ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT225    『魂の寄る辺』


「あの子には、大なり小なりニュータイプの力がある。この騒ぎを誘導したのは、あの胎児のニュータイプ能力が、フェネクスのNTDに感知された結果かもしれない。何であれ、リタは、あの子を守ろうとする。あの子がいる限り、この船は、『フェネクス狩り』を実行できないわ』」

『……なるほどな。フェネクスが近づいてくれないってことか』

「そうよ、イアゴ・ハーカナ少佐。リタなら、全力で抗うわ……脳を壊された女パイロットが、そんな行動を取るって考えるのは、感情論的過ぎるかしらね?」

『いいや。オレは、否定したくないよ、そんな感覚は。むしろ、好ましいと思う。とにかく……『ハーベスト』に入港するのか……』

「母艦との合流が遅れるのがイヤかしら」

『懸念すべき事情じゃあるだろ。だが、作戦を遂行できないのであれば、しょうがない。人命救助も、地球連邦軍のモビルスーツ・パイロットの仕事だからな』

「意外なことにね」

『皮肉を言わないでくれ』

「そうね。ちょっと、貴方に対して意地悪な言葉だったかもしれない。人類の全てが、ティターンズのような連中ばかりじゃないと信じたいのにね……」

『……いや。NTDに、民間人を攻撃するシステムを載せていた。合理的な判断なのかもしれないが……連邦軍のみの設計思想を反映した機体がそれなんだ。君が不信感を抱くには、十分な事実に当たるだろうよ』

「ええ。でも……おかしなことじゃない。力や地位があるヒトって、他人のことを道具ぐらいにしか思っていないもの」

『地球連邦軍の高官たちにも顔が利く君の言葉だってこと、オレはちょっとショックとして受け止めているよ』

「何のために戦うのか、それが分からなくなったら、ルオ商会に来るのもいいかもしれないわね、イアゴ・ハーカナ少佐。ニュータイプに借りがある貴方に、あの生まれてくる次のニュータイプの護衛を任せたい。酸欠で脳死した母親から生まれる、かわいそうな子を守る戦いなら、貴方は何の迷いもないでしょうからね」

『……連邦軍の仲間を見捨ててか』

「はかりに載せて、確かめてみるのもいいじゃないかしら。生き方は一つじゃないでしょう。連邦軍の中にいても、貴方はきっと、今まで以上のことは出来やしない。世界を変える力はないわ、そのポジションじゃね」

『…………ふう。迷わせないでくれ。とにかく、ミシェル・ルオ。現場指揮官として、君の提案に賛成する。『ハーベスト』に入港し、その子と、そのあわれむべき母親と……五人の民間人の遺体を渡すことにしよう。可能ならば、家族のもとに帰るべきだ。死者となったとしても、それで遺族にも踏ん切りがつく場合もある』

「保証の確定にもね。宇宙海難事故は、保険会社が値切りたがるわ。ヤツらはクズだからね。ぐちゃぐちゃになったみじめな遺体がないと、満額出しちゃくれないわよ」

『それも大切な作業だ。家族に金を残す。彼らに、最後の大仕事をさせてやらなくてはいけないな。ではな、ジェスタで出る。オレがこの輸送機の護衛にあたる』

「頼むわ。この船で最強のパイロットが出てくれるなら、安心することが出来る」

『いい言葉だ。そう。オレは、宇宙の方が専門さ。アフリカの大尉にも、負けやしない』

『地上でも、少佐には勝てないよ。オレちゃん、少佐みたいなマジメな人には、甘いんだ』

『はははー。大尉、嘘くせー』

『マジメなヤツを騙して生き抜いて来たクズ野郎だもんな』

「ウフフ。尊敬されてるのね、大尉さん」

『……ミシェル・ルオさんは、皮肉が過ぎるよ』

「とにかく、動きなさい。ジュナ、体を休ませておきなさい、分かっているでしょ?……敵は、フェネクスだけじゃない』

『……分かっている。ガンダムもどきか……』

「『シナンジュ・スタイン』よ。いい動きをするし、装甲も頑丈。基礎設計の強さでは、ナラティブよりも上。パイロットとして勝らなければ、負けるわよ」

『そうはならないさ。私だって、色々と考えているんだ』

「そう。信じてあげるから、死なないでね。死にかけてもいいから、生きて戻って欲しいわ」

『……サイコフレームに魂を捧げたいお前が、ヒトの肉体にこだわるのか?』

「こだわるわ。気づいてしまったことがあるからね」

『何に?』

「……ヒトの肉体がなければ、新たな命は生まれない。永遠に魂を保存することは、可能になるのかもしれないけど……肉体がなければ、新規の命は、生まれることがないってことに、今さらながら気づいて、ちょっと驚いている」

『簡単なことほど、分からないものかもな』

「ええ。そういうものかもしれないわね」

 ミシェル・ルオは静かにため息を吐いていた。世界を変えるつもりでいたのに。肉体のくびきから解き放たれて、永遠を得るつもりでいたのに。自分もまた魂を肉体に囚われようとしている。

 永遠の命の、もう一つの在り方……。

 受け継がれていく命。

 そういうシステムが持つ尊さに、今のミシェル・ルオは気づけていた。おそらく、胎内に新たな命を抱えることで、ようやく彼女は孤独から解放されているのだ。

目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。