チャプター2:運命の戦い
トイレから出て二人が目にしたのは、壁に開いた大きな穴だった。周りには何人もの生徒が真っ赤になって倒れている。
「なんだ……これ」
本来トイレで用を足すはずだったケンジはその場でちびった。ヒロはそんなケンジにお構いなく、皆にこの場から立ち去るよう促す。
生徒は一目散に逃げ出し、二人も後に続いた。
逃げている間、何個も大穴を発見した。そこにもやはり真っ赤な生徒が横たわっていた。ケンジはそれを見るたび、目を伏せていた。
「やはり原因はあの銀ピカか!」
ヒロは、逃げ道として通っていた廊下から離脱し、廊下に隣接する教室の中へ飛び込む。そして、今いる場所が二階だということを確認したヒロは、何もためらわずに窓から飛び降りた。
それを見たケンジは、ヒロを追いかけるように、教室へ離脱し、窓から飛び降りた。
飛び降りた先から、200メートルほど走った先に例の不審者はいた。ヒロは、不審者の前で立ち止まると、不審者に向かって叫んだ。
「お前、何者だ!」
その声に気付いた不審者はヒロの方を向き、言葉を発した。
「我輩は鉄神ギャング三番行動隊長! ガ・ゴーンだ!」
ガ・ゴーンと名乗る怪人は、ヒロに歩み寄る。ヒロは怪人に近寄られても怖がらずに怪人に問い続ける。
「何のためにここを攻撃した!」
「暇つぶしだ!」
「何……暇つぶしだと……?」
一瞬、怪人の言ったことが理解できなかった。
「暇つぶしのために何人もの人が死んでいるんだぞ! 分かっているのか!」
「分かっている! だがそんなこと我輩には関係のない話だ!」
ヒロの中でこの怪人は「悪」と判断された。そう急に退いてもらわねば間違いなくここの全員が死ぬ。
「今すぐここから立ち去ってもらおうか!」
「嫌だと言ったら?」
嫌だといったら……自分の大好きなヒーローだってこう言うに決まっている。
「全力でお前を止める」
きっとここの人間は誰も怪人に立ち向かおうとしないだろう。だから自分が止めなくては。そんな気持ちがヒロにはあった。
怪人は、一歩、また一歩とヒロに近づく。そして、ヒロの胸ぐらを掴み、思いっきり握りこぶしで殴った。
「人間風情がいい気になるんじゃない!」
ヒロは左腕から血飛沫を上げ、その場に倒れる。ヒロの視界には怪人の顔が見え、段々くすんでいく。そして、ついに視界が真っ暗になるかと思った時、突然ヒロの視界が鮮明になった。
「この程度……かすり傷だァァッ!」
怪人に殴られたショックからヒロは血に染まった左腕を抱えて起き上がる。血にまみれたその瞳は紅く、紅くただ怪人を見つめていた。まるで鬼のように。
ケンジがヒロの後を追いかけて走ってきた。そして、ヒロに向かって叫んだ。
「石野! 何やってんだよ! 早く逃げるぞ! じゃねぇと」
「じゃねぇと死ぬって言うつもりか!」
ケンジの言葉はすぐさまヒロに遮られた。
「ああそうだよ! お前死ぬぞ! そんな化け物相手に素人のお前が勝てるわけねぇよ!」
ケンジは最初から諦めていた。怪人相手に装備もない人間が勝った試しがないからだ。それは、特撮ヒーローの世界でも、現実でも同じ。きっとヒロはこのまま戦えば死ぬ。そう確信していたのだ。
「馬鹿野郎が……この馬鹿野郎がぁぁッ!」
突然ヒロはケンジに怒鳴った。ヒロの魂からの叫びだ。
「お前は……お前はヒーローから何を学んだんだ!」
ケンジは尻餅をつき、信じられないものを見る目でヒロを見つめていた。
「ヒーローってのは……何かを守るために戦う! 平和を汚すものを許さない! そして、絶対に逃げ出さないし諦めない! だから俺は戦う! 命燃え尽きるまで!」
ケンジは驚いた。そんなヒーローみたいな事を現実で言い出す奴がこの世界にいることが衝撃でならなかった。いや、ヒーローに憧れ続けたヒロだからこその言葉なのだろう。
ケンジは小さい頃から、ヒーローが大好きだった。テレビで戦うヒーローに憧れた。なりたいと思った。そんな時期もあった。
しかし、時代はヒーローを必要としない。自分はヒーローになれない。それ以上に、この世界はヒーローが介入する隙のないほど窮屈なところだった。
ケンジは小学校へ行く頃にはヒーローなんて夢に憧れる事はなくなり、ヒーロー番組を作る人になりたいと思った。それが現実的で真っ当な夢だったし、周囲も理解してくれた。
その夢を目指すために、ヒーロー番組を見漁り、知識を溜めた。ストーリーだけでなく、監督や脚本家、演者やスーツアクターの名前を覚え、それぞれの作品に対する理解を深め、夢のために突っ走ってきたのだ。
しかし、そうやってヒーロー番組にのめりこむ内に大事なものを失った。作品に対する「愛」はある。でもヒーローに対する「愛」はどこかへと消え失せた。ヒロがケンジ以上に持っているものだ。
歪んだ感情でヒーロー番組を見ていたせいで、ヒーロー番組の持つ「メッセージ」を汲み取れずにいたことにケンジは全く気付かなかったのだ。
ヒーロー番組の持つ「メッセージ」、それは「いつまでもヒーローのような勇気と優しさを持った人間になること」そして「ヒーローのように誰かを守り、誰かを笑顔にできる人間になること」である。
ケンジはどうだろうか。特撮知識の乏しいヒロを「にわか」と罵ったケンジがヒーロー番組のメッセージを受けた人間であると思えるだろうか。
ケンジはそのことに気付かされた。ヒロは意識的にヒーローをやっていたのだ。ヒーローのような人間に憧れているから。そして、ヒロの闘う姿を見て、自分もそうありたいと思った。
「なぁ、ヒロ。」
ケンジはヒロに問いかける。
「俺も、今からヒーローになれるか?」
ヒロは少し考えてからケンジに微笑み、口を開いた。
「当たり前だろ、その気があって、少しの勇気さえあれば誰だってヒーローだ。勿論、ケンジもな」
ヒロはケンジに手を差し伸べる。ケンジはヒロの手を握って立ち上がり、冗談交じりに言った。
「ほんの少しの勇気があれば、誰だってヒーローか。また懐かしい特撮のセリフ出してきやがって」
「好きなんだよ、俺は。ヒーローがさ」
「なんだ……これ」
本来トイレで用を足すはずだったケンジはその場でちびった。ヒロはそんなケンジにお構いなく、皆にこの場から立ち去るよう促す。
生徒は一目散に逃げ出し、二人も後に続いた。
逃げている間、何個も大穴を発見した。そこにもやはり真っ赤な生徒が横たわっていた。ケンジはそれを見るたび、目を伏せていた。
「やはり原因はあの銀ピカか!」
ヒロは、逃げ道として通っていた廊下から離脱し、廊下に隣接する教室の中へ飛び込む。そして、今いる場所が二階だということを確認したヒロは、何もためらわずに窓から飛び降りた。
それを見たケンジは、ヒロを追いかけるように、教室へ離脱し、窓から飛び降りた。
飛び降りた先から、200メートルほど走った先に例の不審者はいた。ヒロは、不審者の前で立ち止まると、不審者に向かって叫んだ。
「お前、何者だ!」
その声に気付いた不審者はヒロの方を向き、言葉を発した。
「我輩は鉄神ギャング三番行動隊長! ガ・ゴーンだ!」
ガ・ゴーンと名乗る怪人は、ヒロに歩み寄る。ヒロは怪人に近寄られても怖がらずに怪人に問い続ける。
「何のためにここを攻撃した!」
「暇つぶしだ!」
「何……暇つぶしだと……?」
一瞬、怪人の言ったことが理解できなかった。
「暇つぶしのために何人もの人が死んでいるんだぞ! 分かっているのか!」
「分かっている! だがそんなこと我輩には関係のない話だ!」
ヒロの中でこの怪人は「悪」と判断された。そう急に退いてもらわねば間違いなくここの全員が死ぬ。
「今すぐここから立ち去ってもらおうか!」
「嫌だと言ったら?」
嫌だといったら……自分の大好きなヒーローだってこう言うに決まっている。
「全力でお前を止める」
きっとここの人間は誰も怪人に立ち向かおうとしないだろう。だから自分が止めなくては。そんな気持ちがヒロにはあった。
怪人は、一歩、また一歩とヒロに近づく。そして、ヒロの胸ぐらを掴み、思いっきり握りこぶしで殴った。
「人間風情がいい気になるんじゃない!」
ヒロは左腕から血飛沫を上げ、その場に倒れる。ヒロの視界には怪人の顔が見え、段々くすんでいく。そして、ついに視界が真っ暗になるかと思った時、突然ヒロの視界が鮮明になった。
「この程度……かすり傷だァァッ!」
怪人に殴られたショックからヒロは血に染まった左腕を抱えて起き上がる。血にまみれたその瞳は紅く、紅くただ怪人を見つめていた。まるで鬼のように。
ケンジがヒロの後を追いかけて走ってきた。そして、ヒロに向かって叫んだ。
「石野! 何やってんだよ! 早く逃げるぞ! じゃねぇと」
「じゃねぇと死ぬって言うつもりか!」
ケンジの言葉はすぐさまヒロに遮られた。
「ああそうだよ! お前死ぬぞ! そんな化け物相手に素人のお前が勝てるわけねぇよ!」
ケンジは最初から諦めていた。怪人相手に装備もない人間が勝った試しがないからだ。それは、特撮ヒーローの世界でも、現実でも同じ。きっとヒロはこのまま戦えば死ぬ。そう確信していたのだ。
「馬鹿野郎が……この馬鹿野郎がぁぁッ!」
突然ヒロはケンジに怒鳴った。ヒロの魂からの叫びだ。
「お前は……お前はヒーローから何を学んだんだ!」
ケンジは尻餅をつき、信じられないものを見る目でヒロを見つめていた。
「ヒーローってのは……何かを守るために戦う! 平和を汚すものを許さない! そして、絶対に逃げ出さないし諦めない! だから俺は戦う! 命燃え尽きるまで!」
ケンジは驚いた。そんなヒーローみたいな事を現実で言い出す奴がこの世界にいることが衝撃でならなかった。いや、ヒーローに憧れ続けたヒロだからこその言葉なのだろう。
ケンジは小さい頃から、ヒーローが大好きだった。テレビで戦うヒーローに憧れた。なりたいと思った。そんな時期もあった。
しかし、時代はヒーローを必要としない。自分はヒーローになれない。それ以上に、この世界はヒーローが介入する隙のないほど窮屈なところだった。
ケンジは小学校へ行く頃にはヒーローなんて夢に憧れる事はなくなり、ヒーロー番組を作る人になりたいと思った。それが現実的で真っ当な夢だったし、周囲も理解してくれた。
その夢を目指すために、ヒーロー番組を見漁り、知識を溜めた。ストーリーだけでなく、監督や脚本家、演者やスーツアクターの名前を覚え、それぞれの作品に対する理解を深め、夢のために突っ走ってきたのだ。
しかし、そうやってヒーロー番組にのめりこむ内に大事なものを失った。作品に対する「愛」はある。でもヒーローに対する「愛」はどこかへと消え失せた。ヒロがケンジ以上に持っているものだ。
歪んだ感情でヒーロー番組を見ていたせいで、ヒーロー番組の持つ「メッセージ」を汲み取れずにいたことにケンジは全く気付かなかったのだ。
ヒーロー番組の持つ「メッセージ」、それは「いつまでもヒーローのような勇気と優しさを持った人間になること」そして「ヒーローのように誰かを守り、誰かを笑顔にできる人間になること」である。
ケンジはどうだろうか。特撮知識の乏しいヒロを「にわか」と罵ったケンジがヒーロー番組のメッセージを受けた人間であると思えるだろうか。
ケンジはそのことに気付かされた。ヒロは意識的にヒーローをやっていたのだ。ヒーローのような人間に憧れているから。そして、ヒロの闘う姿を見て、自分もそうありたいと思った。
「なぁ、ヒロ。」
ケンジはヒロに問いかける。
「俺も、今からヒーローになれるか?」
ヒロは少し考えてからケンジに微笑み、口を開いた。
「当たり前だろ、その気があって、少しの勇気さえあれば誰だってヒーローだ。勿論、ケンジもな」
ヒロはケンジに手を差し伸べる。ケンジはヒロの手を握って立ち上がり、冗談交じりに言った。
「ほんの少しの勇気があれば、誰だってヒーローか。また懐かしい特撮のセリフ出してきやがって」
「好きなんだよ、俺は。ヒーローがさ」
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