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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
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揃った4人

「へえ、いい勘してるね、隊長さんは。マックス(仮名)と呼ばれていた時期もあったな。ま、本当の名前なんてとうに忘れたがな」
「……なに?」
「ケイン・マッドハウスだっけか、あんたの幼なじみは」
「なぜケインを知っている?」
「なぜって。それは野暮な質問ってもんだよ。ケインの能力のもととなっているのは誰の能力だと思う? 俺たちの一族だよ。それを、エレインという女は勝手に人に与えてしまった。本来の継承法ではない方法でね。一族の掟でね、偽物が我が物顔で生き続けているのはしゃくでね。処分しようってなったんだけど、なかなかみつけられなくてね。そこで、弟君のクロード・ウィザース少佐に近づいてはみたんだが、どうやらハズレだったようなんだ。まったく、人間風情が高貴な我々にたてつくとは。でだ。ケインに接触したもうひとりの人物、人間の少女にご登場願おうと思ったんだけどね……」
「……っう。やはり、目的はシャールか!」
「おっと、勘違いはしないでくれよ? こちらとしては丁重にお招きして紳士的に訊ねようとしていたんだよ。それをだな……」
 マックス(仮名)は顔を歪め、唇を噛みしめる。
 かなり強く噛みしめたようで、唇から糸のような血が流れだした。
 それを舌なめずりする姿は、別の意味で異様で、そして化け物と呼ぶにふさわしいものだった。
 作り物の擬神兵など比べものにならないほどに。
 持って生まれたもの、人ではない資質、とうてい人では適わない存在。
 存在するだけで勝者。
 ハンクは目の前の男が何者なのかを悟った。
 構えていた手をおろす。
 それを見たマックス(仮名)は驚きの表情を見せた。
 目を見開き、ハンクの心の中をも見ようとしているように感じさせる眼差し。
 ハンクはそんな視線に晒されながらも動じずに、まっすぐマックス(仮名)を見た。
「ほう。なかなか。おまえは俺が何者か、察したようだな。まがい物ではあるが、敬意をしめそう。俺としては血を流すような戦いは裂けたい。だって勿体ないだろう? 血を流すなんてさ。ここはお互い、話し合いでことを片づけたいのだが。どうだろうか」
 マックス(仮名)は闇の中でも光り輝く金色の目を細めた。
 口元は血の色のように赤く、そして素肌は透き通るように白い。
 細身でありながら、裸体はそれなりに鍛え吹かれた肉体美であることは、立ち姿から想像できる。
「履歴の写真とは雰囲気が違うな」
「あれは、人間の姿に似せていたにすぎない。これが本来の姿だ。これでもね、人の姿とそう変わらないと思うんだけどね」
 とは言っても、やはり白銀の髪に金色の目では目立つ過ぎる。
「そうだな。普通にしていればそれほど違ってはいないだろうが、潜り込むには不向きだ」
「あ、それそれ。そうなんだよ」
 マックス(仮名)は意外と気さくな性格らしく、ハンクに敵意がなく戦う意志もないとわかると、さらにその性格が表に出て行く。

 そこに。

「ハンクさん!」
 とシャールの声が響き、
「ハンク、下がって!」
 と銃を構えたライザが登場した。

「シャール? ライザ! ま、待て。撃つな!」
 ハンクはマックス(仮名)とライザの射程内を阻むように立ちはだかった。
 その行動にシャールは「ハンクさん。なにをしているんですか!」と叫び、ライフルを構える。
「どきなさい、ハンク。気でも狂ったの?」
 ライザはトリガーにかけている指先に力を入れた。
「待て。話を聞け。彼……マックス(仮名)は敵ではない!」
 マックス(仮名)という言葉に、シャールは銃口を少し下げた。
「マックス(仮名)さん、なんですか? 行方がわからなくなっている」
「ああ、そうだ」
 だがライザはその言葉をすぐには信じなかった。
「嘘を言わないで、ハンク。似ても似つかないじゃない」
「ああ。俺もそう思ったよ。だがな、彼はマックス(仮名)だ」
 ハンクはゆっくりとライザに近づき、銃を下げさせる。
 その一部始終を見ていたマックス(仮名)は拍手をしながら、「ありがとう、ハンク。助かったよ」と言いながら、三人が固まっている場所へと歩みをはじめる。
 近づきながら彼は、
「これが本当の俺の姿ね。潜り込むために人の経歴を借りて姿も借りた。潜り込んだ目的はクロード・ウィザース少佐に近づきたかったから。理由は、俺もケイン・マッドハウスを追っているから、行動を共にしていた方が都合がいいと思って。まあ、本音は、彼からケインの居場所を聞き出すためだったんだけど。兄弟だっていうのに、こんなにまで仲がこじれているとは思わなかったよ」
 と説明をした。
 言い終えたところで、シャールの前で膝をつく。
「どうもはじめまして、シャール嬢。実名は明かせないのでマックス(仮名)ということでお願いしておきたいのだけど、いいだろうか?」
 その様子は騎士や紳士が女性に敬意を賞する時の仕草。
 軽く手を取り、手の甲に接吻。
 演技ではなく、その行為自体がしなやかで慣れている。
 生まれながらの王子といっても通じるほどだった。
 敵意を抱くライザでさえ目を奪われてしまう光景。
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