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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT022    『心の消費期限……』




 自分には曲がりなりにもニュータイプの片鱗はある。そう言われると、オーガスタ研究所が子供たちに行った数々の実験も、少しは理に適ったモノであったのかもしれない。

 ジュナ・バシュタ少尉は自分の能力が、自分の才能によるモノだとは信じていない。強化人間のように、人工的に付与された結果だと考えている。薬物で、脳内の神経伝達速度を高める―――機械で言えば、演算機能を高める、と同義語だ。

 それを行えば、どうやらサイコミュ装置どもは応じてくれるらしい。人間の脳が放つ感応波を、機械どもはヒトよりも精確に受け止めてくれる……。

「サイコフレームは、ニュータイプの従順な道具であり……ニュータイプは、サイコフレームの従順な下僕ということか」

「……いい例えかもしれません。正直なところ、サイコフレーム・モビルスーツとニュータイプ・パイロット、そのどちらが支配力を持っているのかは、分からないところもあります」

「分からなくとも、兵器としても兵士としても問題はない。戦果は上げられるだろう」

「ええ。しかし、両者の境界線があいまいになるほどに一体化していると言える」

「……サイコミュに、人が操られるか」

「そういうのって、可能だと思いますよ。強烈なサイコミュ装置があって……たとえば、世界中の人々の脳にでもサイコフレームの断片を突っ込んでおけば、巨大な送信装置があれば、世界中の人々を、大元のマシーンで操るなんてことも」

「……ヒトを演算装置の一部にするわけだしな」

「個人用のPCと、ネットワークを繋ぐのと、原理的には同じですから」

「ウイルスを世界中のPCや端末に送りつけられて、どれもが壊れるようなものか」

「そんなところです」

「……実現は可能なのか、そんなこと」

「そうですね。現在のサイコフレームをはるかに上回る、強烈な精神感応波の送信装置と、高度に洗練された演算特化のサイコミュがあれば……人体には何の細工をすることもなく、送信波の届く場所にいる人間を、強制的に洗脳することだって出来ます。サイコミュって、ヒトの心に大きなフィードバックを送るんですから」

「機械に操られるヒトの脳みそか。霊長類の名が泣く気もする」

「ヒトの脳だって、高度な演算装置みたいなものですから。生身のそれに、機械の精密さが追いついたってだけです。最終的には、両者の垣根は無くなる。それが、今のサイコフレームや、サイコミュ装置の時点でも起きているわけです」

「全人類狂戦士化マシーンが誕生する日も、やがては来るわけだ」

「い、いや……平和利用とか、医療利用だって可能だと思いますけどね!?」

 あまりサイコフレームの悪口を言われることには、エンジニアとしての抵抗を感じるらしい。サイコフレーム・オタクは、庇うようにそう言い放っていた。しかし、ジュナの心には届かない。

「はあ?全人類狂戦士化マシーンを、どう平和に用いるってのよ?」

「いやその、えーと。あ!……たとえば、逆転させるんです」

「逆転?」

「戦闘意欲を高めるだけでなく、低めることだって可能です。要は、アクセルとブレーキの関係ですね。サイコフレームも含めて、サイコミュ装置ってのは、パイロットやモビルスーツを攻撃的にもしますし、停止させるためには、抑制もしているんですよ」

 サイコフレームからの情報で、暴れ馬みたいに強化人間を暴走させておくことも出来るし、逆に沈静化させる情報を送ることも出来ているわけか。なるほど、たしかにアクセルとブレーキだけど……つまり。

「……つまり、全人類狂戦士化マシーンを、逆転させると……『全人類去勢マシーン』にでもなるってこと?」

「『去勢』って言い方が正しいようには思えませんけど。まあ、無理やりにリラックス状態へさせるってことは可能でしょうよ。全人類狂戦士化マシーンが実際にあったとすれば」

「リラックス状態ね……平和そうね」

「……全人類を強制催眠にして、平和な世界を創りましょう。そういう理論だって、サイコフレームの発展の果てには、起こりえるかもしれない事象ですよ」

「エンジニアの見る夢は……十数年後には叶うもんだ……そんなこと、幼い頃に親父に聞かされたけど」

「……そうかもしれませんね。でも、さすがに十数年じゃ、そこまで進歩しちゃいないと思いますよ。一応、サイコフレームの研究は、公式には停止しているわけですし」

「公式にはね。地球側の財閥だって、こうして強化人間もどきを捕まえて、色々と実験しちゃっているわけだし……ジオンのヤツらも、相当しているんじゃない?」

「してる、でしょうね。でも……コソコソしなくちゃならないから、どうしたって小規模な実験になる。進歩は遅れますよ、そういう日の目を見ないテクノロジーって」

「……イーサンは、見たいの?」

「え?」

「全人類狂戦士化マシーンの実機」

「……エンジニアとしては、もちろん興味がありますよ。ですが……ボクが生きているあいだには、作られて欲しくはない気がします。そんなのが実際に動いたら、皆、自分の意識を保てなくなるかもしれませんし……」

「戦争が始まって、モビルスーツ製造業のアナハイムさんは儲かりそう」

「……アナハイムのエンジニアの全てが、発狂するかもしれませんけどね」

「宇宙は原始時代に戻るのかしらね、そういう装置のせいで」

「分かりません。でも、その……もっと小規模でのフィードバック実験を行えば、サイコフレームと使っての、メンタルヘルスとかも、あり得ると思います。良い感情を、サイコフレームから、ヒトの精神に注ぐことが出来れば?」

「……気持ち良く、眠れそうじゃあるわね」

「はい。たぶん……だから、その。サイコフレームって、あまり悪い発明だとは、思わないで下さいね?」

 そう考えるのは難しいことかもしれない。サイコフレームというのは、パイロットとモビルスーツを狂わせる、脅威の発明なのだから―――目をつぶり、ジュナは長話で疲れて来た首を反らすように伸ばしていた。

 首の骨が、パキパキと鳴る……組み立てられ始めている、ナラティブを見つめた。小さく細く、女みたいに細身の機体。サイコフレームを使われていない。基礎設計がされた頃には、そもそもサイコフレーム自体が存在していなかったのだから……。

「ユニコーン・タイプは……どれだけサイコフレームを使われているの?」


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