必然な再会
薬の効果が現れ、ムカつき感がなくなると空腹感が押し寄せてくる。
朱は手渡された非常食を綺麗に食べきってしまう。
もう少し満たされたいかもと思った時、チェ・グソンが戻ってきた。
「どうだった?」
征陸に聞かれたチェ・グソンはなんともいえない表情を見せた。
「どうもこうも。もぬけのカラなんですよ。どういうことでしょうね、これは」
「どうと聞かれてもな。どうするか、決めたか?」
「警察に委ねるかどうかってことですか? それはまだないですね。とりあえず、防犯カメラの映像を確認してから考えます」
「ここで確認できるのか?」
「ええ、もちろん。確か、このあたりに非常用の……」
「シェルターのことか?」
「はい、そうです」
「なら、こっちだ」
征陸に案内され。少し前までいた場所へと入ったチェ・グソンは、非常用のモニターをつけ、監視カメラの映像を確認した。そこに映っていたのは……」
「狡噛さん?」
朱が思わず声をあげる。
「たしかにコウだ。あいつ、なに勝手にこっちに戻って……」
と、征陸が言い掛けてとめる。
「いや、これはコウじゃないな。もっと野性的で鋭いナイフのような危うさを感じる。これは……」
「公安が追っている逃亡中の狡噛慎也です」
「例の、元執行官の?」と聞いたのはチェ・グソン。
「そうか、嬢ちゃんとこのコウか。こりゃ、厄介だな。一緒に映っているのは槙島じゃないか」
「そうですね。殺されてしまいましたかね」
「バカをいうな。通じなければ別人だと理解するだろう」
「そうですかね。死んだ人間が目の前にいたら、冷静な判断はできないと思いますよ」
「だとしたら、狡噛さんをとめなくとは!」と朱が体を起こす。
「ちょっと待った嬢ちゃん。どこに行く気だ? ふたりがどこにいるのか、わかっているのか?」
「え?」
「今さっき、チェ・グソンが言っていただろうが、もぬけのからだったってな」
「……そうでした。でも、こっちの世界で狡噛さんが行くところなんて……」
「……ん? ちょっと待った。この映像、別角度のはないのか?」
「これは槙島さんの仕事部屋から非常階段を使った踊り場のカメラですね。だとしたら、別角度はありません。なにか?」
「カメラにはふたりしか映っていないが、もうひとり、いるんじゃないか? コウと槙島の視線の動きが不自然だ。もっと鮮明な画像でもあれば……」
「ふたりの瞳に映っているものから知ることができそうですね。となれば、征陸さん。警察の権限を使って私を安全に連れていってほしいところがあります」
「構わないが……それはここをでると言うことか?」
「はい。蛇の道は蛇といいますしね、分析に長けたもぐりのところに行きます。ああ、彼はとても有名なんですが、見なかったことにしてくださいね」
「緊急事態だ。人命救助にひと役買ったということで、俺の胸にしまっておくことにするよ。それじゃあ、急ごうか。それと嬢ちゃんと、そっちの執行官どのは軽く変装をしてもらうが、いいかね」
※※※
帽子を深くかぶり、須郷は伊達メガネ、朱は黒のスーツからカラフルな色彩のワンピースに着替え、車の後部座席に乗り込む。
「よく、こんな服が……」
「調査員ようの変装服ですよ。普段しないだろうという格好をした方が見つかりにくいものなんです」
理屈はわかるが、やはり心理的には地味な方が目立たないのでは? と思う朱だった。
須郷は前髪をおろし、ラフな格好をすると実際の歳より若くみえる。
そのまま学生といっても通じるのではないか。
その格好も普段なら絶対にしない格好のため、気恥ずかしさがあった。
「それと、おふたりはできるだけしゃべらないでください」
チェ・グソンに言われ、ふたりは小さく頷いた。
車は大きな通りから狭い路地に入り、そろそろ夜明けだというのに一帯がどんよりとして薄暗い。
「この辺は繁華街といってもちょっと質の悪い区間でな。ひたすら視線を落としてみない方がい」
征陸に言われ、ふたりは指示通りに下を向いた。
さらに車が走り、これ以上は車では無理なところまで入り込む。
「ここからは徒歩です。常守さんは絶対に征陸さんと離れないでくださいね」
チェ・グソンは、自分は誰かを守れるほどの力はないという。
廃れた看板、点灯が欠けている看板などが並び、それらの看板の文字は大通りでみた看板の文字とはあきらかに違っていた。
国外に出ていないのに別の国に迷い込んでしまったかのような場所だった。
「ここです。この地下にある一室に目的の人物がいます。征陸さん、絶対に刑事だとバレないようにしてくださいね。監視官と執行官は無言でお願いします。では行きましょう」
階段を下りた先に一枚の扉がある。
その扉を間隔をあけてノックすると、中から鍵が外されるような音がして、聞き慣れない言葉が耳に入った。
チェ・グソンにはその言葉が理解できるらしく、同じ言葉で返すと、ようやく中にいれてもらうことができた。
中は薄暗く、そしてさらに奥へと案内されると、チェ・グソンは「人を捜しています」と、朱たちが理解できる言葉で目的を口にした。
朱は手渡された非常食を綺麗に食べきってしまう。
もう少し満たされたいかもと思った時、チェ・グソンが戻ってきた。
「どうだった?」
征陸に聞かれたチェ・グソンはなんともいえない表情を見せた。
「どうもこうも。もぬけのカラなんですよ。どういうことでしょうね、これは」
「どうと聞かれてもな。どうするか、決めたか?」
「警察に委ねるかどうかってことですか? それはまだないですね。とりあえず、防犯カメラの映像を確認してから考えます」
「ここで確認できるのか?」
「ええ、もちろん。確か、このあたりに非常用の……」
「シェルターのことか?」
「はい、そうです」
「なら、こっちだ」
征陸に案内され。少し前までいた場所へと入ったチェ・グソンは、非常用のモニターをつけ、監視カメラの映像を確認した。そこに映っていたのは……」
「狡噛さん?」
朱が思わず声をあげる。
「たしかにコウだ。あいつ、なに勝手にこっちに戻って……」
と、征陸が言い掛けてとめる。
「いや、これはコウじゃないな。もっと野性的で鋭いナイフのような危うさを感じる。これは……」
「公安が追っている逃亡中の狡噛慎也です」
「例の、元執行官の?」と聞いたのはチェ・グソン。
「そうか、嬢ちゃんとこのコウか。こりゃ、厄介だな。一緒に映っているのは槙島じゃないか」
「そうですね。殺されてしまいましたかね」
「バカをいうな。通じなければ別人だと理解するだろう」
「そうですかね。死んだ人間が目の前にいたら、冷静な判断はできないと思いますよ」
「だとしたら、狡噛さんをとめなくとは!」と朱が体を起こす。
「ちょっと待った嬢ちゃん。どこに行く気だ? ふたりがどこにいるのか、わかっているのか?」
「え?」
「今さっき、チェ・グソンが言っていただろうが、もぬけのからだったってな」
「……そうでした。でも、こっちの世界で狡噛さんが行くところなんて……」
「……ん? ちょっと待った。この映像、別角度のはないのか?」
「これは槙島さんの仕事部屋から非常階段を使った踊り場のカメラですね。だとしたら、別角度はありません。なにか?」
「カメラにはふたりしか映っていないが、もうひとり、いるんじゃないか? コウと槙島の視線の動きが不自然だ。もっと鮮明な画像でもあれば……」
「ふたりの瞳に映っているものから知ることができそうですね。となれば、征陸さん。警察の権限を使って私を安全に連れていってほしいところがあります」
「構わないが……それはここをでると言うことか?」
「はい。蛇の道は蛇といいますしね、分析に長けたもぐりのところに行きます。ああ、彼はとても有名なんですが、見なかったことにしてくださいね」
「緊急事態だ。人命救助にひと役買ったということで、俺の胸にしまっておくことにするよ。それじゃあ、急ごうか。それと嬢ちゃんと、そっちの執行官どのは軽く変装をしてもらうが、いいかね」
※※※
帽子を深くかぶり、須郷は伊達メガネ、朱は黒のスーツからカラフルな色彩のワンピースに着替え、車の後部座席に乗り込む。
「よく、こんな服が……」
「調査員ようの変装服ですよ。普段しないだろうという格好をした方が見つかりにくいものなんです」
理屈はわかるが、やはり心理的には地味な方が目立たないのでは? と思う朱だった。
須郷は前髪をおろし、ラフな格好をすると実際の歳より若くみえる。
そのまま学生といっても通じるのではないか。
その格好も普段なら絶対にしない格好のため、気恥ずかしさがあった。
「それと、おふたりはできるだけしゃべらないでください」
チェ・グソンに言われ、ふたりは小さく頷いた。
車は大きな通りから狭い路地に入り、そろそろ夜明けだというのに一帯がどんよりとして薄暗い。
「この辺は繁華街といってもちょっと質の悪い区間でな。ひたすら視線を落としてみない方がい」
征陸に言われ、ふたりは指示通りに下を向いた。
さらに車が走り、これ以上は車では無理なところまで入り込む。
「ここからは徒歩です。常守さんは絶対に征陸さんと離れないでくださいね」
チェ・グソンは、自分は誰かを守れるほどの力はないという。
廃れた看板、点灯が欠けている看板などが並び、それらの看板の文字は大通りでみた看板の文字とはあきらかに違っていた。
国外に出ていないのに別の国に迷い込んでしまったかのような場所だった。
「ここです。この地下にある一室に目的の人物がいます。征陸さん、絶対に刑事だとバレないようにしてくださいね。監視官と執行官は無言でお願いします。では行きましょう」
階段を下りた先に一枚の扉がある。
その扉を間隔をあけてノックすると、中から鍵が外されるような音がして、聞き慣れない言葉が耳に入った。
チェ・グソンにはその言葉が理解できるらしく、同じ言葉で返すと、ようやく中にいれてもらうことができた。
中は薄暗く、そしてさらに奥へと案内されると、チェ・グソンは「人を捜しています」と、朱たちが理解できる言葉で目的を口にした。
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