決められていた再会
霜月たちが行動を起こす少し前、別世界の捜査に乗り出した面々は……
なんとか無事、目的の世界に行くことができていた。
だが……
「大丈夫かい、嬢ちゃん」
乗り物に酔うことがなかった朱の人生初の乗り物酔いを経験していた。
「あの歪みはもう慣れるしかないんだよな」
と征陸はボヤく。
「たしか、酔い止めの薬がありましたよね?」
と、チェ・グソン。
「なんだい、持っているなら渡してやればよかっただろう」
「いえいえ、ありましたよね? と同意です。持ち合わせてはいません。もともと、連れ帰るのは狡噛さんだけでしたし」
「だとしてもだ、あっちの世界にだって酔い止めの薬くらいはあっただろうに」
「私を責めるんですか? 征陸さんだって、親切心で言える立場だったでしょう」
「まあ、そうなんだが。なんていうか、ついうっかりな」
「私もついうっかりです。本当にすみませんね、常守さん。すぐ医務室にご案内しますので」
嘔吐が止まらないが、忙しくてろくに食事もしていなかったことが吉だったのか、吐きたくても吐き出すものがない。
胸がムカムカして、胃液がかろうじて逆流する、その程度だった。
立ち上がろうとすると立ちくらみがしてよろけてしまう。
酔いもそうだから、空腹も関係しているだろう。
「私なら大丈夫です。須郷さんは?」
「自分はまったく」
「そう、よかったわ」
「いえ、ぜんぜんよくないです、監視官。すぐ、医務室に連れて行ってもらいましょう。顔色がよくありません」
「でも……」
と辺りを見回す。
「ああ、見張りがいるとか私、言ってましたね。本当に、どこに行ったんでしょうね。出迎えがないなんて。とりあえず、槙島さんに連絡を入れておきましょう。それでこのビルの中を動き回れるはずですから」
と、内線で呼び出してみたのだが、
「おかしいですね、誰もでません。護衛が数名いるはずなんですが」
「おい、大丈夫なのかい? こっちもなにやら巻き込まれているんじゃないだろうな。警察に連絡した方がいいんじゃないか?」と征陸。
「警察は勘弁してくださいよ、征陸さん。でも、確かになにか変です。征陸さん、ここを任せていいですか?」
「あんたはどうするんだ?」
「直接、確認してきます」
そういうと、顔認証でロックを外し、外へと出て行く。
「あちゃ……これはしまったな。嬢ちゃんを医務室に連れて行ってもらうべきだったか」
と、残されて気づく。
「征陸さん、私は大丈夫です。それより、この世界のことを教えてください。あまり目立った捜査はしたくないので」
※※※
征陸やチェ・グソンが住んでいるこの世界は、朱たちが住んでいる世界ほど近代化はしていない世界だった。
政府と各国は協力しあって自然保護に力を注いでいる。
その中で、絶滅種の保護などにも尽力している中、人間はタブーだが、動物のクローンならいいのではないかという論議はたまに浮上していた。
浮上しても自然の摂理に反している、または宗教上の関係で反対する人の方が多く、賛成を勝ち取ることはできないまま半世紀ほど経つらしい。
人の生活水準はやや貧困よりだが、学習能力の底上げを一時期していた結果、学力に至っては水準をあげている。
少子化が進む中、それをよしとした政策も進みつつあるらしい。
国民の管理に至っては国ごとに違っているらしく、おおむねどこの国でも個人番号というものが割り当てられており、それによって資産の管理などが一目瞭然、脱税率が減ったなど特質する面もあるが、どれがよくどれが悪いとは言い難いと征陸はいう。
シビュラの監視下にいることをよしとする者もいれば、悪とする者もいるのと同じだと付け加えた。
「私や須郷さんと出会ってしまう可能性は?」
「ああ、それな。それは調べる。はっきりするまで変装してもらうしかないな」
「わかりました。こんなことなら、雛河くんにホロを作ってもらえばよかったかな」
と、あちらの世界で使っていたコミッサちゃんのホロを着てみたりしながら話す。
「まあ、それも手だが。そのホロに似た人物がいないかの確認もしなきゃならん。なんせ、似た人物は三人いるっていうからな」
「しかし、そう簡単に出会ってしまうものなのでしょうか」と須郷。
「確率の問題か。厳しいな。人口が多ければ確率は下がるかもしれないが、減少しつつあるからな。だが、必ずしも同世代というわけじゃない、とだけ言っておく」
「でも、意図したことをしない限り出会いませんよね? 今回、征陸さんたちが私たちと出会ったのは、そう仕組まれていたから、ですよね?」
「断言できないが、おそらくは」
見つけるのは大変だと言う、たぶんそれは本当だろう。
ではなぜ、私たちは征陸さんたちと出会えたのだろうか。
下調べをしたからだと言われればそうかもしれない。
だが、出会い方など問題点は多い。
協力者はとても身近にいると朱は確信した。
「ほかになにかあるかね?」
「そうですね。あとは実際に動いてみないと」
「たしかにな。じゃあ、少し休むといい。たしか閉じこめられた時などの非常用のものを設置するのが義務づけられていたはずだが……」
と征陸がそれらしきところを探し、床に隠された収納庫を見つける。
そこはシェルターにもなっていて、数日間の水と食料、アナログ通信機、医療品などが詰まった袋があった。
「とりあえず、嬢ちゃんは薬を飲んで、少し食べた方がいいな」
なんとか無事、目的の世界に行くことができていた。
だが……
「大丈夫かい、嬢ちゃん」
乗り物に酔うことがなかった朱の人生初の乗り物酔いを経験していた。
「あの歪みはもう慣れるしかないんだよな」
と征陸はボヤく。
「たしか、酔い止めの薬がありましたよね?」
と、チェ・グソン。
「なんだい、持っているなら渡してやればよかっただろう」
「いえいえ、ありましたよね? と同意です。持ち合わせてはいません。もともと、連れ帰るのは狡噛さんだけでしたし」
「だとしてもだ、あっちの世界にだって酔い止めの薬くらいはあっただろうに」
「私を責めるんですか? 征陸さんだって、親切心で言える立場だったでしょう」
「まあ、そうなんだが。なんていうか、ついうっかりな」
「私もついうっかりです。本当にすみませんね、常守さん。すぐ医務室にご案内しますので」
嘔吐が止まらないが、忙しくてろくに食事もしていなかったことが吉だったのか、吐きたくても吐き出すものがない。
胸がムカムカして、胃液がかろうじて逆流する、その程度だった。
立ち上がろうとすると立ちくらみがしてよろけてしまう。
酔いもそうだから、空腹も関係しているだろう。
「私なら大丈夫です。須郷さんは?」
「自分はまったく」
「そう、よかったわ」
「いえ、ぜんぜんよくないです、監視官。すぐ、医務室に連れて行ってもらいましょう。顔色がよくありません」
「でも……」
と辺りを見回す。
「ああ、見張りがいるとか私、言ってましたね。本当に、どこに行ったんでしょうね。出迎えがないなんて。とりあえず、槙島さんに連絡を入れておきましょう。それでこのビルの中を動き回れるはずですから」
と、内線で呼び出してみたのだが、
「おかしいですね、誰もでません。護衛が数名いるはずなんですが」
「おい、大丈夫なのかい? こっちもなにやら巻き込まれているんじゃないだろうな。警察に連絡した方がいいんじゃないか?」と征陸。
「警察は勘弁してくださいよ、征陸さん。でも、確かになにか変です。征陸さん、ここを任せていいですか?」
「あんたはどうするんだ?」
「直接、確認してきます」
そういうと、顔認証でロックを外し、外へと出て行く。
「あちゃ……これはしまったな。嬢ちゃんを医務室に連れて行ってもらうべきだったか」
と、残されて気づく。
「征陸さん、私は大丈夫です。それより、この世界のことを教えてください。あまり目立った捜査はしたくないので」
※※※
征陸やチェ・グソンが住んでいるこの世界は、朱たちが住んでいる世界ほど近代化はしていない世界だった。
政府と各国は協力しあって自然保護に力を注いでいる。
その中で、絶滅種の保護などにも尽力している中、人間はタブーだが、動物のクローンならいいのではないかという論議はたまに浮上していた。
浮上しても自然の摂理に反している、または宗教上の関係で反対する人の方が多く、賛成を勝ち取ることはできないまま半世紀ほど経つらしい。
人の生活水準はやや貧困よりだが、学習能力の底上げを一時期していた結果、学力に至っては水準をあげている。
少子化が進む中、それをよしとした政策も進みつつあるらしい。
国民の管理に至っては国ごとに違っているらしく、おおむねどこの国でも個人番号というものが割り当てられており、それによって資産の管理などが一目瞭然、脱税率が減ったなど特質する面もあるが、どれがよくどれが悪いとは言い難いと征陸はいう。
シビュラの監視下にいることをよしとする者もいれば、悪とする者もいるのと同じだと付け加えた。
「私や須郷さんと出会ってしまう可能性は?」
「ああ、それな。それは調べる。はっきりするまで変装してもらうしかないな」
「わかりました。こんなことなら、雛河くんにホロを作ってもらえばよかったかな」
と、あちらの世界で使っていたコミッサちゃんのホロを着てみたりしながら話す。
「まあ、それも手だが。そのホロに似た人物がいないかの確認もしなきゃならん。なんせ、似た人物は三人いるっていうからな」
「しかし、そう簡単に出会ってしまうものなのでしょうか」と須郷。
「確率の問題か。厳しいな。人口が多ければ確率は下がるかもしれないが、減少しつつあるからな。だが、必ずしも同世代というわけじゃない、とだけ言っておく」
「でも、意図したことをしない限り出会いませんよね? 今回、征陸さんたちが私たちと出会ったのは、そう仕組まれていたから、ですよね?」
「断言できないが、おそらくは」
見つけるのは大変だと言う、たぶんそれは本当だろう。
ではなぜ、私たちは征陸さんたちと出会えたのだろうか。
下調べをしたからだと言われればそうかもしれない。
だが、出会い方など問題点は多い。
協力者はとても身近にいると朱は確信した。
「ほかになにかあるかね?」
「そうですね。あとは実際に動いてみないと」
「たしかにな。じゃあ、少し休むといい。たしか閉じこめられた時などの非常用のものを設置するのが義務づけられていたはずだが……」
と征陸がそれらしきところを探し、床に隠された収納庫を見つける。
そこはシェルターにもなっていて、数日間の水と食料、アナログ通信機、医療品などが詰まった袋があった。
「とりあえず、嬢ちゃんは薬を飲んで、少し食べた方がいいな」
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