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岸辺露伴はもうちょっと動け

原作: ジョジョの奇妙な冒険 作者: すずき
目次

なんなんなんなのよ、じゃなくて、なんなんなななんななななんなのよ

こだわりがあるって良い事だと思う?
オレはちょっと疑問だね

こだわりがあるって事は、のっぴきならなくなっちゃうってことなんだ
「どうでもいい」ってわかってる事なのに、こだわりのせいで「どうでもいい」じゃすまなくなる。

どうにでもできた事が、どうにもならなくなったりするんだ

そうすると、物事の行き先が「ある方向」に固定される。ひとつの方向に向かって走り始める。

…オレは思うんだ。運命ってのはそういう風に決まっていくのかも知れないってね


オレは思わず吐き出した

「『なん』がひとつ多いね」

ほんの一瞬、何かがほころんで緩んでしまって、思わずポロリとこぼれ落ちたんだ

そして次の瞬間、あぁ、とオレは思った
言わなきゃいいのに言っちまった

「は?」

って、あの女が──ユカコとかいうヤバそうな女が──言った

『アンタ何なの?アタシにケンカ売ってんの?』

そんな敵意というか攻撃性というか、
そんなオレが日頃関わりたくないと思うモノをたっぷり含んだ声でそう言った

「アンタなんなの?」
「なんなのよそのトゲのある言い方」

「アタシにケンカ売ってんの?」
「初対面でなんなのよその失礼な態度」

矢継ぎ早に言葉を並べ立てできてた。そしてその言葉は、ほら、思った通りのことばかり
なんでこんなに予想通りなのかね

って事は、次に言う言葉も決まってる

次にあの女はこういうのさ



「斎藤清六風に言うと、」




「黙れッ!」

あの女──ユカコが次の言葉を口にしようとしたその瞬間。オレは言葉をねじ込んだ

『斎藤清六風に言うと、なんなんなんなのよ』

ユカコはそういうつもりだったに違いない。

──『なん』が一個多いんだよ
ホントにどうでもいいことだけど──

そしてほんの一瞬、ヤツは言葉を区切ったんだ

『言うと』と『なん』の間
句読点『、』のところ

あそこで言葉を区切った
ほとんど無意識に

『なんなんなんなのよ』を気持ちよく言うために

その一瞬のタメ、その為に開けた無意識の空間

そこにオレは言葉をねじ込んだんだ

意識の隙間に、言葉でカウンターを入れてやった


虚を突かれたユカコは動けず、文字通り言葉を失った


オレは食い止めた
一個多い『なん』をつけられた不格好な斎藤清六を

ざまあみろ、やってやったぜ

ユカコはオレに言葉を奪われた驚きが事態を理解するにつれて屈辱、次第に怒りに変わり、やがて失った言葉のかわりにオレへのさらなる敵意と憎しみを加えた言葉をオレに向かって吐き出した。

「…はぁ?」

スゴい顔で睨むなぁ


最初は「は?」だった

そこに足された言葉が、『…』と『ぁ』
言葉とも言えない言葉、感情を表す言葉
それだけに、そこにこもった敵意と憎しみの濃度が伝わってくる

普段のオレなら、とっとと退散しただろうね
『いやー違うんだよ、ゴメンゴメン。ホント申し訳ないね』
なんて、何に何を謝ってるのかわからない、どうでもいい言葉を並べて
このめんどくさい悪意の矛先を適当にかわして平穏な日常に戻っただろう

けど、斎藤清六へのこだわりが、不思議なほどオレを1つの方向に向かわせる
まるで自分の意思じゃなくて、なにかに乗せられて誰かに運ばれていくように、
勝手に目的地に向かうようにその方向へ進んでいくんだ
まるで坂道を自転車が勝手に降り下りて行くのに似ている

言葉が勝手に次々溢れてきた

「言わなくていい」

「どうせこう言うつもりだったんだろう?」

「『斎藤清六風に言うと、なんなんなんなのよ』」

「『なん』が一個多いんだよッ!」

「そこは『斎藤清六風に言うとなんなんなのよ』だッ!ブス!」

自分でも驚くくらい次々に言葉が出てきた。
オレって本当にこんなヤツだっけ?
自分にそんな違和感を覚えるくらいに

ユカコは、そんな風に戸惑ってるオレに更に追い打ちをかけてきた
やっぱり「そういう方向」にしか向かえないようになってるんだ
オレはこの時、戸惑いながらも、自分の運命をいよいよ確信していた
何かに向かって流されていく自分を感じていたんだ


「はぁ?w」
「何言ってんのアンタ」
「アタシが言おうとしたのはね、

『斎藤清六風に言うと、
なんなんなななんななななんなのよ』

よ」


……

さっきのユカコとは別の意味で、オレは言葉を失った
何を言ってるんだ?コイツは


「それのどこが斎藤清六なんだよ」

ユカコの言葉は、オレのオレじゃないような部分をひどく刺激してくる
ふつふつと、自分の中で何かが沸騰していくような感覚

「これは私のオリジナル」

「普通だったらかぶせで笑いを狙うところよね」

「でもそれってフツウじゃない?」

「『僕はお笑いをわかってますよ』ってアピールしたいヤツがやる、一番当たり前のスタイル
鉄板?違うわね
なんの工夫もヒネリもない、安直な誰かのマネ」

「ダサダサだわ、そんなの」

「私がやったのは、かぶせると見せかけてかぶせない笑い」

「授業中に手を挙げて、起立して先生の質問に答える。そして座る。その瞬間に椅子をずらすのよ」

「当然そこにあるはずと思っていたモノがない
そのハプニング」

「驚き」

「ずっこけ」

「そこから生まれるサプライズな笑い」

「それが私の『なんなんなななんななななんなのよ』よ」

「ずらしていく笑いね」

「アンタにわかる?このセンス」



ああ、なんて女なんだ
言ってる事はそんな大した事じゃないのにこの上から目線

とは言え、相手は十代の女の子
これくらい、まあ、なんだ
別にいんじゃない?

普段のオレならこう思ってたハズなんだ
なのに、やっぱりこの時のオレはなぜかいつもと違って、自分でもドン引きするような言葉を吐き出し続けたんだ

オレは今、何かに捕らえられていて、良くわからない渦の中に巻き込まれていく

巨大な重力に捕まって、少しずつ引っ張られていくような?

それは言ってしまえば、地球の重力に引っ張られて坂道を勝手に降り下りていく自転車のような?

だとしたら、オレは、コンビニに向かって自転車を漕ぎ出したあの時から何かに捕まっていたって事になる

それが何なのかはわからないけどね
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