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狂い咲き

ジャンル: 異世界(恋愛) 作者: saran
目次

禁断の扉

この街には、決して開けられない扉があった。
開けてはならないと、誰もがそう教わって生きてくる。



もう何年も、おそらく何十年も前からあるに違いない。



しかし誰も、その扉の向こうを知らないー・・・


「ひなの・・・ひなの!大丈夫?!」


頭がぼうっとする。

あれ、何?何だっけ・・・?
何か、呼ばれてる。


「あんた、酒飲めなかったよね?コレあたしの焼酎だよっ」

「えーっ、ひなの間違って飲んだの?バカなの?!」

「とりあえず水!すいませーん、水くださーい!」



今日はせっかくの休日。友人との付き合いで、居酒屋にやってきた。
いつもお茶やイチゴミルクを飲むのに。

私、まちがって梨夕(りゆ)のグラス飲んじゃったんだ・・・



なんてバカなの。
こんなにお酒弱いくせに。


「う・・・」

「気持ち悪い?吐く?」

「なんか・・・クラクラ・・・する」




それからのことは、もうほとんど覚えていない。
面倒見の良い梨夕が、私を引き受けてくれて送ってくれたと思う。


アパートの階段下で別れた頃には、目を開けて意識を保てるくらいには回復していた。


「はぁ・・・何やってんだろ・・・」



ひなのは、弥之亥(やのい)とかかれた表札前で立ち止まる。


私はこのアパートで一人暮らしをしている、20歳。

童顔に見合ってか、お酒は飲めません。

なのにこんなことになって。
気持ち悪くて死にそう。


とにかく家の鍵を出そうと、鞄をまさぐった。


「・・・」


・・・


・・・ない。


「えっ?うそ・・・」



小さなポシェットだもの、見つからないはずはない。

あれ、もしかしてお財布出した時に、お店のテーブルに置いてきた・・・?

やだ、覚えてない・・・


うわぁ・・・とりあえず、戻らなきゃ・・・


携帯の充電は切れているし、梨夕に連絡もできない。
とことんツイてない。

泣きそうになりながら、私はなんとか来た道を戻って行った。




ゴーン・・・ゴーン・・・と、鈍い鐘の音がどこからか響き渡ってくる。


まずい。ひなのは時計を見ると、夜中の12時になる30分前を確認した。


・・・これは、本当にまずい。
なんとしても12時までには帰らなければ。



・・・この街には、禁断の扉ともう一つ・・・
恐ろしい決まりがあるのだ。


街の明かりが消えていく。
店という店は、全て12時ぴったりには閉まってしまうのだ。
まるで、何かの瞬間に備えるかのようにー・・・


・・・この街がおかしいか、なんて。そんなことは考えたことない。
だって、この街しかしらないもの。


ひなのは、おぼつく足で闊歩した。
走りたいのに、フラついてまるで走れない。絶対転ぶ。


・・・

しかし。



人気のない通りを曲がったその瞬間だった。

なぜか、本当になぜか分からないが意識がはっきりとした。

完全に、肺に入る空気が変わったかのようなー・・・

冷たい空気が脳に入って、地を踏む足もしっかりした。



「な・・・に」



突然のその変化に、ひなのは夜道に目を走らせた。


いや、待って。まだ12時は回っていない。


その原因はすぐに分かった。
ひなのの少し前を、一人の男が歩いている。

しなやかに、静かに、そして・・・なぜか恐ろしいくらいに冷たい足音で。


なぜかわからないが、この空気はその男がまとっている。
直感がそんなことを言っている気がした。





一直線に向かうその先には、あの扉が見えて、ひなのはハッと息を飲んだ。



あれ、うそ。禁断の扉ってこんなところにあったっけ・・・
表神社の森にあるって聞いてたのにー・・・


あぁ、そういえば。
夜な夜な扉が移動するって話も、聞いたことがあるっけ。



・・・待って、あの人扉に近づいてる・・・!



ひなのの前を歩く男は短い銀髪・・・いや、白髪なのか?

細い髪をサラサラなびかせながら、なんと扉に向かっていくではないか。
周りには、人っ子一人いない。



ひなのは、とっさに走り出した。

逃げ出したわけではなく、男の背に向かって走った。



・・・こんな時、勇気も何もないじゃない?
あの人、あの扉を開けようとしているんだもの!!




その足音に、男はゆっくりと振り返ったが、その瞬間ひなのは彼の体に両手を回すと、力一杯引き止めた。


「ダメです!その扉、開けたらダメ!!」



自分でもびっくりするほど、大きな声が出た。
いや、人気がないせいで、よく響いたのかもしれない。


「シッ!」


男は人差し指を口に当てると、黙れと合図をしてきた。
そして思わず飛びついた体を、引き離される。


「あ、ご、ごめんなさい」


その時、ひなのは男の顔をしっかりと見た。


・・・え。



すごく綺麗な人。
その瞳は髪と同じく色素が薄く、顔も白く薄い唇は紫がかっている。


何、この人。何だろう、普通じゃない。



「・・・あの、突然すみませんでした。でもその扉、開けてはいけないと決められているんです」


もしかしたら、いやもしかしなくても、この街の人じゃないのだろう。

そう思った。


「それに、12時過ぎて外を歩いていてもダメなんです。だからっ・・・」

「はぁ~~・・・」



ひなのの必死な説得を、男の長いため息が遮った。



「君こそ、危ないんじゃない。今は何もしないから、早く帰った方がいいよ」



冷たい見た目と裏腹に、その口調は一般の青年のようだ。

お主、口を慎まぬか。

そんなことを言いだしそうな顔してるのに。


「はい、私もすぐに帰ります」


・・・なんか、余計なことしちゃったかな。


それより・・・



今は何もしないって、今言わなかった・・・?



「さ、行って行って」


男はそれだけ言い残すと、迷うことなくまた扉に向かっていった。
ひなのは、目が反らせなかった。


男は振り返ることなく、扉を開け放った。


・・・うそ。



・・・うそ。あの人、開けた・・・!!!
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