幻太郎とチョコレート
「げんたろー!じゃますんぜ!」
渋谷の端にある、古民家に大きな声が響き渡った。仕事をしていた幻太郎はその声を聞きつけ、ゆっくりと立ち上がり、のそのそと玄関に向かった。玄関には、ニコニコ笑顔でやけに上機嫌な男が立っていた。
「帝統………来るときは連絡しろと何度も何度も言っているでしょう…。」
幻太郎は不満げな様子で玄関に立つ男に言った。
「へへ!すまねぇな!近くを通ったからよ!」
「はぁ…呆れて言葉も出ません…。」
こんなことを言っているが、幻太郎は帝統がアポ無しで家に来るほど自分を信用してくれていることを嬉しく思っている。言葉には絶対に出さないが。絶対に。顔にも出さまいも幻太郎は呆れたフリを続ける。
「まぁ良いじゃねぇか!!!あ、そうだ……げんたろー!これやるよ!ほらっ」
帝統が幻太郎に小さな物を投げる。
幻太郎は慌てて帝統から『それ』を受け取った。
「ん…?チョコレートですか?どうしたんです?あなた、甘いものなんて食べないでしょう。」
幻太郎は、雑に投げられたものを不思議そうに見つめながら言った。
「賭場の景品で貰ったんだ!俺、甘いもん食わねぇし!げんたろーにやるよ!糖分は頭に良いって聞いたことあるしよ!!」
純朴な満面の笑みが幻太郎に向けられた。
幻太郎はふふっと笑い、高めの声で、
「おや、あなたにもそんな知識があるなんて………驚いたでおじゃぁ〜〜〜」
帝統は顔を膨らませ、不満げな顔をした。
「うるせぇ!馬鹿にすんじゃねぇ!!!」
「あはは、嘘ですよ。嘘。」
もう、定番となりつつあるやり取りが続く。そう、いつものやりとりだ。
「そうかよ。んじゃ、俺、賭場行くから!じゃあな。」
「わかりました。勝てると良いですね。」
「おう!!!」
クスクスと笑う幻太郎と対照的に、ちょっとふてくされた帝統が玄関から出て行った。
幻太郎は帝統とのこの馬鹿げたやり取りが好きだった。こんなくだらない嘘にも付き合ってくれる帝統のことが、なんだかんだ気に入っているのだ。
「あの人懐っこさはどこで手に入れてるんでしょうね…」
正直、24年間〝ダチ〟と呼べるような人が一握りしかいなかった幻太郎には、帝統のような男は不思議でしかなかった。そもそも出会ってからまだ1年も経ってない。それなのに、こんなに心を開くものなのか。
「まぁ、考えても無駄ですよね…」
自嘲気味に幻太郎は小さく呟いた。
そして、んーっと大きく伸びをして作業部屋へと戻っていった。
「それにしても、帝統からプレゼント紛いのものを頂くとは…」(とは言っても、どこにでもある10円のチョコですけど。)
そんな些細なものでも幻太郎には大切に思えるくらい、あの男のことを好んでいるのだ。
幻太郎はチョコレート作業机の端に置き、仕事を再開した。
しばらくして、ちょっと疲れが出てきた頃、幻太郎は机の端に置いたチョコレートの存在を思い出した。
少しもったいない気もしたが、幻太郎はせっかく貰ったものだしな…と思いながら、チョコレートを口に放り投げた。
「ははっ…甘いな…」
幻太郎は口に広がるチョコレートの味を、噛み締めながら笑った。
「さて、もう一踏ん張り頑張りますか。」
幻太郎は口の中に残るチョコレートの甘みを惜しみつつ、仕事へと戻った。
……………………………………
帝統からチョコレートを貰ってから数日が経った。
幻太郎は近所のコンビニへ向かっていた。執筆が少し行き詰まってしまったのだ。流石の売れっ子作家、仕事は嫌でも舞い込んでくる。毎日毎日締め切りに追われてる。
幻太郎が今回書いてるものは〝恋愛小説〟。それも若手の女性に向けたものだ。推理小説、SFなど…数多くのジャンルを得意としている幻太郎だったが、恋愛小説だけは苦手としていた。
(ラップバトルに参加して、女性に人気が出たからって…なんで小生が恋愛小説を書かなきゃいけないんですか…別に、売れ行きが悪いわけでも無いでしょう…それも若手って…無理難題すぎる…)
「はぁ…」
大きなため息が漏れた。
(いらっしゃっいませ〜
幻太郎は重い足取りでコンビニへと入って行った。
たまには息抜きも必要ですよね…このままだと締め切りに間に合わない…なんとかしてでも書かなくては…
そういえば前に帝統が糖分はなんたらかんたら…って言ってましたね…。
幻太郎はスイーツの陳列棚へと向かった。
「うーん…どうしましょうねぇ…」
陳列棚に並ぶ数々のスイーツを見ながら1人唸っていた。
「これにしますか。」
幻太郎はレジにいくつかのスイーツを持っていった。
「いらっしゃいませ〜こちら………で…」
手際良く、店員は商品を袋に入れて行った。
その最中、幻太郎はレジの近くに、ある物を見つけた。
「あ、これも一緒にお願いします。」
幻太郎は急いで店員に『それ』を1つ店員に渡した。
店員は「あ、わかりました〜」と言いながら素早く『それ』を袋に入れた。
(ありがとうございましたぁ〜
幻太郎は買い物を済ませ、帰路に着いた。
「………衝動に任せて買ってしまいましたね…」
幻太郎は袋に入ってる『それ』を見つめた。
(これを見て、あいつを思い出して買ってしまったなんて…本人には口を裂けても言えないな…)
幻太郎は苦笑いを浮かべながら独り家へと戻って行った。
渋谷の端にある、古民家に大きな声が響き渡った。仕事をしていた幻太郎はその声を聞きつけ、ゆっくりと立ち上がり、のそのそと玄関に向かった。玄関には、ニコニコ笑顔でやけに上機嫌な男が立っていた。
「帝統………来るときは連絡しろと何度も何度も言っているでしょう…。」
幻太郎は不満げな様子で玄関に立つ男に言った。
「へへ!すまねぇな!近くを通ったからよ!」
「はぁ…呆れて言葉も出ません…。」
こんなことを言っているが、幻太郎は帝統がアポ無しで家に来るほど自分を信用してくれていることを嬉しく思っている。言葉には絶対に出さないが。絶対に。顔にも出さまいも幻太郎は呆れたフリを続ける。
「まぁ良いじゃねぇか!!!あ、そうだ……げんたろー!これやるよ!ほらっ」
帝統が幻太郎に小さな物を投げる。
幻太郎は慌てて帝統から『それ』を受け取った。
「ん…?チョコレートですか?どうしたんです?あなた、甘いものなんて食べないでしょう。」
幻太郎は、雑に投げられたものを不思議そうに見つめながら言った。
「賭場の景品で貰ったんだ!俺、甘いもん食わねぇし!げんたろーにやるよ!糖分は頭に良いって聞いたことあるしよ!!」
純朴な満面の笑みが幻太郎に向けられた。
幻太郎はふふっと笑い、高めの声で、
「おや、あなたにもそんな知識があるなんて………驚いたでおじゃぁ〜〜〜」
帝統は顔を膨らませ、不満げな顔をした。
「うるせぇ!馬鹿にすんじゃねぇ!!!」
「あはは、嘘ですよ。嘘。」
もう、定番となりつつあるやり取りが続く。そう、いつものやりとりだ。
「そうかよ。んじゃ、俺、賭場行くから!じゃあな。」
「わかりました。勝てると良いですね。」
「おう!!!」
クスクスと笑う幻太郎と対照的に、ちょっとふてくされた帝統が玄関から出て行った。
幻太郎は帝統とのこの馬鹿げたやり取りが好きだった。こんなくだらない嘘にも付き合ってくれる帝統のことが、なんだかんだ気に入っているのだ。
「あの人懐っこさはどこで手に入れてるんでしょうね…」
正直、24年間〝ダチ〟と呼べるような人が一握りしかいなかった幻太郎には、帝統のような男は不思議でしかなかった。そもそも出会ってからまだ1年も経ってない。それなのに、こんなに心を開くものなのか。
「まぁ、考えても無駄ですよね…」
自嘲気味に幻太郎は小さく呟いた。
そして、んーっと大きく伸びをして作業部屋へと戻っていった。
「それにしても、帝統からプレゼント紛いのものを頂くとは…」(とは言っても、どこにでもある10円のチョコですけど。)
そんな些細なものでも幻太郎には大切に思えるくらい、あの男のことを好んでいるのだ。
幻太郎はチョコレート作業机の端に置き、仕事を再開した。
しばらくして、ちょっと疲れが出てきた頃、幻太郎は机の端に置いたチョコレートの存在を思い出した。
少しもったいない気もしたが、幻太郎はせっかく貰ったものだしな…と思いながら、チョコレートを口に放り投げた。
「ははっ…甘いな…」
幻太郎は口に広がるチョコレートの味を、噛み締めながら笑った。
「さて、もう一踏ん張り頑張りますか。」
幻太郎は口の中に残るチョコレートの甘みを惜しみつつ、仕事へと戻った。
……………………………………
帝統からチョコレートを貰ってから数日が経った。
幻太郎は近所のコンビニへ向かっていた。執筆が少し行き詰まってしまったのだ。流石の売れっ子作家、仕事は嫌でも舞い込んでくる。毎日毎日締め切りに追われてる。
幻太郎が今回書いてるものは〝恋愛小説〟。それも若手の女性に向けたものだ。推理小説、SFなど…数多くのジャンルを得意としている幻太郎だったが、恋愛小説だけは苦手としていた。
(ラップバトルに参加して、女性に人気が出たからって…なんで小生が恋愛小説を書かなきゃいけないんですか…別に、売れ行きが悪いわけでも無いでしょう…それも若手って…無理難題すぎる…)
「はぁ…」
大きなため息が漏れた。
(いらっしゃっいませ〜
幻太郎は重い足取りでコンビニへと入って行った。
たまには息抜きも必要ですよね…このままだと締め切りに間に合わない…なんとかしてでも書かなくては…
そういえば前に帝統が糖分はなんたらかんたら…って言ってましたね…。
幻太郎はスイーツの陳列棚へと向かった。
「うーん…どうしましょうねぇ…」
陳列棚に並ぶ数々のスイーツを見ながら1人唸っていた。
「これにしますか。」
幻太郎はレジにいくつかのスイーツを持っていった。
「いらっしゃいませ〜こちら………で…」
手際良く、店員は商品を袋に入れて行った。
その最中、幻太郎はレジの近くに、ある物を見つけた。
「あ、これも一緒にお願いします。」
幻太郎は急いで店員に『それ』を1つ店員に渡した。
店員は「あ、わかりました〜」と言いながら素早く『それ』を袋に入れた。
(ありがとうございましたぁ〜
幻太郎は買い物を済ませ、帰路に着いた。
「………衝動に任せて買ってしまいましたね…」
幻太郎は袋に入ってる『それ』を見つめた。
(これを見て、あいつを思い出して買ってしまったなんて…本人には口を裂けても言えないな…)
幻太郎は苦笑いを浮かべながら独り家へと戻って行った。
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