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夢の続き

原作: その他 (原作:テニスの王子様) 作者: ゆき
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進化するドッグ&ご褒美大好き

 この度めでたく……めでたく?幸村家のペットに就任したトリッパーです、どうも。
 ワンルームの維持と諸々生活費の獲得にバイトを検討していたのだが、それも魔王様にも潰された。

「何見てるの? ……ハァ? 中3でアルバイト? マネージャー業務もあるのに?」

 てな感じでバイト情報誌を握り潰された、メシャア! っと。
 その流れで親と共にワンルーム解約書類を作らされ、家無しになった。幸村家を追い出されたら終わりである。絶望。

 最大の出費はなくなったが、同級生というだけの他人ん家でのうのうと過ごせるわけない。
 朝から幸村母の補助にキッチンに立ち、洗濯機を回す。夕飯作りは間に合わないので洗濯物を取り込み、掃除をし、風呂を沸かした。
 皿洗い後は仕事がなければ与えられた自室で宿題と予習復習。時々乱入者の相手。

 はっきり言って、オーバーワークである。だがしかし、居候なのだ。前世での社会人経験が図々しくさせてくれない。
 疲れるなーとは感じても、余所様の家に間借りしてると思えば気も休まらない。そしてそれはご家族も同じだろうと思うからこそだった。






※ ※ ※ ※ ※





「休憩十分!」
「ハイッ!!!!!」

 ジャージ姿で駆けずり回っていたところ、幸村様のよく通る声が響いた。
 何十人もいる全員を世話できる筈がないので、後輩部員と協力して作ったドリンクボトルを手分けして配置してある。

「犬」
「ワンッ! ボトルとタオルです!」
「よし」

「いや、ヨシじゃなくね?」

 丸井がタオルを首にかけながら突っ込んだ。

「まるで犬じゃねーかよぃ」
「呼び名もまんまじゃしな、人間の扱いじゃなか」

 仁王もうるさい。
 ベンチに置いていても休憩毎に命じられるのだから仕方ないではないか。
 最近じゃいちいち反論しても疲れるだけと察して、自分からワンワン吠えている。プライドは捨てた。私は忙しいんです。

「犬」
「ワンワンッ!」

 特に説明してない呼びつけにも的確に応えている。阿吽の呼吸だ。

「……会話になってるのが驚きですね」
「一緒に暮らしてお互いの言い分がわかるようになったんだろう」
「まるで熟年の夫婦っす……」

 唖然としているレギュラーは同居が同棲になっていることを理解した。
 ちなみに同クラの二人は教室でもやらかしており、教師やクラスメイトを唖然とさせている。
「アレ取ってくれ」で通じる夫婦のようだ。

 家でも暇はない彼女を、部長はわざとちょっかいをかけて息抜きさせているらしい。夫婦か。

 休憩を終え、再びそれぞれ別方向に駆け出し、部活が終わればまたお互いが近付いていく。

「それじゃあ、今日もお疲れ様」
「さよならー」

 同じように手を振り、家路に帰っていく二人。
 何か話してるのか、向き合っている。

「……リア充案件っすかね?」
「うーん、ペット扱いらしいが」
「もう夫婦でいんじゃね?」
「犬兼嫁か……」
「ブフォアッ」

 犬、本人知らぬところで嫁に進化である。





= = = = =





 彼の犬になってからというもの、魔王ながらもその面倒見の良さに部長職の適性というものを実感している。

 横暴なところも多々あれど、リードを離し目を離すことはまずない。
 体調変化には誰より早く気がつくし、表情を見ては思い悩んでることにズバズバものを言ってくる。

 監督責任というものを本能で知っている気がする。
 でなきゃ現状の私は何だというのか。

 ある意味すべてを委ねるにふさわしい相手に、私の気も緩んできた。
 それを自覚したのは25点という小テストが返却された時だ。

 待って、言い訳をさせて欲しい。
 前世一応四大を出た私だが中学最高学年、しかも進学校の勉学は人生2巡目万歳とはいかなかったのだ。

 一般知識的なものは積み上げた経験で同世代より1馬身リードだが、解く必要のない公式なんて覚えてない。
 故にこの惨劇である。

 もちろん即座にテスト用紙は飼い主様に回収され、能面のような表情に変わられた。
 まさか飼い犬がこんなバカ犬だったとは、と若干ショックを受けている気配もある。正直すまんかった。

 それで勉強も魔王に見てもらうことになった。スパルタ方式で。
 うん、知ってたよ。練習見てると5分刻みで部員がボロボロにされてくもん。どこの部長様より情け容赦ないと思う。

「ほら、犬。ご褒美欲しかったら正解しなよ」

 でも飴と鞭をご存知の部長様だと思う。

 おかげさまで次のテストでは満点でした。
 パーフェクト目指させるのやめて、極端過ぎて先生が脳みそ魔改造って噂してたから。
 改造されたのは人格と立場だけだからァ!





= = = = =





「犬、この前のテスト結果のご褒美あげようか」
「えっ、幸村様それホント!? 嬉しい、下さい!」
「うん、じゃあはい」
「……?」

 手渡されたのは映画のチケット。紙である。

「食べ物とかじゃなくて……? 犬のジャーキー的な」
「おまえ酒のつまみ的なの好きだよね」
「(前世酒飲みだったとは言えない)」

 チケットには今話題の泣ける恋愛映画タイトルが記されている。
 うーん、恋愛映画か。もうずっと見に行ってないな。今世はまだ中学生だし。

「一人映画かぁ」
「誰が一人で行けなんて行ったの。これは二人で見に行くんだよ」
「ファ!?」
「飼い主が犬のリードを外して一人で出歩かせるわけないでしょ?」
「あ、ああ、そう、かな?」

 いや人間ですけど。私人間ですけど!!

「せっかくのお散歩だからね、おめかししろよ?」
「毛並み整えればいいんです??」
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