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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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尋常ならざる戦い

 夜。欠席した慎二を心配しつつ、いつも通りの学校生活を過ごした。
 そうして、他にも頼まれていた依頼を片付けていると、気がつけば下校時間も過ぎていた。

 冬の夜は日が落ちるのが早い。既に真っ暗闇である。少々作業に集中しすぎていたらしい。
 色々と怒ってくれる人が居るから、気をつけていたつもりだったけど。

「…この分だと、また藤ねえに怒られるかもしれん」
 最近物騒な世の中になっていると聞く。
 行方不明者の増加や、集団失踪など。まるで肉体だけ融けたかのように、人が消える事件が多発しているらしい。

 それなのに、警察の大きな動きもなく。どこか神秘の匂いを感じるのは気のせいだろうか?
 呑み込まれる不穏なイメージを、そういった事件から感じている。

 魔術を修めていても、今の士郎に出来る事はない。分かってはいるが。
「納得は出来ない」
 口に出しても何も変わらず。帰ろうとして――校庭から音が聞こえた。

 金属同士がぶつかりあう、甲高い響きの独特な音だ。少なくともこんな遅くに聞こえる音じゃない。いや時刻の問題ではなく。随分と物騒な音が響いている。

 不可思議な音に誘われるように向かうと。
 そこは戦場だった。
「|強化開始《トレース・オン》」

 反射的に魔術を起動して、動体視力と運動能力に強化を施した。が、二体の何者かが戦っている光景を見て、瞬時に理解した。
 あの二体には、強化魔術なんて何の意味もなさない。かけ離れた化け物共が殺し合っている。

 そう。校庭で戦う者達がいる。それだけでも異様だが、二人の振るう獲物と衣装が現実離れしていた。

 片や青い全身タイツに身を包んだ男。鍛え抜かれた肉体は、冗談みたいな衣装を自然にさせている。
 どこか野獣の如き獰猛さと、研ぎ澄まされた武の雰囲気を感じさせた。

 何よりも印象的なのは、両手で振るっている紅の長槍だ。なんて禍々しい。血液と、そこから心臓をイメージさせる紅の魔槍だ。
 軽々と、それでいて衝撃の重みを感じさせる操り方は、常軌を逸した練度を感じる。百や二百ではきかない。相当な命を奪っていよう。

 何よりも速度が異常すぎる。強化した動体視力ですら、視認を許さない。音速を超えているのか? 
 確実にまともな人間ではない。ソレと互角に戦っている化物もいた。

 片や黒と白の双剣を自在に振るう男だ。紅の装束と黒の鎧を身に纏っている剣士……なのだろうか。双剣を扱っているのに、彼に最も適した獲物はもっと違う物だと直感した。

 どこか軍人の雰囲気も感じられる。士郎には何の戦闘経験もないのに、可笑しな話だ。直感が確信させた。
 鷹の如き異様な眼光が目立つ。白髪褐色肌の長身、鍛え抜かれた武技は一切の無駄がなく。

 絶え間なく、妥協なく鍛えられたのだろうと。素人に近い彼にさえ分からせる。それでも槍兵の様な冴えは見られない。天賦の才がなかったのか。

 何故だろう? 紅い騎士の剣戟に目が吸い込まれた。現代ではありえない光景なのに、二体の、時に紅い騎士の動きは不思議としっくりくる。

 獰猛な槍使いと堅牢な双剣使い。青と赤。相反する二人の戦い。戦闘スタイルも違う。攻守のバランスが正反対だ。
 だが共通するのは。

「…なんて膨大な魔力だ」
 そう。人の身では到達できない神秘を感じる。発する魔力が息吹となって、圧力すら感じるレベルであった。

 直感的に、目の前の存在は人を超えた高位の、それこそ英雄と呼ばれる者なのではと。彼の優れた把握能力が認識させる。
「現代に蘇った英雄だなんて」

 ありえない。そのありえないを起こす可能性があるからこそ、魔術なのではないだろうか。
 手出し出来ず。二人の戦いを眺めている。あまりにも存在の差が大きすぎて、干渉出来ない。

「はっ」
 考えて苦笑が零れた。どうやら、干渉するつもりがあったらしい。
 化け物共の殺し合いは発展していき。槍兵の男が、あきらかな溜めを見せた瞬間。ここまで距離が離れた士郎でも理解した。

 紅の騎士は死ぬ。今から放たれる魔槍の刺突は、技術でどうにかなる次元にないのだと。
 反射的に小枝を踏み抜いて、化け物共に存在を示してしまう。…怖い、怖い。確実に死ぬ。
 だけど、ここで動けない衛宮 士郎は、存在している意味がない。誰かに降り注ぐ死を見て、止まってはいられない。

「…誰だ?」
 槍兵の男の呟きが聞こえる直前に、校舎へと逃げ始めていた。
 強化された脚力はスプリンターに匹敵する。それが何の意味も成さない事実を知りながら、彼は走っていく。冗談みたいな話だ。今夜、どうやら士郎は死んでしまうらしい。

 走る、走っているのに…廊下の先で待ち受ける槍兵の姿は、死神のようにすら思わされた。
「運がなかったな坊主。ま、見られたからには死んでもらうぜ」
 あっさりと告げられた死の宣告に、抗う力は許されていない。

 先程見ていた槍術には到底及ばない。力の抜けた刺突さえ、避ける力はなかった。冷たい穂先が心臓を穿ち。炎が胸に投げ込まれた様な激痛と共に、内部が破壊される感覚を与えられて。
 全身から力が抜けていく。崩れ落ち暗転と共に意識が消失していく。
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