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夢の続き

原作: その他 (原作:テニスの王子様) 作者: ゆき
目次

編入したら魔王に捕まった件&嫁という名の奴隷

 大学付属校の校舎は大容量で、卒業した母校が私立女子校だった私には威圧感があり過ぎる。

 こういう学校は一学年のクラスが多い。
 編入して早速不安を覚えた私の足取りは既に重くなった。

 中学の勉強どころか高校だって必要ないし、あえて引きこもり中卒でもいいんじゃね?
 親だという男女は生まれてこの方会ったことがなく、当分日本にも帰らない。
 無断で辞める? 辞めちゃう??

 てれてれ歩いていた足が、ピタリと止まる。
 幸い廊下に他の足音はない。何せもう授業中だ。
 教師は私の書類手続きを待ってはくれず、さっさと階数と教室だけ告げて今頃ホームルーム中だろう。

 ーーバックレちゃいなよ。

 天使が私に囁いた。
 そーします、と何の未練もなく身を翻した私は階段を降り、渡り廊下に出た。

 雨雲が立ち込め、遠くでゴロゴロと鳴り出した空。
 湿気た空気は嫌いじゃない。

「あれ、君は何してるんだい?」

 まさかの生徒が外にいた。
 渡り廊下近くの花壇横で園芸道具を片付けている。
 お前の方が何やってんだ。

 と思ったが、相手の声と顔面に口答えの気持ちが消失する。

「俺はね、散らかされた道具の片付け。美化委員だから先生に任命されたんだよ」

 身の潔白を言う彼は正確に私の顔を読んだんだろう。
 しかしそれも出来て当然か、と思う。

 何せ彼はーー‘’あの‘’立海テニス部部長、【幸村精市】なのだから。

 紙面から飛び出た神の子の美しい頭身バランスに、いつぞや見た二次元の姿が甦る。
 主人公にラストゲームで負けてしまった、その姿を。

「これでいいかな。君は? 教室がわからなければ連れて行くよ」
「や、あー……」

 しまった、編入したけどバックレますとは言い難い。
 部長職の彼はそういうの厳しそうだ。

「もしかしたら編入?」
「え、何で知って」
「だって君は立海にまだ染まりきってないし」

 どんな判断だ。しかし当たってる。

「帰ろうとしてたんだ?」
「何で追及するんですかねぇ……?」

 顔がひきつるのを感じる。
 知り合ったばかりの自分に興味はないだろうに、何で突っ込む。

「ふぅーん……」
「え、なんスか」

 仕事を終えても教室に戻ることなく、空いた両手を組んでいる。
 え、私なんで部員でもないのに仁王立ちされてんの?

「うん、それなら君は俺がもらってあげようかな?」
「お断りだ」
「……」

 やっべ、うわやっべ。
 うっかり即答したら満面の笑み(後ろに般若)が返ってきた。
 なんでや工藤。

「うん、それなら君は俺がもらってあげるね」
「……」

 嘘やろ工藤。
 こいつ今断言しやがったぞ。

「いや何言ってるかちょっと意味わからないですね」
「フフッ、君は今日から俺のもの……ということだよ?」

 なんでや工藤。





= = = = =





 ――人の意思を無視するのは、よくないと思うの。

 くっそ力強い腕力で引きずられ、心は既にボロボロである。
 お前と私、今日初めてボーイ・ミーツ・ガール。そんな気安い関係じゃねぇよ。

「ふんふーん♪」

 話を聞けば同じクラスで、心の底から心外である。なのに魔王は鼻歌すら歌っていて、担任教師とクラスメイトたちの前に私を引きずり出すと、

「これ、俺の下僕ね」

 と宣言するのであった。

「……」
「……そうか」

 いやそうかじゃねぇよ先生、何でやねん。

「同意は得てるんだよな?」
「んなわけねー」
「もちろんです!」

 全被りする台詞に、そっと視線を外された。おい。

「……そうか。幸村の言うことだからなぁ」

 どういう意味? この学校、教師すらも神の子の支配下なの? 何で? 神だから?? 先生人間だもんね????

 生徒もざわめいているが、面と向かって何か言うわけではない。前世から人気の彼だから、女生徒の反感を買いそうなものだが……。

「あの、私同意は、」
「したよね?」
「してな」
「したよね??」
「して」
「したよ」

 してない。

 何なんだこの魔王。
 不治の病に倒れる儚げな美少年なんじゃねーのかYO!

「がんばれ編入生、奴は悪質な夢小説キャラだぞ」

 ……生徒の中に、トリップ仲間がいるのも理解した。

「ちなみにテニス部の小間使いね」
「マネですらねぇのかよ!」

 夢じゃない、これってば絶対夢じゃないぞマジで。
 これは、あれだ、嫁姑雑誌。陰湿な嫌がらせと耐える嫁のやつ!

 え? 嘘だろ、トリップしといて。
 漫画キャラの奴隷とか。誰得だよ。

「あ、チャイム鳴った。とりあえず自販機でコーヒー買って来いよ。無糖な」

 お前かよ!!!!!





※ ※ ※ ※ ※





「……っ、ひっく、っ」
「…………幸村、お前」

 放課後、泣く私を引きずって現れたテニス部部長に、部員が何とも言えない顔を向けた。

「あはは、気にしないで。俺の猫可愛がりに喜んでるだけだから」
「そんなバカな」

 真田が崩れまくった泣き顔の私に困惑しまくっている。
 明らか私のメンタル普通じゃないからな。朝から自尊心踏みにじられまくって泣くしか出来なくなったからな!

「ちょ、おい、もう涙止めろよぃ、ほら、ティッシュ」
「目が真っ赤ぜよ、いつから泣いてたんじゃ?」

 朝イチのホームルームです。

「私のタオルを使ってください」
「スポドリも飲むか? 声枯れてきてるぞ」

 朝から泣き通しだからな。

「ぶちょーに何かしたんすか? 機嫌はいいっすけど悪いみたいな天国と地獄の笑顔っすよ」
「年間でも滅多に見られない顔だな」

 何もしてねぇ、むしろされた記憶しかねぇよ。

「みんな酷いな、ただうちの部のマネージャーにってスカウトしてきただけなのに」

 初耳なので帰っていいですか???
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