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ビムビムの実の能力者の冒険

原作: ONE PIECE 作者: 茶木代とら
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第八話 錯乱

「能力者だったのか?!」
その声を聞いて、女が麦わらの一味のほうを鋭い目でキッと見据えた。麦わら達は思わずたじろいだ。女からすさまじい殺気が伝わってくる。
「うわああ~、頼むからビームだけはやめてくれ~~」
「悪いのはトラ男だ~!おれ達は関係ねえんだ~~」
「許して~」
 …

以前、サンジが「悪魔の実の図鑑」を読んだ時のことを、仲間に話してくれたことがあった。図鑑の中に「ビムビムの実」という悪魔の実が載っていたこと。その実を食べると、なんと目からビームが出せるようになること。
「おお~、そりゃあすげ~な」
この話しに一番興味を示したのはルフィーとチョッパーだった。目をキラキラさせて、怪獣好きの子供のように興奮していた。
「強くなれるのかな~」
「かぁっこいいな~」
「口からは炎も吹けるらしいぜ」
「おおっ、ますますスゲエ~」
 …

女は熱のせいでよろよろしながら立ち上がった。憤怒の形相を崩さぬまま、麦わら達に怒りの言葉を叩き付ける。
「女性を寝室から寝間着のまま公衆の面前に引きずり出すなんてもってのほかよ」
「す、すまなかった…」
「申し訳なかった。確かにスーパー無神経だった」
女はこの時、麦わら達が自分に危害を加えるつもりがないとは言い切れないという事実を、改めて噛みしめていた。さっき、誰かが言った「具合が悪そうだったからやった」という言葉は耳に入っていた。だが、それを信じていいかどうかは分からない。頭の中がくらくらしていた。
多分、具合が悪い事を悟られてはいけなかったのだ。隙があれば、それだけつけいられる。初めは相手にその気がなかったとしても、弱みを見せたら気が変わるかもしれない。そうしたら不意をつかれて襲われて、拘束や監禁される可能性だってある。
そもそも、サニー号に乗り込んだことは、本当に正しかったのだろうか…。考えれば考える程、初めは単なる可能性として浮かび上がった猜疑心が、大きく成長して頭の中に広がっていく。
「一体どういうつもりでこんなことをしたの?」
思考力が変に冴えているような、またはうまく働かずにぼうっとしているような、おかしな感覚だった。女は機関銃のように言葉を重ねた。
「何かたくらんでいるの?誰かに頼まれたの?正直に話しなさい!」
「ほ、本当だ。悪気はなかったんだ~」
「ひええ~~」
(やべえな。すっかり警戒させちまったらしい。こりゃ何とかしねえと、おれ達もただじゃ済まねえか?)
ローは甲板の上に倒れたまま動かない。
麦わらの一同は、女の勢いに恐れおののきながらも、こっそりと仲間同士でアイコンタクトを取り、対策を練った。
(ちょっと様子がおかしかねえか)
(高熱で錯乱してやがるんだ)
(適任はロビンだろうな。ロビン、能力であの女を取り押さえろ。簀巻きにして医療室に放り込むんだ!)
(任せて)

その時、ローの側に転がっていた鬼哭が、振動のある板の上に置いたピンポン玉のように、ひとりでに跳ね上がって甲板の上に真っ直ぐに立った。
「!!」
「!!」
鬼哭は甲板を蹴って、人間であればとんぼ返りするように宙を飛び跳ね、女の近くまで移動して、そこに立った状態で静止した。
その様子を、女は茫然として見ていた。そして、自然に自分のほうに倒れてくる鬼哭を、手のひらで受け止めた。鬼哭はそれ以上動かない。
「トラ男の刀が自分の意思で動いた…?」
麦わらの一味の誰かが、驚きと共につぶやいた。
ゾロは、この日の昼間、鬼哭が何らかの理由で転がったり飛んだりするのを見ている。「つまり、あれはこういうことだったのか?」小さく独り言を言ったが、まだ完全に信じられない部分もある。
女は鬼哭を両手で握り、そのまま鬼哭にすがるように崩れて、甲板に膝をついた。
ナミが女の側にやって来て、静かにささやいた。
「自分で歩けるかしら。さっきの部屋ではなく、医療室に案内するわ」
女はうつむきながらも、その言葉にはっきりと頷いてみせた。

女を医療室のベッドに寝かせて、熱を測ってみると40度以上あった。チョッパーは新たに解熱剤を処方した。
「もう二度とさっきみたいなことはしないから、安心して休むんだ」
チョッパーが言い聞かせると、女は素直にそれに従った。

甲板では、包帯を巻いたローが鬼哭を抱えて座っていた。さっき、自分で怪我の手当てを終えたばかりだった。
チョッパーは「トラ男は自分で手当てできるな。おれはあの人の看病に行く」と、ローの怪我の治療に全く関わらなかった。特別な意図があってのことか、そうでないのかは分からない。
他の連中からも、さんざん非難されて説教を食らった。
「てめえのせいであんなことになったんだぞっ」
「よほど深く傷ついたのでしょうねぇ~。お可哀そうに…」
「無理もねえよな、こんな無神経な奴に手荒に扱われてよ」
「その怪我は自業自得じゃ」
「本当にその通りよっ」
ローは、あの時の女の怒りの激しさと、それに対する仲間からの非難のせいで、すっかり落ち込んでいた。それから鬼哭のことも考えていた。これは、あの女性と出会ってからずっとだった。
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