真実への一歩
「たしかに、それだと説明がつきます。しかし、なぜ結託を?」
チェ・グソンは納得しながらもまだすべてが出揃ったわけではないでしょう? と問いかける。
「まあ、そう急くな」と征陸。
「実はな、結託して隠したかったのは別のことなんじゃないかと踏んでいる」
「どういうことですか、征陸刑事」
「一部の者しか知らない存在の子供。そうだろう?」と狡噛。
「ああ、そうだ。なぜ隠さなければならなかったのか。おそらくだが、知られることを恐れたからだ。なにを? 親が子を守りたいという心理、もしくはこんな子供は自分たちの子供であるわけがないという嫌悪。後者だとすれば、縢家の恥とでも思う面を持っていたとも考えられる。出来が悪い、なにかが欠落し健常者として生きていけない。俺はな、その隠していた子供が赤ん坊を殺したんだと考えている。目を離した間に子供が赤ん坊を殺してしまっていた。乳母はすぐに当主夫妻に連絡をいれる。赤子は出生届けを出してしまっている以上、存在は隠せない。そこで、当時、ITやロボットなどの研究に特化していた東金に助けを求めた。あのころの日本は少子化がすごい勢いで進み、海外からの労働者受け入れや、人の嫌がりそうな仕事の無人化などが進んでいた。より人間らしいロボットなども各社が切磋琢磨して発表していた時代だ。その代表の東金に助けを求めたとしたら?」
「死んだ赤ちゃんをすり替えたんですか? だとしても、人とロボットでは触れれば違いはわかるものでは?」と朱。
しかし、チェ・グソンは首を振る。
「常守監視官、だから警察もグルなんですよ。知人の刑事がかなりの立場にいる者なら、息のかかった刑事だけで構成して捜査し、報告書の改竄もできます。なにより、あのころのロボット化はかなり高性能で、まだ言葉を話さない赤ん坊であれば誤魔化すことは簡単であったと思います。まあ、私はまだ子供でしたので、記憶も曖昧ですが」
当時、征陸は新人をすぎ、次第に現場を任される中堅にさしかかっていた頃だった。
年齢的に、今ここにいない本来の狡噛や、目の前にいる槙島あたりはチェ・グソンよりもまだ子供、幼児くらいの歳であったと思う。
その彼らにその頃を思い出せと言うのは難しいが、あちらの世界の狡噛がおもしろいことを口にした。
「なあ、常守監視官。あんたの年代じゃもうシビュラは実装されていたからあの世界は当然かもしれないが、俺がまだガキの頃は運用試験中だった。ガキだから今までとなにが違うのかよく理解もしないで馴染んだが、大人は相当混乱したと思われる。時期的に、同じだと俺は記憶している。どうだ?」
「以前、征陸さんから聞いたことがあります。当時はいろんなデマや憶測、そして偏見もあったと。宜野座さんが子供の頃と仰っていたので、逆算すると若干、シビュラの方が遅いとは思いますが、導入時期は近いといっていいと思います。もしかして、この世界の技術を得てシビュラが導入されたと?」
「ああ。そもそもいきなりの導入だったんじゃないか? 近代化というものは少しずつ進む。だが戸惑いが生じるほどのスピードだった。どこかから技術提供がないかぎりできないことだろう。そこで質問だ。別の世界に行けるようになったのはいつからだ?」
どっちでもいいから答えろと、狡噛は征陸とチェ・グソンを交互にみた。
「ああ、それは俺が話そう」と征陸。
「もともとこの世界は宇宙への興味が強くてな、各国こぞってロケット打ち上げをしていたんだ。金持ちになれば個人でロケット打ち上げをしたものもいる。その開発過程の中で、偶然の発見だったという話だ。時間の歪み、時空の歪みの関知、そしてそれを利用して別のどこかに行く。もっと前、タイムマシーンってのも憧れ、夢の存在で、自在に未来や過去にいけたらと、そういった創作物もかなり出回っていた。その偶然の発見で、時代をこえることができると思ったんだが、行けたのは時代ではなく別の世界だった。そこでパラレルワールド論が激化して、金持ちの道楽は宇宙からパラレルワールドへと移行した。今から半世紀くらい前じゃないか? 俺が物心ついた頃には、金持ちの旅行先は別世界ってもっぱら話題になっていた」
その後、法規制などができ、今では認可された者しか行き来できない。
だが、東金や槙島の組織のように民間でも自由に行き来している者もいる。
東金は警察が黙認しているところもあるが、槙島の組織に至っては、警察は問題視し尻尾を掴もうと躍起になっているところがある。
独自で開発し行き来できてしまう人たちがでたことで、それらと行った先で関与しないよう見張る部署が警察にできる。
その部署のひとりが征陸だった。
「それだと、すでに東金と縢は別世界に行けていたということだな。シビュラはこちらの世界の技術を、そして死んだ赤ん坊の件は、あっちの世界の東金が持つ医療関係と交換したんじゃないか?」
狡噛の言葉にみなが凍り付いた。
チェ・グソンは納得しながらもまだすべてが出揃ったわけではないでしょう? と問いかける。
「まあ、そう急くな」と征陸。
「実はな、結託して隠したかったのは別のことなんじゃないかと踏んでいる」
「どういうことですか、征陸刑事」
「一部の者しか知らない存在の子供。そうだろう?」と狡噛。
「ああ、そうだ。なぜ隠さなければならなかったのか。おそらくだが、知られることを恐れたからだ。なにを? 親が子を守りたいという心理、もしくはこんな子供は自分たちの子供であるわけがないという嫌悪。後者だとすれば、縢家の恥とでも思う面を持っていたとも考えられる。出来が悪い、なにかが欠落し健常者として生きていけない。俺はな、その隠していた子供が赤ん坊を殺したんだと考えている。目を離した間に子供が赤ん坊を殺してしまっていた。乳母はすぐに当主夫妻に連絡をいれる。赤子は出生届けを出してしまっている以上、存在は隠せない。そこで、当時、ITやロボットなどの研究に特化していた東金に助けを求めた。あのころの日本は少子化がすごい勢いで進み、海外からの労働者受け入れや、人の嫌がりそうな仕事の無人化などが進んでいた。より人間らしいロボットなども各社が切磋琢磨して発表していた時代だ。その代表の東金に助けを求めたとしたら?」
「死んだ赤ちゃんをすり替えたんですか? だとしても、人とロボットでは触れれば違いはわかるものでは?」と朱。
しかし、チェ・グソンは首を振る。
「常守監視官、だから警察もグルなんですよ。知人の刑事がかなりの立場にいる者なら、息のかかった刑事だけで構成して捜査し、報告書の改竄もできます。なにより、あのころのロボット化はかなり高性能で、まだ言葉を話さない赤ん坊であれば誤魔化すことは簡単であったと思います。まあ、私はまだ子供でしたので、記憶も曖昧ですが」
当時、征陸は新人をすぎ、次第に現場を任される中堅にさしかかっていた頃だった。
年齢的に、今ここにいない本来の狡噛や、目の前にいる槙島あたりはチェ・グソンよりもまだ子供、幼児くらいの歳であったと思う。
その彼らにその頃を思い出せと言うのは難しいが、あちらの世界の狡噛がおもしろいことを口にした。
「なあ、常守監視官。あんたの年代じゃもうシビュラは実装されていたからあの世界は当然かもしれないが、俺がまだガキの頃は運用試験中だった。ガキだから今までとなにが違うのかよく理解もしないで馴染んだが、大人は相当混乱したと思われる。時期的に、同じだと俺は記憶している。どうだ?」
「以前、征陸さんから聞いたことがあります。当時はいろんなデマや憶測、そして偏見もあったと。宜野座さんが子供の頃と仰っていたので、逆算すると若干、シビュラの方が遅いとは思いますが、導入時期は近いといっていいと思います。もしかして、この世界の技術を得てシビュラが導入されたと?」
「ああ。そもそもいきなりの導入だったんじゃないか? 近代化というものは少しずつ進む。だが戸惑いが生じるほどのスピードだった。どこかから技術提供がないかぎりできないことだろう。そこで質問だ。別の世界に行けるようになったのはいつからだ?」
どっちでもいいから答えろと、狡噛は征陸とチェ・グソンを交互にみた。
「ああ、それは俺が話そう」と征陸。
「もともとこの世界は宇宙への興味が強くてな、各国こぞってロケット打ち上げをしていたんだ。金持ちになれば個人でロケット打ち上げをしたものもいる。その開発過程の中で、偶然の発見だったという話だ。時間の歪み、時空の歪みの関知、そしてそれを利用して別のどこかに行く。もっと前、タイムマシーンってのも憧れ、夢の存在で、自在に未来や過去にいけたらと、そういった創作物もかなり出回っていた。その偶然の発見で、時代をこえることができると思ったんだが、行けたのは時代ではなく別の世界だった。そこでパラレルワールド論が激化して、金持ちの道楽は宇宙からパラレルワールドへと移行した。今から半世紀くらい前じゃないか? 俺が物心ついた頃には、金持ちの旅行先は別世界ってもっぱら話題になっていた」
その後、法規制などができ、今では認可された者しか行き来できない。
だが、東金や槙島の組織のように民間でも自由に行き来している者もいる。
東金は警察が黙認しているところもあるが、槙島の組織に至っては、警察は問題視し尻尾を掴もうと躍起になっているところがある。
独自で開発し行き来できてしまう人たちがでたことで、それらと行った先で関与しないよう見張る部署が警察にできる。
その部署のひとりが征陸だった。
「それだと、すでに東金と縢は別世界に行けていたということだな。シビュラはこちらの世界の技術を、そして死んだ赤ん坊の件は、あっちの世界の東金が持つ医療関係と交換したんじゃないか?」
狡噛の言葉にみなが凍り付いた。
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