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ここではないどこかで神をしのぐ謀

原作: その他 (原作:PSYCHO-PASS サイコパス) 作者: 十五穀米
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証拠集め

「さらに突っ込めば、こちらの世界が警察もグルってなると、あっちは公安がグル。しかし、公安といってももっと上だ。局長くらいの力があるやつ……」
 狡噛は語尾を強めた。
 朱はその見解を耳にしうなだれる。
「あ~あ、ダメですよ、狡噛さん。せっかく常守監視官がその辺は濁して、あえて口にしていなかったのに」
 チェ・グソンが朱の心境を代弁した。
「……すまない」
「いえ、いいです。いつかは言わないと説明できないと思っていましたから。でも、それたけでは証拠にはなりません。物証がありません。あちらはドミネーターが判断し下すことができますが。こちらは従来の法整備が続いている世界です。物証、逮捕、裁判などを得なければならず、逮捕して相手に罪を認めさせるには物証と裏付けが不可欠なんですよね、征陸さん」
「そうだな。提供者の名は出せないとなれば、見つけるしかない。まだ隠蔽されていない事実を。それを知っているのが、あっちの世界で捕まえた東金朔夜だと踏んでいる」
「たしかにそうですね。こちらに連れきますか?」とチェ・グソン。
「どうしたもんかね……」
 征陸は悩む。
 こちらに連れ戻したとして、こちらになにも証拠がなければ朔夜の言っていることを裏付けられない。
「あの、ひとついいですか?」
「なんだい、嬢ちゃん」
「殺されたと仮定して話しますが、その赤子はその後、どうなりましたか? 隠されていた子供は? もし成長して存命なら、チェ・グソンさんと同じくらいの歳ではないでしょうか」
「……そういや、その後どうなったかはでていなかったな」と征陸。
「出生届を出している以上、死んだら死亡届が出されているはずだ。ちょっと待ってくれ。たしか縢家くらいの由緒ある家柄だと、ネットで家系図が出回っているはずだ……」
 征陸がそう話している間に、チェ・グソンが探し出す。
「これでしょうかね。事件は今からだいたい三十年くらい前だと、ああ、ありました。この子がそうじゃないですか? ええっと、存命で結婚して、子供がいますね……縢秀星……あれ?」
「なるほど……」
 静観していた槙島はなにかに気づき、ひとり納得をする。
 朱も答えにたどり着いたようだが、その考えを否定したいのか、小さく首を横に振った。
「常守監視官の気持ち、察しますよ。でもね、真実から目をそらしてはダメだと思うよ。放置したら、キミの大事な仲間の危機を救えない。聡明なキミならわかっているはずだ」
「……はい。死んでしまった人は生き返りません。それはどんなに何かが発展してもしてはいけないことです。そして、禁忌に手を出していたとしても、成功はしなかったのでしょう。だから、隠さなくてはいけない子の方をどうにかしようとした。シビュラ世界の東金の力を借りて。そしてなんとか対面だけは保てるくらいにまで修正して、その次の代に縢家の未来を託すことにした。でも、なにかに欠落があっただろう隠し子に結婚ができたでしょうか。他人を家に入れてしまっては長年隠していたことが崩れてしまう。だから、造って出生届けを出して、結婚したことにしているのだと。その相手の女性は実在するのでしようか。それすらも偽り、もしくはあちらの世界から連れてきた誰か。消えてしまっても問題のない人」
「常守……それ以上、考えるな」
「大丈夫ですよ、狡噛さん。怒りより悲しいです。人は怒りを通り過ぎると悲しくなるものなんですね。縢くんはクローン。それが知られそうになったので、ひとまず隠すことにした。別世界に。公安が安全なのは、公安の上層部がれらに荷担しているからです」
「東金朔夜はどう説明する?」
「それが一番の難関ですよね、征陸さん。だけど、クローンの技術、ある程度年齢を定めて造ることができる。元の人間の記憶を引き継げるなどのことを成功させているとしたら、あれは東金朔夜でもあり、縢家の息子、つまり隠し子であった息子でもあるのだと思います。多重人間というよりは、ひとつの体をふたつの人格が共有しているのではないでしょうか。考えたくはありませんが……」
「それこそ、空想の世界での出来事だな。だが、それを現実に成功させてしまった者たちがいる。そう決めてかかった方がいい」
「……そうですね、狡噛さん。となれば、ここですることは決まっています。征陸さん、裏付ける資料はやはり困難でしょうか?」
「いや、そうでもないな。世の中には圧力に屈せず、どんな逆境に追いやられても己の正義を貫くバカはいる。自殺した乳母の身内、乳母の弁護を担当した刑事にあたってみる」
「記憶の操作をされている可能性は?」
「どうだろうな。だが、記憶の操作はあるきっかけで解けることもあるそうだ。数日、俺に時間をくれ」
「お願いします。この世界では征陸さんだけが頼りですから」
 するとチェ・グソンがやや不満という顔をする。
「それはないですね、常守監視官。私たちだって、できることはありますよ。槙島さん、もういいですよね。この船に乗ってしまいましょう。我々だけではもう狡噛さんを助けられません」
「……仕方がないな。だが、被害は最小限に。狡噛くんが帰ってきたとき、行き場しょんがなくなっているのは可哀想だからね」
「というわけで、征陸さん。なにがなんでも警察には動いてもらい、そしてマスコミ関係にも精一杯働いていただきますよ。とっておきのネタをネットに流します。マスコミが騒ぎ、一般人が騒げば、警察は動かないわけにはいかなくなりますよね。いくら裏で繋がりあれこれ手を回していたとしても、最後は自分の身の振り方が大事になりますから」
「いいのか、チェ・グソン」
「槙島さんの許可は得ました。私たちだってね、大切な仲間は助けたい。地位や名誉で人命救助はできませんから」
「助かる」と征陸。
「ありがとうございます」と朱。
 チェ・グソンがとっておきの爆弾ネタをネットに流したのは、そのわずかコンマ何秒後だった。
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