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あらん

ジャンル: その他 作者: ワーク
目次

覆う身体

4階。

窓から電車に乗って帰っていく人達が見える。

僕はその軽い身体で白い廊下を歩く。

人がいない事を確認してトイレに行く。

個室に入り、一息つく

スーと息を吐き、徐々に身体を縮めて床に座る。

目を閉じる、時間が長い、ふわふわと気持ち悪い。

嘔吐くが唾しか出ない。

もう一度嘔吐くがまた唾しか出ない。

鼓動が速くなり、呼吸も速くなる。

誰かがトイレに入って来て、僕は立って口をおさえた。

はぁはぁはぁはぁ

手が濡れて気持ち悪い。

気配がしなくなり、僕は便器に座る。

速く練習に取り掛かろう。弾きマネを逃れられるかもしれない。


練習中、コントラバスの弓を持つ手が震える。


練習が終わり悔しくて立ちこぎでマッハで帰る。

家に帰り、テレビを見ている親に気付かれない様に、静かに自分の部屋をグチャグチャにした。

押し入れから毛布や布団を乱暴に取り出して広げてひとまとめにして殴ったりした。

100均で買った小さい黒い時計は投げやすくて、癇癪を起すと必ず投げていた。

秒針が曲がっていたけど、捨てるまでずっと動いていた。

それから僕は携帯電話を壊してやりたかった。

半分に折ろうとしても折れなかったから、僕は外に出てアスファルトに携帯電話を投げつけた。火花が出た。

何回か投げつけては拾った。ぐちゃぐちゃになった携帯電話を歩きながら、

手で、もっとぐちゃぐちゃにした。

中に内蔵されていた電池は冷たかった。

社宅の階段を上がっていくにつれ、怖くなってきて

布にもぐりこんで、暗い中、冷たい電池を握って目を瞑った。


コンクールが近くなると、プロの演奏家が指導に来る。

その講師は叫びながら物を投げた。誰にも当たらない。

「表現をしろ!なんでわかんねーんだ」

「はい。」と色々な人が低く返事をする。

僕は楽譜に「表現をする」と書く。

どこかからすすり泣いている声が聞こえる。


入学してすぐの馴れ初め合宿でバスが隣りの彼が吹奏楽部に入ると言う。

僕はその時どの部活に入るか決めておらず、でも音楽がしたいという漠然とした思いがあり、彼と吹奏楽部を見学に行く。

吹奏楽部は楽しく音楽が好きであれば大丈夫と顧問や生徒は触込んだ。

僕は勉強が心配だったのでしばらく入部を迷ったが、普通の入部時期から遅れて入部した。

僕が入って1か月後にバスで隣りだった彼は部活に来なくなり、学校にも来なくなる。

次の春には3人の同期生が不登校になっていた。


前の学校の出番が終わって舞台へ歩いていく。

舞台から客席を見ると真っ黒で、上を見るとライトがまぶしい。

指揮者の顧問が礼をし、指揮棒を構え、演奏者も楽器を構える。

指揮が揮われ、演奏が始まる。

始まってすぐ、僕はミスをしてしまう。

周りの様子を窺うが、みんな集中していて、僕のミスなんて気にも留めないようだった。

それと同時に全く集中していない自分に少し引いた。

冷や汗をかきながら、演奏を終え、演奏後も誰にも何も言われなかった。

コンクールの結果は金賞で地区の代表に選ばれた。

みんな大はしゃぎで喜び、騒いでいた。

それに対して、このコンクールで最後の演奏となった人達は悔しくて泣いていた。

解散となったすぐ、僕は一人ですかすかの電車の中を反対方向に歩いて帰った。


地区予選から市予選までは2週間がある。

授業が終わり、3階の自分のクラスの教室から4階に上がる身体が本当に重たい。

一緒のクラスの同期が「俺もつらいよ。でも頑張ろ。」と声をかけてくれる。


市予選の3日前から、僕は部活に行かなくなる。

朝、身体が起きなくなり、親が仕事に出かける音を聞く。

何度か家に電話がかかってくるが、出る事はない。


僕はずっとその調子で、市予選の日が来ても動くことが出来ない。

電話がかかってきて、母に「体調が悪い」と伝える。

また電話がかかってきて、具体的にどう体調が悪いかと聞かれ、「お腹が痛い、熱もある。」と伝える。

次に直接話したいと言われ、母から電話を受けとる。

「来れない?」

結局、僕は説得されて会場に向かう事にするが、もう演奏まで時間がないのは自明で、母が車に乗せてくれたが、1駅分を過ぎた時にはもう会場に向かうのを諦めていた。

母の携帯に電話がかかってきて、コントラバスの先輩が泣いていると聞く。

僕は家に戻り、布団を覆う。


その後、僕は少し体調が良くなってコンビニへ行く。

そのコンビニで吹奏楽部を辞めた同期がレジをうっていた。

「コンクール行かなかったんだ。」

買ったのはアイスだった。


その後の夏休みの間、僕はまた部屋に閉じこもった。

時々、電話が鳴った。が耳を塞いて鳴り止むのをじっと待った。

親が仕事に行ってる時にはテレビを見ていた。


9月2日

僕は朝起きて、制服に着替え、玄関に座ってローファーを履くが

そこから、動けなくなる。

両親が仕事に行った後の事だった。

学校から電話がかかってきたので、体調不良と伝えた。

仕事から帰ってきた母から苦しく言われた。

それでも、数日間、同じ様に動けない。

ある日、父が仕事に行かず私が学校に行くか監視するようになった。
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