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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT021    『サイコフレーム』




 エンジニアは持論を語ってくれる。なかなかに興味深いものではあった。モビルスーツの小型化……たしかに、これ以上、火力も装甲も強化する必要はないかもしれない。

 最新型の装甲でさえ、ビームライフル一撃で粉砕することが出来る。

 強くなり過ぎた火力の前では、装甲を強めたとしてもムダだ。可能であれば、避けることだ。避けられたなら?どんな強力なビーム砲でも、誰にも全くダメージを与えることはないのだから。

 小型化して、より当たりにくくなる。レーダーを妨害してくれるミノフスキーの影に隠れながら、高威力の武器を持った高速の小型機に突撃されたら、現状のモビルスーツは不利極まりないだろう。

 体当たりやら蹴りなんていう、機体に負担をかけてもいい攻撃ぐらいしか、大型機にアドバンテージはなくなってしまう。マンモスは、滅びる定めなのかもしれない。

「……でも。現状の素材のなかでは……強い感応波を吸収したサイコフレームが、モビルスーツにおいては最強の素材だと思います」

「……ユニコーン・タイプに使われているわけだ?」

「……そうです。どうせ、少尉にはそのうち伝わることでしょうし、言っちゃいますよ。知っていたほうが……作戦の成功率だって上がるはずですから」

「だろうな。頼むよ、教えてくれるか、イーサン?」

「はい。サイコフレームは、小型のサイコミュを……感応波を吸収して演算を行ってくれるミクロ・サイズのコンピューターを、細胞のように金属内に埋め込んだ素材です」

「考える金属?」

「想いを受け止める金属ですね。パイロットの意志を吸収し、それに応じた処理を行う」

「高速化するってことか」

「そうですね。一つの特徴としては、そうなります。パイロットのマニューバ・イメージを受信して、素材からもマニューバを伝達してくれる。有線の装置よりは、回路の切り替えが少なく済む分、とんでもなく早く動けます」

「……オートで操縦させることは?」

「出来ますよ。無人機の方が、速さは確保できます。パイロットのことを気にしなくて済みますから。でも、サイコフレームは、そもそもパイロットのニュータイプとしての能力、感応波に依存した設計ですから」

「ヒトが乗らなければ、真の性能は引き出せない?」

「そうです。パイロットのマニューバ・イメージに即して、マシーンに最適解の処理速度と、いや……それ以上の処理速度で演算をフィードバックして、最大の出力を弾き出します。モビルスーツに詳しい人物のイメージがあれば、相手の構造的な弱点に対して的確に打撃を与えることも可能なようです」

「……ふむ。記憶のなかにある、相手の弱点か」

「ニュータイプや強化人間なら、相手の感応波を受信することもあるようです。相手を知ることが出来たら、記憶にないターゲットが相手だっとしても、より効果的な破壊のイメージをサイコフレームに伝達することだって可能ですよ!」

 エンジニアはそう語っていると、やたらと興奮しているようだった。ジュナ・バシュタは彼の喜びに共感してやれる部分も持っているし、共感しかねる部分も当然ながら有していた。

 ヒトの高次なコミュニケーション能力を、兵器として使うってことだから。

 ……それは確かに効率的なことなのかもしれない。相手の動きや、材質、弱点までも演算子ながら、微調整された攻撃を放つ―――能力としては、とても興味深いことだ。しかし、ヒトの分かり合う力を……破壊にしか使えないというのも、何だか間違っているような気がしてしまう。

 ……リタは。

 『本物の奇跡の子供』は、あの刻を超越したヴィジョンを……破壊になんて使わなかった。むしろ、逆に……ヒトを護るための力として使うことを選んだじゃないか。

 それが、本当のニュータイプの使い方なのかもしれない……。

 オーガスタが目指したニュータイプの軍事利用よりも、あの日、三人で必死になってコロニーが落ちてくるから逃げろと叫び回っていた時の方が、ずっと有意義で、人々の役に立てたように思える。

「……少尉?」

「……ん。ああ、すまんな。感動しているが、ちょっと頭が痛くなった。技術についての説明は、私のアタマには入りにくいようだ」

「そんなことは無いと思いますが……おそらく、サイコスーツを使用した時のダメージが心身に出ているのではないかと?」

「……実戦で使ったわけじゃない。単に、データを取るための目的で、使っただけのことなのにな……」

「それでも、サイコミュ系列の装備は、やはり心身への負担が大きい。パイロットを、演算装置の一部として組み込むんですから」

「OSの代わり……いや、インターフェイスの代わりにされているわけか」

「もっと、多くのことをさせられていると思いますよ。ヒトの中枢神経系に対する負担の大きさから考えれば……教化人間たちは、マシーンからのフィードバックに、精神を侵食されて壊れていったらしいですから」

「……理解できるか、それを?」

「いくらかは。戦闘用のマシーンであることを……軍用モビルスーツの『部品』であることを、サイコフレームはパイロットに強いる。ヒトの脳や体って、『環境』からの要求に応えたがるもんです。暑ければ汗をかくでしょう?」

「軍用機械の一部になれと強いられたら、それに向いた性格が、本能から湧き出てしまうのか?」

「そうだと思います。そちらの方が、兵器としては強い。もちろん、倫理的には色々と問題は出て来ちゃうハナシなんですけどね」

 それでも面白いから。科学はきっと進んでしまうのだろうし、科学者たちは悪びれもせず、人体実験だって繰り返していくのだろう。

 彼らは、それで旺盛極まりない知的好奇心を満たせるし、メシの種にもなる。偉大な発明を成し遂げたなら、彼らの生活はより豊かなになるし、名誉だって手にするのだから。

「……私の神経系は、『不死鳥狩り』を全うするまで耐えられるのか?」

「それは、大丈夫なはずです。数字の上では、ジュナ・バシュタ少尉は、この装置に適応しているんです」

「適性があるわけか」

「……はい。ニュータイプ、あるいは、強化人間としての才能が……少尉の精神崩壊を遠ざけてくれているんです」


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