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そとづら

ジャンル: その他 作者: 久宮
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第3話

林が異動してきて約2週間が経った頃、部署内の女子社員から「まだ係長の歓迎会してないね」と話が上がった。
「今週の金曜とか、みんなどうかな」
「まだ月中だから、それほど忙しくないかな」
女子社員同士で話しをしているのが聞こえる。佐々木は、軽くスケジュールを思い出す。あいにくその日は、午後から打ち合わせで社にはいない。
(直帰したいし、俺はパスかな)
なんて思っていると、課長から全員に声がかかった。
「今週の金曜なんだが、林君の歓迎会をやろうと思うんだけど、みんな大丈夫か」
課長は人当たりもよく、なによりみんなで飲みに行くのが大好きだ。おそらく話を持って行った女子社員にも一つ返事でOKを出したのだろう。
「林君も大丈夫か」
課長の呼びかけに顔を上げた、林に声をかける。
「俺は大丈夫ですが。別にいいですよ、歓迎会なんて」
林は遠慮の言葉を口にすると、別のデスクから
「係長、大丈夫ですよ。課長が飲みたいだけなんですから」
と声が上がった。その言葉に、部署内に笑い声が響く。
「それだけじゃないって」
課長も笑いながら返す。それに対して、
「じゃ、遠慮なく。金曜は早く終われるように努力します」
と、林は笑顔で返した。課長は、提案してきた女子社員に幹事役を頼むと席に戻っていった。
佐々木は、その女子社員のところに行き、金曜の事を話した。
「佐々木さん、来れないんですか」
それが聞いていた他の女子社員が話に入ってくる。
「ああ。打ち合わせで外だから」
笑って、すまないと言い席に戻ろうとするとことに、林から声がかかった。
「終わった後に合流するのはどうだ。まぁ、無理にとは言わないが」
その言葉に、女子社員たちが「そうしましょうよ」と続ける。
早く仕事に戻りたかった佐々木は、
「じゃ、行けるかわからないけど、とりあえず終わったら連絡する」
と、あいまいに返事をしてその場を後にした。

「そろそろ出るわ」
金曜になり、佐々木が席を立つと、
「佐々木さん、打ち合わせ終わったらちゃんと連絡くださいね」
「バックレんなよ」
同僚から声がかかった。
「わかってるって。じゃ、行ってきます」
佐々木が返事をしながら部屋を出る。直帰したいと思っている佐々木にとっては、今回の飲み会は正直めんどうくさい。せっかくの金曜、どうせならいつものバーで出会いなんてものを探しながら飲んでいたいのが本音だ。
(行くかどうかは、その時に決めればいいか。まぁ、適当に返事しておいたし)
夜の事を考えるのは後回しにして、佐々木は取引先へと向かった。

20時が過ぎたころ、佐々木は取引先を出た。今回の打ち合わせは、思いのほか長引いただけではなく、相手先から新たな提案をされた。その件については、佐々木一人では承認することのできないものとなり、一度社に持ち帰らせてもらう事で、今回の打ち合わせは終了した。
相手先に提案しなおすのはどんなに早くても週明けになるのだから、次に出社する時に報告してもいいとは思ったものの、やはり社会人として、早めに上司に報告するべきだとも思う。
佐々木はスーツの内ポケットからスマホを取り出し、電話をかけ始める。
「もしもし、佐々木です」
その声は、めんどくささを抑え込んでいる。
「あ、佐々木さん。お疲れ様です」
相手は、幹事を頼まれた女子社員だ。
「今打ち合わせ終わったんだけど、そっちはどんな感じ?」
このから仕事の件で報告したい相手がすでに酔っているなら、飲み会に参加しても意味がない。そう思った佐々木は、歩きながら質問する。
「結構いいかんじですよ。佐々木さんも早く来て下さいよ」
電話口から、酔っているであろう女子社員の甘ったるい声が、質問に答えていないことを言ってくる。
「係長は?」
「係長なら、飲みながらずっと課長とまじめな顔して話してますよ」
その返答に、林が酔っていないと判断した佐々木は
「わかった。じゃ、今から同流するわ。多分30分くらいで着くと思うから、係長たちに言っておいて」
と伝え、会場になっている居酒屋に向かった。

「お疲れ様です」
佐々木が座敷に上がりながら挨拶する。
「お疲れ」
佐々木を見た同僚たちが、口々に声をかける。
すぐ後ろにいた店員にビールを注文すると、空いている席にジャケットとバッグを置いた。そして、周りを見る。課長は社員と笑いながら日本酒を飲んでいる。報告したい相手は、女子社員に囲まれていて、次から次へとビールを注がれている。
(あのペースで飲まされてるんじゃ、もしかしたら話にならないかな)
佐々木はそう思ったが、とりあえず林のところに向かう。
「係長、ちょっとだけいいですか」
後ろから話しかける。
「こんな時間までお疲れ様だったな」
林は、佐々木の言葉に返事をする。
「何か報告か?」
「はい。大丈夫ですか」
二人の話が聞こえた女子社員は
「えー、せっかくの飲みなのに、仕事の話なんですかー」
と、甘えた声を出してくる。それを佐々木は笑顔で
「ごめんね」
と静止する。すると、「はーい」とニコニコしながら返事をし、各々の座っていたところに戻っていく。
「佐々木、女の子の扱いに慣れてるなぁ」
と、林が小声で伝えてきた。
「そんな事ないですよ。そんなことより…」
と、軽く流し、今日打ち合わせ先での話をし始めた。
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