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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
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最強は遠く

「たった一人を殿に残して、私を止められると思い上がるか」
 仄かな怒気さえ感じられる言葉だった。逃げる二人を見逃したのは、すぐにでも片付けるからだろう。
「それとも単なる自殺志願者か? 愚かな」

 モードレッドがいてもギリギリの状態だったのだ。戦闘能力はアーチャーの方が劣っている。遠距離から嬲るでなく。真正面から、剣術で応ずれば確実に敗北する。
「すぐに追いついて、私は2人を殺すだろう。無意味だ」

 つまり、アーチャー単騎では確実に敗北する。時間稼ぎすら難しかろう。隔絶した力量の差が存在するんだ。
 そんな事は彼も理解している。故にこそ堂々と告げるのだ。

「おや? 宣言通りに斃すつもりだったのだがね。私も舐められたものだ」
 双剣を投影して構えた。だらりと力の抜けた自然体だ。

「良い構えだが、一か零を迫らせる。命がけの構えに見える」
 あえて急所を晒す事で、敵の狙いを限定させる剣術。鍛え抜かれた五体と、果てもなく戦い続けた戦闘論理の合わせ技であった。
「生憎と凡人でね。選べる手段は少なかったんだ」

 それでも彼に神からの加護はない。特異なる血筋でもない。人間の限界まで鍛えただけだ。筋力だけを見ても、バーサーカーには敵わないさ。
 英雄達の中でも特筆すべき知名度もない。高い能力は望めず。それでも、堅実愚直に重ね続けられた、美しい力が構えから見て取れる。

 狂化された彼女でさえ、目を奪われる。だからこそ無慈悲に事実を告げるんだ。
「貴様に天賦の才は感じられない。堅実に重ねられた努力など、我が暴威が吹き飛ばす」
 見惚れていた事実から目を逸らして、勝利する意思を伝えた。

 彼女らしい。真っ直ぐな言葉に微笑を返しながら。
「ならば試してみよう。これ以上の言葉は不要だ」
「言ってくれる。受け止めてみせろ!!」

 魔力放出にて、バーサーカーが瞬時に距離を詰めた。迷いなく曇りない彼女の剣戟を、ただ静かにアーチャーが受け続ける。
 ――双剣が砕けるかと思った。隔絶した一撃を受け止める。

「ぐっ!!」
 ステータスだけを考えても、二ランクは違う相手。剣術は当然の様に劣っている。彼女の様な直感は持ち合わせていない。

「その程度か。脆いぞ弓兵!!」
 一撃を受ける度に全身が爆散しそうだ。不可視の鞘をなくした剣は、洒落にならない切れ味を誇っている。真名解放もなしにだ。
「この剣では不足かね」

 切り裂く鋼とまで謳われた神秘の結晶は、干将・莫耶の伝承ですら受けがたい。罅割れて何度も取りこぼす。
「何度零そうと取り戻すか。大した魔術だ」

「元より贋作者でね。純粋な剣士ではないのだよ」
 が、元よりアーチャーは剣士ではない。瞬時に投影して捌き続ける。贋作者の真価は究極の一に非ず。
「良く言う。私は貴様の剣は嫌いじゃないぞ」

 究極を持ち得なかった凡人が、無限の剣製をもって、最強の英霊に拮抗していく。地獄を走り抜けた人間だけが持てる。卓越した技量であった。
「褒める余裕があるとは、本当に舐められたものだ」
「はっ! 大した防御術ではないか!」

 およそ防戦においては、彼の力量は並ではない。幾度もの激戦を超えて、格上と戦い続けて、守護者として世界の敵を殲滅し続けた。戦闘経験の密度で言えば、並外れたモノを持っている。
 事実、騎士王でさえ攻めきれない。殺しきれないんだ。

 それで神域に至れない時点で、彼の才能のなさが証明されよう。
「侮辱を訂正しよう! 貴様の実力は私に匹敵する!!」
 聖剣の解放はさすがに望めない。圧殺する手札がない状況だからこそ、アーチャーの粘りが活かされている。

「どうしたアーチャー? 私を打倒するのではなかったか!」
「はっ。笑える程に力量差があるじゃないか」
 それでも徐々に圧されていた。当然だ。ステータス差は歴然であり、彼女の直感は彼の戦闘論理を凌駕する。

 当たり前のように敗北する。――覆すからこその、正義の味方だろう!!
「いけ!」

 干将と莫耶を投擲した。連続する投影は淀みなく。徹底的に裏打ちされた戦闘論理が、バーサーカーの全てを完全に読み切る。

「鶴翼三連……叩き込む!!」
 互いに引かれ合う夫婦剣は檻の如き軌道を描いて、真正面から接近するアーチャーへの対応を許さない!

「舐めるなアーチャー!!」
 応ずる斬撃に右腕を切り落とされる場面すら。
「侮ったのは貴様だ…セイバー!!」かつての呼び名。弓兵が知らぬ筈の呼び名。

 彼女の動揺にも止まらず。畳みかける連撃は、彼が培った努力の全てだ。鶴翼三連、迫り来る双剣が爆発して、トドメの撃がバーサーカーに叩き込まれた。

「…狂化で直感のランクを落としたのは失敗だったな」
 セイバーと同ランクの直感だったならば、或いは読まれていたかも知れない。

 完全に霊核を破壊し消滅に至る。強引に押し切った対価は、弓兵の右腕を落としたが。十分すぎる結果を生み出して――鞘の力がバーサーカーを復活させる。

「なっ!?」
 動揺する隙を見逃さず。彼女の剣がアーチャーの胸を刺し貫いた。弓兵の楔を壊し消滅を確定させた。
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