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fate もしもモードレッドが喚ばれたら

原作: Fate 作者: MM
目次

理想の結晶

 完全に傷を修復して、彼女は静かに絶望を告げる。
「惜しかったな」
 鞘の加護さえなければ、アーチャーの勝利で幕は閉じていただろう。
 
 見事な力量だった。油断がなかったとも言えないが、強かった。
 状況がバーサーカーを徹底的に消耗させていたとは言え、現代に生まれた英雄の彼が、よくぞここまで叩き上げたものだ。

 逃れられない敗北を告げる声を受けて、彼は不敵に笑ってみせる。
「勝ったつもりかね?」
 まだだ。まだ止まれない。愚直に重ね続けた理想の果てを、彼女に示さないで終われない。

 消滅を間近にしても、折れる男ではない。永劫戦い続けた彼の心は、摩耗しながらも鋼の如く。体は剣で出来ていると語る愚者。
 彼女からのトドメはない。否。動く余力が存在しない。

 捨て身の攻撃でマスターを狙われれば、転じ守る余裕もないんだ。鞘の加護は既になく。
「それだけの神秘。何の対価も無しには使えないのだろう?」

 事実だ。後ろで控えていたイリヤの様子を、彼の鷹の目は見逃していない。…弓矢で狙わない辺り。やはり甘さを残しているのかもしれない。

「察するに、令呪の数と同じと見た。既に三画消えている。ならば後一度殺しきればそれで終わる!!」
「……ほう。推測に間違いはない」

 アーチャーは口から血を吐き、既に四肢は力が入らない。
 視界が霞んできた。意識が途絶えかけている。消滅は間近であり、逃れられない終りを感じ取っている。

「霊核を砕かれ、中身を零しながら出来るとでも?」
 彼女に油断はない。殺しきるまで手は止まらないだろう。何より無傷である。既に満身創痍のアーチャーとは違う。

 動かないのは余力がないからだ。わざわざ仕留めるより、消滅を待った方が楽に片付けられる。攻撃は全て防いでみせよう。
「出来るさ」

 元より彼の戦いは、外敵とのものではなく。イメージを投影し続ける為だけの、己自身との戦いなのだから。
 信ずる理想は目の前にある。ならば、紡げぬ理由はない!!
「投影開始」

 今は失われし鞘の加護。星の記憶は消失している。彼の原初の記憶さえ霞んでいる。守護者として戦い続けた。取りこぼし続けた。

 それでも、彼女との出会いはなくしていない。今目の前に居る少女へと、積み上げた結晶が奇跡を紡ぐ。

 原典足る理念を創造し、基本の骨子を組み立てて、構成する材質は魂で代用し、製作に用いられた技術は此処に、成長と経験はかつての想いを込めて、蓄積されし年月を再現する。

 結ばれし理想の結晶。いつかの時に宿した、摩耗されても消えなかった至高の幻想。選定の剣を両手に握り締めていた。
「|勝利すべき黄金の剣《カリバーン》」

 かつて他の世界線の狂戦士に振るわれた黄金の剣。その思い出を知らぬ彼女でも、アーチャーが到達した奇跡の価値は魂で感じ取れた。
「ぐっ、一振りが限界か…!」
 投影の反動は重く。今にも消滅しそうな彼を前にしながらも。

「――素晴らしい」
 目を奪われた。この男は振り切るだろう。消滅間近の英霊を相手に、何を恐れる必要があるのだろう。

 それでも、アーチャーが放つであろう一撃の破壊力を確信している。イリヤは最早限界を迎えている。
「身を削り応えよう。紅の騎士よ、超えられるか?」
 強引に魔力を燃焼して、本来放てなかった筈の一撃を練り上げる。

「|約束された勝利の剣《エクスカリバー》!」「|勝利すべき黄金の剣《カリバーン》!!」
 極大の閃光がぶつかり合って、破壊の渦が喰らい合っていく。

 残滓が互いの肉体を傷つけた。威力は互角。放つ神秘は同等である。
 なんたる奇跡か。死にかけの男の紡いだ投影が、理想が、彼女の聖剣に匹敵する事実が素晴らしい。

 無論、アーチャーの消滅は更に進んで。
 それでも、遂にはバーサーカーの右腕を消滅させた。
 これで宝具は使えない。再生する手段も残していない。後はモードレッドだけで戦える。残された者に大きな成果を与えられた。

 エネルギーが爆散し古城が崩壊する。宝具のぶつかり合いの果て。
「…これで終りかアーチャー。本当に惜しかった」
 この時点でアーチャーの身は8割以上消滅していた。殆ど残滓すら残らない中で、確かに目が合った気がした。

「片腕は餞別代わりに与えましょう。貴方が紡いだ幻想は、確かにこの身を切り裂きました」
 最早鞘の加護はない。あと少しで敗北していただろう。
 令呪の一つでも凜が残していたならば、或いはバーサーカーを打倒出来たかもしれない。無名の英霊が騎士王に対して、こうまで戦いきったのだ。

 並大抵の努力では至れぬ。不断と不屈の信念だけが、彼の生涯に刻まれていたのだろう。理想を追い求めた者の意地を見せられた。
「名も知らぬ騎士よ。我が名において認めましょう」

 どこか寂しげな安堵の微笑みを浮かべながら、アーチャーが消滅した。
 これにて残るサーヴァントは二体だ。セイバーとバーサーカーだけ。
「イリヤ、果ては誓いですよ。…もう声も聞こえませんか」
 とうの昔にイリヤの人間的機能は削がれて、ただ杯のみが力を宿す。決着の時は近い。
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