チャプター1:運命の出会い
小さな頃から、「ヒーロー」という存在に憧れていた。テレビの中で悪と戦うヒーローを見ては、いつかこんな大人になりたいと思って生きてきた。
誰かのために走り、誰かの笑顔を守るために戦う。そんな人間の生き様に惚れた。
いつしか、俺はヒーローのファンになっていた。毎年苦境の中で叫びながら剣を振るうヒーロー。逆境の中、死を覚悟して走るヒーロー。自分の使命を信じてただひたすら戦うヒーロー。その全てを眺めながら、やはりヒーローみたいなカッコいい人間になりたいと思うのだった。
月日は流れ、俺は小学生から中学生になり、今は高校生だ。それでも、ヒーローに対する気持ちは変わらない。たとえヒーローの存在が空想の存在であっても、嘘であっても、それでも俺は誰かを守るヒーローになりたかった。
でも、時代はヒーローを必要としなかった。平和を唱え、武力はいらないとされるこの時代にヒーローは時代遅れだったのだ。
でも俺は何故か自信があった。「自分は未来のヒーロー」であると。
桜が満開になる季節といえば春である。桜並木の奥にある公立高校「県立原潮高校」では今日、入学式が行われている。
新品のセーラー服に身を包み、はにかむかわいらしい女子生徒や、学ランをキメてニヤリと笑う男子生徒を始めとし、300人もの新高校生が校舎前の広場に集まった。
300人も人がいればその中で異彩を放つ者も当然いるわけで、この男「間(はざま)ケンジ」はこの中でも指折りの異端児であろう。
常時学ランのポケットに手をいれ、ウロウロと辺りを徘徊する彼を誰もが不思議そうに見ただろう。彼の目は何かを探すハンターのようで、その目を見た生徒は二度と振り返ることはなかった。
そして、もう一人異彩を放つ者がいた。その名も「石野(いしの)ヒロ」。彼は、一人ベンチに座って曇りのない晴れた空を見上げ、呟いた。
「綺麗な空……」
そんな彼の哀愁漂う姿を見た生徒達は、反応に困り、絶対に話しかけなかった。
「目に染みるか? 石野」
誰もヒロに関わろうとしない中、ヒロに突然話しかける人がいた。ケンジだ。
ケンジは何故ヒロに目に染みるだろうと聞いたのだろうか。実はケンジは大の特撮オタク、それも最近流行りの特撮クラスタだ。
小さい頃から特撮ヒーローが大好きで、将来の夢は特撮番組の脚本家である。ケンジ曰く、「俺が特撮界を盛り上げなくて誰が盛り上げる?」だそうだ。なかなかの自信家である。
そんな特撮オタクだからこその発言なのだ。つまり、目に染みるのは特撮のネタである。
「アンタ誰?」
ヒロはケンジと全く会話した事がない。ケンジはヒロとの最初の会話が特撮ネタだったのである。
「俺は、間ケンジ。よろしく」
ケンジは自己紹介をし、さっきの話の続きをしようとヒロの隣に腰掛けた。
「俺さ、ヒーロー好きなのよ。石野もそうなんじゃないのか?」
ケンジはヒロの趣味を当てようとした。ケンジは自分と同類の人間を見分ける感覚が備わっている。決して超能力ではなく、長年特撮オタクをやって身に付けたものだ。
「奇遇、俺もそう」
ヒロは驚きを隠しながら、ケンジに返した。ヒロもケンジ同様、ヒーローが大好きである。小さい頃からヒーロー番組を見て育ったヒロはいつしかヒーローのようなカッコいい人間になりたいと思うようになっていた。
「でさぁ、どういう作品が好きなわけ? 俺はさぁ……」
ケンジは突然語り始めた。ヒロは困惑した。まったく話が分からないのだ。スーツアクターが分からない、脚本家で作品が決まるなんて知らない、縁者なんて誰一人名前を覚えていない。ただテレビの前で、ヒーローを見て、ヒーローのような人間に憧れているようなヒロには全く分からない未知の語りなのだ。
「あのさ……全然わかんない」
ついに、耐えられなくなったヒロはケンジに話を止めるように申し出た。
「あぁぁ?」
ヒーローが好きと言った人間だったからこそ、期待して語ったのに全然理解してもらえない事にケンジは憤慨した。
「お前、ヒーローが好きなくせして、スーアクも脚本も分かんねぇの? にわかかぁ?」
にわかの意味は分からなかったが、ヒロはケンジが何を言いたいのかがよく分かった。要するに、「お前なんてファンじゃない」と言いたいのだ。
「にわかがヒーロー好きとか言うんじゃねぇよ! 分かってんだろうな?」
ケンジがしつこく挑発してくる。ヒロはただじっとケンジの挑発を聞いていたが、ついに我慢がならなくなった。
「にわかで結構」
ヒロは挑発してくるケンジに対して、立った一言告げて、その場から立ち去った。
それ以来、ヒロとケンジは話すことはなく、一週間が過ぎた。ケンジには数人友達ができ、ヒロは相変わらず一人でいた。そのヒロのさびしそうな姿を誰もが見て見ぬフリをした。
ヒロはよく休み時間になるとトイレに駆け込む。そして、用を足した後、トイレの窓から、外の景色を眺める事がある。
今日もそうやって、外を眺めていると校庭に妙なものを見つけた。等身大ぐらいだろうか。銀ピカの人が徘徊しているのだ。
ヒロは目を凝らして銀ピカを見つめる。顔は仮面を付けているようでよく分からないが、とりあえず言える事は仮面の中央にびしっと引かれた黄緑色の太い線が特徴である。
肩と胸にはパットのようなものが入っているのだろうか。妙な膨らみがある。ここにも黄緑色の太い線が見える。
後、特徴として述べられるのはやはり手に持った巨大な銃だ。あの不審者は銃を持っているのだ。
「へぇ、学校でロケやるのね」
ヒロはそうぼやいた。しかし、よく考えてみて欲しい。こんな唐突にロケが来るだろうか。
「んな訳ねぇだろ、アホにわか」
後ろからケンジがやってきて、ヒロに突っかかった。
「よく見てみろ、ロケなら俺たちでも分かるくらいに照明さんの鏡が見えるはずだし、なによりデカい撮影用カメラが目立つはずだぜ? 他にも監督やマネージャー、縁者だってこの場にいるはずだ。そもそも、ロケバスはどこだよ?」
ケンジの言う事がもっともである。あまりの博識さに、苛立ってはいたがヒロは黙ってケンジの話を聞いていた。
「つまりあの銀ピカは、マジモンの不審者って訳だ」
ケンジはそう言ったとき、トイレの外から悲鳴が聞えた。慌てて二人はトイレから出る。
誰かのために走り、誰かの笑顔を守るために戦う。そんな人間の生き様に惚れた。
いつしか、俺はヒーローのファンになっていた。毎年苦境の中で叫びながら剣を振るうヒーロー。逆境の中、死を覚悟して走るヒーロー。自分の使命を信じてただひたすら戦うヒーロー。その全てを眺めながら、やはりヒーローみたいなカッコいい人間になりたいと思うのだった。
月日は流れ、俺は小学生から中学生になり、今は高校生だ。それでも、ヒーローに対する気持ちは変わらない。たとえヒーローの存在が空想の存在であっても、嘘であっても、それでも俺は誰かを守るヒーローになりたかった。
でも、時代はヒーローを必要としなかった。平和を唱え、武力はいらないとされるこの時代にヒーローは時代遅れだったのだ。
でも俺は何故か自信があった。「自分は未来のヒーロー」であると。
桜が満開になる季節といえば春である。桜並木の奥にある公立高校「県立原潮高校」では今日、入学式が行われている。
新品のセーラー服に身を包み、はにかむかわいらしい女子生徒や、学ランをキメてニヤリと笑う男子生徒を始めとし、300人もの新高校生が校舎前の広場に集まった。
300人も人がいればその中で異彩を放つ者も当然いるわけで、この男「間(はざま)ケンジ」はこの中でも指折りの異端児であろう。
常時学ランのポケットに手をいれ、ウロウロと辺りを徘徊する彼を誰もが不思議そうに見ただろう。彼の目は何かを探すハンターのようで、その目を見た生徒は二度と振り返ることはなかった。
そして、もう一人異彩を放つ者がいた。その名も「石野(いしの)ヒロ」。彼は、一人ベンチに座って曇りのない晴れた空を見上げ、呟いた。
「綺麗な空……」
そんな彼の哀愁漂う姿を見た生徒達は、反応に困り、絶対に話しかけなかった。
「目に染みるか? 石野」
誰もヒロに関わろうとしない中、ヒロに突然話しかける人がいた。ケンジだ。
ケンジは何故ヒロに目に染みるだろうと聞いたのだろうか。実はケンジは大の特撮オタク、それも最近流行りの特撮クラスタだ。
小さい頃から特撮ヒーローが大好きで、将来の夢は特撮番組の脚本家である。ケンジ曰く、「俺が特撮界を盛り上げなくて誰が盛り上げる?」だそうだ。なかなかの自信家である。
そんな特撮オタクだからこその発言なのだ。つまり、目に染みるのは特撮のネタである。
「アンタ誰?」
ヒロはケンジと全く会話した事がない。ケンジはヒロとの最初の会話が特撮ネタだったのである。
「俺は、間ケンジ。よろしく」
ケンジは自己紹介をし、さっきの話の続きをしようとヒロの隣に腰掛けた。
「俺さ、ヒーロー好きなのよ。石野もそうなんじゃないのか?」
ケンジはヒロの趣味を当てようとした。ケンジは自分と同類の人間を見分ける感覚が備わっている。決して超能力ではなく、長年特撮オタクをやって身に付けたものだ。
「奇遇、俺もそう」
ヒロは驚きを隠しながら、ケンジに返した。ヒロもケンジ同様、ヒーローが大好きである。小さい頃からヒーロー番組を見て育ったヒロはいつしかヒーローのようなカッコいい人間になりたいと思うようになっていた。
「でさぁ、どういう作品が好きなわけ? 俺はさぁ……」
ケンジは突然語り始めた。ヒロは困惑した。まったく話が分からないのだ。スーツアクターが分からない、脚本家で作品が決まるなんて知らない、縁者なんて誰一人名前を覚えていない。ただテレビの前で、ヒーローを見て、ヒーローのような人間に憧れているようなヒロには全く分からない未知の語りなのだ。
「あのさ……全然わかんない」
ついに、耐えられなくなったヒロはケンジに話を止めるように申し出た。
「あぁぁ?」
ヒーローが好きと言った人間だったからこそ、期待して語ったのに全然理解してもらえない事にケンジは憤慨した。
「お前、ヒーローが好きなくせして、スーアクも脚本も分かんねぇの? にわかかぁ?」
にわかの意味は分からなかったが、ヒロはケンジが何を言いたいのかがよく分かった。要するに、「お前なんてファンじゃない」と言いたいのだ。
「にわかがヒーロー好きとか言うんじゃねぇよ! 分かってんだろうな?」
ケンジがしつこく挑発してくる。ヒロはただじっとケンジの挑発を聞いていたが、ついに我慢がならなくなった。
「にわかで結構」
ヒロは挑発してくるケンジに対して、立った一言告げて、その場から立ち去った。
それ以来、ヒロとケンジは話すことはなく、一週間が過ぎた。ケンジには数人友達ができ、ヒロは相変わらず一人でいた。そのヒロのさびしそうな姿を誰もが見て見ぬフリをした。
ヒロはよく休み時間になるとトイレに駆け込む。そして、用を足した後、トイレの窓から、外の景色を眺める事がある。
今日もそうやって、外を眺めていると校庭に妙なものを見つけた。等身大ぐらいだろうか。銀ピカの人が徘徊しているのだ。
ヒロは目を凝らして銀ピカを見つめる。顔は仮面を付けているようでよく分からないが、とりあえず言える事は仮面の中央にびしっと引かれた黄緑色の太い線が特徴である。
肩と胸にはパットのようなものが入っているのだろうか。妙な膨らみがある。ここにも黄緑色の太い線が見える。
後、特徴として述べられるのはやはり手に持った巨大な銃だ。あの不審者は銃を持っているのだ。
「へぇ、学校でロケやるのね」
ヒロはそうぼやいた。しかし、よく考えてみて欲しい。こんな唐突にロケが来るだろうか。
「んな訳ねぇだろ、アホにわか」
後ろからケンジがやってきて、ヒロに突っかかった。
「よく見てみろ、ロケなら俺たちでも分かるくらいに照明さんの鏡が見えるはずだし、なによりデカい撮影用カメラが目立つはずだぜ? 他にも監督やマネージャー、縁者だってこの場にいるはずだ。そもそも、ロケバスはどこだよ?」
ケンジの言う事がもっともである。あまりの博識さに、苛立ってはいたがヒロは黙ってケンジの話を聞いていた。
「つまりあの銀ピカは、マジモンの不審者って訳だ」
ケンジはそう言ったとき、トイレの外から悲鳴が聞えた。慌てて二人はトイレから出る。
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