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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

友の在り様

 他にやることもなかったので教室に戻ると、見知った者が一人教室にいた。
 相手も気付いたのか声をかけてくる。
「相変わらず面倒なことしてるじゃん」

 間桐 慎二。青みかかった髪をオールバックにまとめて、同い年にしては落ち着きのある青年だ。

 整った容姿から異性にモテるらしいが、色事の噂は聞かない。性格は自信過剰。
 それに見合う能力があるから、尚のこと酷い。

 中学の時に知り合って、高校に至るまでずっと仲良くしている。士郎は私的な付き合いを避けてはいるが、距離感の取り方が上手い慎二のおかげで、長く続いていた。

「慎二か、おはよう」
「ああ。今日は良い朝だ。とても、とても良い朝だね」
 眩しそうに眼を細めて、教室を見回している。まるで卒業するみたいだ。いつもの彼らしくない。

「どうした? 今日はえらく詩的じゃないか」
 なにやら上機嫌らしい。良い事でもあったのだろうか?
「偶にはそういう時もあるんだよ。衛宮と違って、僕は感情を出す事に躊躇いがないんだ」
「…俺もそうだよ」

 見透かされていると思ってはいるが、どこか義務的に否定の言葉を紡いだ。
 いつもなら慎二も続けなかったが、哀れみを仄かに乗せた声で言葉が続く。

「良く言うぜ。笑うだけで死にそうな奴がさ」
 本当に本質を見抜いた言葉だ。返答が出てこない。
「……」

 煉獄の記憶を覚えている。悪夢なんて何度見たことだろう。まるで災厄の呪いが残っているようだ。
 ずきりと、再び鞘の欠片が傷んだ。酷く人間らしい。それもまた悲しい話なのかもしれない。

「おっと。こんな話をしに来たんじゃなかった」
 どうやら士郎に話があって、早く登校したらしい。本当に珍しいことだ。朝かららしくない。
「僕の、ああそうだ。僕の妹を覚えているかい?」

 噛みしめる様な言葉を受けて、静かに返答する。
「桜ちゃんだったか?」

 間桐 桜。弓道部に所属する女生徒だ。目の前にいる彼の妹で、遊ぶ内に何度か顔を合わせていた。
 あまり深い付き合いもないが、顔位は知っていた。多分相手もその程度だと思う。

「そう。愚図で、家事も出来なくて。なんていうか、本当にどんくさい奴なんだけど」
「言いすぎじゃないか」

 憎まれ口はいつものことだが、それにしたってひどすぎる。本当にそう思っていないのは、長い付き合いで分かってはいるのだがね。本当にそう思っていたなら、慎二は言葉にしないだろう。

「良いんだよ。全部事実だ。褒められる所なんて、せいぜい巨乳だって事くらいだぜ」
「お、おう」

 朴念仁の士郎も覚えている程度には、確かの桜のスタイルは良かった筈だ。
「そんな奴なんだけど。…それでも僕の妹だからね」

 困った様に優しく微笑んでいた。柔らかな微笑みは力強く。覚悟と決意を感じられた。
 珍しい。いつもへらへらと笑う彼が、本当に真剣な想いで言葉を紡いでいるんだ。

「なんていうか、幸せになる義務? ってのがあると思うんだよ」
「ふむ」

 妙な言い回しだが否定するつもりはない。誰かの笑顔は士郎にとって最も大切なモノだ。
「だからさ――何かあったら守ってくれないか?」

 唐突な言葉だ。現代日本でまともに聞かないような言葉でもある。魔術師としての士郎を知っているのか? それにしては、漠然とし過ぎている。

 だからこれは、友としてのお願いなのだろう。便利屋として使いたいわけじゃない。
 友として、同じ男として託されている。いよいよ不穏な空気が広がってきた。

 この男は何をしたがっているんだろう?
「それは…」
「ああ。分かってる。突拍子がないってのはよく理解してる」

 その言葉の後で、ちらりと士郎の左手を見た。包帯の巻かれた手を見ているのは、ケガを気にしているようではなく。仄かな羨望も瞳に宿している。
「でもま、そういう流れがあるんだよな」

 吹っ切れた言葉は爽やかな音が乗っている。淀みもない。ただあるがまま、自分の全力を尽すと決めた男の言葉だ。

 話のおかしさを抜きにしても、少し羨ましいと思ってしまった。
「慎二?」

 今にも消えてしまいそうな友の様子を見て、さすがに心配になってきた。

 こんなにも真面目な雰囲気で話し込むなんて、それこそ初対面の時以来だった。
「アイツ本当に馬鹿だからさ。なんていうか、こう」
 困った様に笑う。どこか誇らしげに笑っている。

「僕が死んだら駄目になっちゃうと思うんだ」
 止められない。あきらかに不穏な話をしているが、これは止められない。既に決意が固まっている者の顔だ。あまりにも自然で、力強い在り方を止めてやれない。

「で、止まれない程に馬鹿なんだよ。笑っちゃうよな」
 そのまま士郎の瞳を真っ直ぐに見つめて、静かに言葉が続いていく。

「頼む。頼むよ衛宮。お前になら、どんな結末になっても納得出来るからさ」
 この言葉もまた、士郎の本質を見抜いているのだろう。正義の味方の行き着く先。悪を殺すからこそ、正義の味方なのだと知っている。

「分かった。誓うぞ。その願いは、お前の命に値するんだな?」
「助けて、って言われたんだ。じゃあしょうがないだろう」

 それはとても大きな変化だったのだろう。落ち着きが見える慎二の在り方は、どこまでも格好良い。
「僕は、桜のお兄ちゃんだから。妹は守らなきゃだろう?」

「俺が出来る事なら何でも手助けする」
 言外に命がけの戦いにも、ついていくと告げていた。士郎はそういう奴だ。感情がないわけじゃない。恐怖を覚えながらも、死への道を進んでしまう男だ。

 その在り方に力強さがないのは、宿す理想に翳りが生まれているからだろうか。
「良いんだよ。正義の味方ってのはいつだって独りだ」

 見透かすように慎二が笑っていた。それで良いのだと笑っていた。士郎が、いつか自分の幸せを許せるようになるだろうと。友として付き合ってきた彼は理解している。

「お前が出張ってきたら、僕の格好良さが薄れるからな。だから、良いんだ」
「…じゃあな。慎二」

「ああ、それじゃあな。少しは人間味が出てきたようで、安心したよ」
 楽しそうに笑いながら、慎二が去って行った。

 もう二度と会えない予感がするけれど、止められない。それが侮辱と無意識に理解しているからこそ、変化した士郎は止められないんだ。
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