な自分…本当の自分は一体どっちなんだろう。そんな自問自答を繰り返していた。

そして段々と明るく笑顔を振りまける自分が演技をしている偽物の様な気持ちが強くなって学校から帰ると酷く疲れていた。

家庭環境も更に悪くなり家にも自分の居場所が無いと感じる様になっていた。

唯一、普通に接することが出来る母親に「もう限界だ」と伝えた。

母も私が段々とおかしくなっている事に気付いていて思春期外来に行こうと言ってくれた。

私は思春期外来に通う様になった。

病院へ行く様になったからと言って家庭環境は変わらない。

私はある日、カッターで手首を軽く切ってみた。

痛みは感じずに滲む血液に安堵した。

思春期外来でその事を正直に話すと思春期外来ではなくて精神科に行こうね。と告げられた。

リストカットをした事は秘密にしていたので母には「精神科を紹介された」とだけ伝えた。
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