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赦されざる者たちは霧の中に

原作: その他 (原作:かつて神だった獣たちへ) 作者: 十五穀米
目次

ライザの心境

「ライザ。彼は敵ではない。信じろとは言わないが、ひとまず俺のことだけは信じてほしい」
 そうまで言われては引くしかない。
「いいわ。ここはあなたをたてておきましょう。貸し、ひとつってことで」

※※※

 ライザは渋々承諾したという感じだが、シャールは不思議と自然にマックス(仮名)
嘘を言っていないように感じ、自分の意志で彼を受け入れたところがあった。
 もちろんハンクが許容しているのだから安全だという理由もあるのだが、彼の金色の瞳の奥に信念や情のようなものを見たような気がした。
 父が擬神兵となり人の姿に戻ることができなくなっていたままで再会した時と同じような情を感じたいえばいいだろうか。
「場所を移ろう」
 ハンクはここに応援兵士が来るからだと説明をした。
「じゃあ、俺の霧の中に隠れようか」
 マックス(仮名)が言うと、
「……え?」
 と、三人が一斉に聞き返した。
「え? そこ、聞き返すところだった?」
 意外だという顔をするマックス(仮名)。
「あのな……」とハンク。
「だって……」とシャール。
「もう、どうなっているのよ。説明しなさい!」と爆発させたのはライザ。
「まあまあ、落ち着いて。とにかく誰にもじゃまされない場所に移動でいいんでしょ? そこを提供するっていってるの。じゃ、行こうか」
 マックス(仮名)が行こうかと言った直後、いままでなかった霧が辺りにたちこめていく。
 隣にいた人の姿をも隠すほどの濃霧に、シャールは手探りで近くにいたはずのハンクを探す。
 だがその霧はすぐに晴れた。
 車内にいたはずの三人は、どこかの洋館の中に立っていたのである。
「はい、到着。ようこそ、俺の別館へ」
 紳士のような立ち振る舞いでマックス(仮名)は言った。

 暖がとれる部屋に案内をされた三人。
 暖炉がその部屋を暖め、そして甘い香りがする。
「お嬢さん方は、こういった甘いお菓子がお好きだよね?」
 どうぞとマックス(仮名)はシャールとライザに勧めながら、適当に座ってよと暖炉の前のソファーへと誘導。
 自分の座る位置は決まっているようで、一番暖炉に近い場所に腰を下ろし、用意されていた紅茶をひと口飲む。
 それら一連の行動を見ていたハンクは、
「人の食事はしないものだと思っていたが」
 と珍しいものを見させてもらったというような口振りで言う。
 シャールとライザは「なにをいっているの?」という顔をしていた。
 ツッコミを入れられたマックス(仮名)は、やれやれ面倒だなというような仕草をしてから、体を少しだけ前屈みにしてハンクの問いに返す。
「しないんじゃなくて、別に無理して食べなくてもいいってだけのこと。俺たちにとっては無味無臭に近い。だが人の世界に紛れて暮らしていくうちに、これはこれでなかなか美味かもしれないと感じられるようになる同士はいる。俺の場合はまだ若いし、人の世界での暮らしが短いから、なにも感じないけどね。人と関わりを持つために必要ならおいしそうに食べるってことくらいはできるよ。まあ、暖かいものを口にすれば暖かいし、その逆もまあそれなりに。刺激的な辛さはダメだったけどね」
 だけど味の保証はするよ……と、三人にもう一度お茶を勧めた。
 ライザはまだ信用しきれずに躊躇しているが、シャールはひと口、紅茶を口に含んで顔をほっこりとした表情にした。
「ちょっとシャール……」
 ライザはあまりにも無防備なシャールが心配でならない。
「大丈夫ですよ、ライザさん。彼は信用できます。たぶんですけど、目的を達成するまで嘘偽りは言わないと思います」
「どうしてそうだと言えるの?」
「だって、瞳の奥が父と同じでしたから……」
「シャール?」
「だって言葉が全てではないですよね? 目は口ほどに物をいうともいいますし。知っていましたか? どんなに姿を変えても目だけは変えられないんですって。私は軍人として紛れ込んでいたマックス(仮名)さんを覚えてはいませんが、今の彼は大丈夫です」
 マックス(仮名)はライザを説得するシャールを興味深く眺めていた。
「きみ、変わっているね。想像していたお嬢さんとは違っていて、実に興味深いよ。俺のこと、不気味って思わないの? 人の食事云々の話で、だいたいのことは想像しているでしょ? お父上が擬神兵で、その姿を見ていたんなら」
「はい。なんとなくは。そして、なんとなくですけど、マックス(仮名)さんの目的もわかったような気がします。全てではないですけれど、ざっくりと私たちと同じ目的ですよね?」
「……まあね。きみから見てあの少佐はどう思う?」
「たぶん、知らないと思います」
「……だよね。そうとわかったからさ、戻そうとしたんだよね。でも……」
 ライザの目には、自分以外はことの状態、マックス(仮名)の目的や素性がわっているのだということは理解できていた。
 ハンクは別にして、なぜシャールにわかるのかが解せない。
 次第にしかめっ面になっていくライザ。
 自分だけ取り残されていく流れの中、とうとうその思いが爆発する。
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