第2話
「お疲れ。本当、今日はごめんね」
「ったく、本当に。まっすぐ帰ろうとしてたのにさ」
佐々木と茂森は、駅近くの居酒屋にいる。
「だから、悪かったって。おごるから許してよ」
お互い軽い会話をしながら、料理決めていく。
「じゃ、とりあえず生2つと、だし巻き卵と…」
2、3品のつまみを注文する。
佐々木がタバコに火をつけると、すぐに生ビールが運ばれてきた。軽くジョッキを合わせると、よく冷えたビールを口にする。
お互い仕事の事や最近見た映画の話など、たわいのない会話を楽しむ。
飲み物がビールから、焼酎のロックに変わったころ、茂森が思い出したように佐々木に質問する。
「今日から、そっちの係長新しい人になったんでしょ」
「ああ」
焼酎のロックを口にしながら、佐々木は答える。
「どんな人?かっこいいんだって?うちの女の子たちが話してるの聞いたんだけど」
茂森は、枝豆の鞘を指で挟みながら話す。
「背が高くて、細身すぎない感じかな。顔もかっこいいと思う」
佐々木は聞かれたことに答える。
「で、今もまだ仕事してる」
「え、初日から?」
「うん、初日から」
話しながら、茂森は持っていた枝豆を口に入れる。
「でもさ、聞く感じだと、涼の好みっぽくない」
「それな。俺の好みってか、多分お前も好みだぞ」
「マジで?じゃ、後で見に行くわ」
お互い笑いながら会話をする。
「でも結婚してるから、お前は無理だな」
佐々木が一言付け足す。
「…そうゆう大事なことは先に言って。まぁ、でも目の保養になるなら見に行く価値はあるよね」
茂森は、佐々木の方を軽く殴りながら言う。
「しかし、相変わらずお互い好みのタイプが似てるよね」
茂森はビールを口にしながら言う。
「それな」
一言だけ同意の言葉を口にする佐々木に、
「そりゃ、お互いが好きなタイプが一緒なら、付き合ってもしかたないわけだ」
軽く睨みながら話す。
「それな」
相変わらず、一言で返す佐々木。
「ちょっと、適当に返事するのやめて」
「もう何回も謝ったし、過去の事だし。それに、飲むと同じことばかりを言うからだろ」
佐々木は気にする様子もなく、タバコに火をつける。
佐々木と茂森は、入社して間もないころ恋人同士だった。佐々木は、元々男しか好きになれなかったが、そのころは世間の目を気にしていた。見た目も悪くないのに、恋人もいないというのは、何かと面倒ごとや噂話のタネを作りやすい。その為、学生時代から、告白してきた子と適当な付き合いを繰り返していた。その時の、適当な彼女の一人が茂森なのだ。ただ茂森だけは、他の彼女たちとは違うのは、別れ方が違った。
それまでは、適当に「別れよう」とか「もう好きじゃない」とか、それこそ自然消滅で別れていたが、茂森にだけは「男が好き」と言って別れた。
ハッキリと物を言い、何に対しても真剣に向き合ってくれる茂森には、ちゃんと言わないといけないんじゃないかと、その時の佐々木は思ったのだ。
もちろん、別れ話の際には、茂森は泣きながら佐々木に酷いことを言い、頬にビンタまでしてきた。だが、しばらくが経ち、落ち着いた茂森から、「あの時はごめん。気持ちも考えずに、酷いことを言って」と謝罪があった。
それからしばらくして、また茂森から声がかかるようになり、何でも話せる友人のような存在になった。「男が好き」という事を、基本誰にも言っていない佐々木にとっては、なんでも言える数少ない相手が、今では茂森になっている。
「お前も酔ってきてるし、そろそろ帰ろう」
そう言いながら佐々木は財布を出そうとすると、すかさず茂森がそれを止めた。
「今日はおごるって言ったでしょ」
覚えてたのかと思いながら、佐々木は茂森に「じゃ、ごちそう様」と言うと、バッグに財布をしまった。
会計を済ませている間に、佐々木は先に店先に出る。すると、右のほうから見知った男が歩いてきた。
「係長、お疲れ様です」
歩いてきたのは、林だった。
「お、お疲れ。いいな、飲んでたのか」
佐々木の背後を見ながら、林は言った。
「係長、今まで仕事してたんですか」
「ああ。気が付いたらこんな時間でな。なんか食ってから帰ろうかと思って」
腹のあたりをさすりながら言う。
「さすがに、まだこのあたりの店は知らないから、今日はファミレスか牛丼かな」
笑いながらいう林に
「じゃ、今度飯行きましょうか。俺、うまい酒出すところ知ってるんで」
と佐々木が言う。
「いいな。じゃ、その時は頼むわ」
言いながら、林は佐々木の肩をたたいた。
「じゃ、気を付けて帰れよ」
林はそう言いながら、歩き出す。
「お疲れ様でした」
背中に声をかけると、後ろから茂森が「お待たせ」とやってきた。さっき林がいたことを伝えると、ひきとめておいてよと文句を言う。
その声を聞き流しながら、駅のほうへ二人で向かう。電車通勤の茂森を駅までおくると、佐々木はロータリーまで行き、タクシーに乗り込んだ。佐々木も電車通勤だが、今いるところから佐々木の使っている路線とは離れているので、タクシーで帰ることにした。その車内で、ふと林の事を思い出した。
(ファミレスで夕飯って。林さんどこに住んでるんだろう?)
佐々木の勤務する北関東支社までは、本社から2時間強の場所にある。都内に住んでいても通えない距離ではない。でも、役つき異動だから、会社側が住居の準備をしていてもおかしくない。
(ま、機会があったら聞いてみようかな)
そんなことを想いながら、佐々木は自宅へ向かった。
「ったく、本当に。まっすぐ帰ろうとしてたのにさ」
佐々木と茂森は、駅近くの居酒屋にいる。
「だから、悪かったって。おごるから許してよ」
お互い軽い会話をしながら、料理決めていく。
「じゃ、とりあえず生2つと、だし巻き卵と…」
2、3品のつまみを注文する。
佐々木がタバコに火をつけると、すぐに生ビールが運ばれてきた。軽くジョッキを合わせると、よく冷えたビールを口にする。
お互い仕事の事や最近見た映画の話など、たわいのない会話を楽しむ。
飲み物がビールから、焼酎のロックに変わったころ、茂森が思い出したように佐々木に質問する。
「今日から、そっちの係長新しい人になったんでしょ」
「ああ」
焼酎のロックを口にしながら、佐々木は答える。
「どんな人?かっこいいんだって?うちの女の子たちが話してるの聞いたんだけど」
茂森は、枝豆の鞘を指で挟みながら話す。
「背が高くて、細身すぎない感じかな。顔もかっこいいと思う」
佐々木は聞かれたことに答える。
「で、今もまだ仕事してる」
「え、初日から?」
「うん、初日から」
話しながら、茂森は持っていた枝豆を口に入れる。
「でもさ、聞く感じだと、涼の好みっぽくない」
「それな。俺の好みってか、多分お前も好みだぞ」
「マジで?じゃ、後で見に行くわ」
お互い笑いながら会話をする。
「でも結婚してるから、お前は無理だな」
佐々木が一言付け足す。
「…そうゆう大事なことは先に言って。まぁ、でも目の保養になるなら見に行く価値はあるよね」
茂森は、佐々木の方を軽く殴りながら言う。
「しかし、相変わらずお互い好みのタイプが似てるよね」
茂森はビールを口にしながら言う。
「それな」
一言だけ同意の言葉を口にする佐々木に、
「そりゃ、お互いが好きなタイプが一緒なら、付き合ってもしかたないわけだ」
軽く睨みながら話す。
「それな」
相変わらず、一言で返す佐々木。
「ちょっと、適当に返事するのやめて」
「もう何回も謝ったし、過去の事だし。それに、飲むと同じことばかりを言うからだろ」
佐々木は気にする様子もなく、タバコに火をつける。
佐々木と茂森は、入社して間もないころ恋人同士だった。佐々木は、元々男しか好きになれなかったが、そのころは世間の目を気にしていた。見た目も悪くないのに、恋人もいないというのは、何かと面倒ごとや噂話のタネを作りやすい。その為、学生時代から、告白してきた子と適当な付き合いを繰り返していた。その時の、適当な彼女の一人が茂森なのだ。ただ茂森だけは、他の彼女たちとは違うのは、別れ方が違った。
それまでは、適当に「別れよう」とか「もう好きじゃない」とか、それこそ自然消滅で別れていたが、茂森にだけは「男が好き」と言って別れた。
ハッキリと物を言い、何に対しても真剣に向き合ってくれる茂森には、ちゃんと言わないといけないんじゃないかと、その時の佐々木は思ったのだ。
もちろん、別れ話の際には、茂森は泣きながら佐々木に酷いことを言い、頬にビンタまでしてきた。だが、しばらくが経ち、落ち着いた茂森から、「あの時はごめん。気持ちも考えずに、酷いことを言って」と謝罪があった。
それからしばらくして、また茂森から声がかかるようになり、何でも話せる友人のような存在になった。「男が好き」という事を、基本誰にも言っていない佐々木にとっては、なんでも言える数少ない相手が、今では茂森になっている。
「お前も酔ってきてるし、そろそろ帰ろう」
そう言いながら佐々木は財布を出そうとすると、すかさず茂森がそれを止めた。
「今日はおごるって言ったでしょ」
覚えてたのかと思いながら、佐々木は茂森に「じゃ、ごちそう様」と言うと、バッグに財布をしまった。
会計を済ませている間に、佐々木は先に店先に出る。すると、右のほうから見知った男が歩いてきた。
「係長、お疲れ様です」
歩いてきたのは、林だった。
「お、お疲れ。いいな、飲んでたのか」
佐々木の背後を見ながら、林は言った。
「係長、今まで仕事してたんですか」
「ああ。気が付いたらこんな時間でな。なんか食ってから帰ろうかと思って」
腹のあたりをさすりながら言う。
「さすがに、まだこのあたりの店は知らないから、今日はファミレスか牛丼かな」
笑いながらいう林に
「じゃ、今度飯行きましょうか。俺、うまい酒出すところ知ってるんで」
と佐々木が言う。
「いいな。じゃ、その時は頼むわ」
言いながら、林は佐々木の肩をたたいた。
「じゃ、気を付けて帰れよ」
林はそう言いながら、歩き出す。
「お疲れ様でした」
背中に声をかけると、後ろから茂森が「お待たせ」とやってきた。さっき林がいたことを伝えると、ひきとめておいてよと文句を言う。
その声を聞き流しながら、駅のほうへ二人で向かう。電車通勤の茂森を駅までおくると、佐々木はロータリーまで行き、タクシーに乗り込んだ。佐々木も電車通勤だが、今いるところから佐々木の使っている路線とは離れているので、タクシーで帰ることにした。その車内で、ふと林の事を思い出した。
(ファミレスで夕飯って。林さんどこに住んでるんだろう?)
佐々木の勤務する北関東支社までは、本社から2時間強の場所にある。都内に住んでいても通えない距離ではない。でも、役つき異動だから、会社側が住居の準備をしていてもおかしくない。
(ま、機会があったら聞いてみようかな)
そんなことを想いながら、佐々木は自宅へ向かった。
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