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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT226    『入港』


 『ハーベスト』への旅は順調なものではあった。イアゴ・ハーカナ少佐は、『袖付き』の襲撃に備えて、緊張しながら輸送機の護衛任務にあたっていたものの……航海は無事に終わる。

『ルオ商会の輸送船ですね。了解しました。コードは確認しています。モビルスーツの搬入も許可します。フライトナビゲーターに従って、入港して下さい』

「……わかった。ミシェル・ルオ」

『聞こえているわよ。あっちのはオープン回線なんだから』

「オレとアンタの直通は暗号化処理済みか」

『もちろんね』

「モビルスーツの搬入まで許可されるとはな……どうなっているんだ?」

『さあね。長年の連邦軍の統治のおかげじゃないかしら』

「……皮肉を言うなよ」

『研究施設が多いコロニーってところね。科学者ほど金に困っている大金食いはいないのよね』

「研究資金を提供すると持ちかけたのか?」

『研究機関を運営しているのは学問じゃなくて、欲望。このコロニーの研究施設のディレクターは、市長よりも権力があるみたいね』

「そいつを買収してムリを通した……なんだか、良くないヒトの判断を目撃した気持ちになるんだが……」

『いいじゃない。武装していられることは有利でしょ』

「同意するが、武器は争いを招くものでもある」

『研究都市には、ジオン系のシンパも多いんでしょ。とくに、生化学を扱う研究者には、ニュータイプ研究者も多いのではなくて?』

「……スペースノイドの全てが、ジオニズムの主フォロワーってわけじゃない」

『あいにくスペースノイドには詳しくなくてね。あの胎児のことは秘密にするけど。脅しをしていた方が、より安全でしょう?』

「ミシェル・ルオ、アンタは、まさかそのためにか」

『赤ちゃんを助けようとする妊娠中の女を見るのは初めて?』

「……いいや。それは、オレの価値観のなかでは、珍しいものには含まれてはいないよ」

『それでいいのよ。じゃあ、入港を開始するわ』

 輸送船がゆっくりと『ハーベスト』の港へと侵入していく。タグユニットが浮遊して、輸送船に次々と取りついて、港と輸送船を金属製の絆で連結していた。

「……自動制御も、進歩しているな」

『ヒトの仕事を奪っているとの指摘もあるけどね。私みたいな富める者からすれば、利便性を評価したいわ』

「パイロットも、そのうちいらなくなるな」

『ヒトの悪意を、モビルスーツのAIが代行してくれる。NTD搭載機は、パイロットの伝統を駆逐してしまうかもね』

「機械に負けるとも思わん。スペックに素直な機体を潰すことは、熟練のパイロットからすれば難しくはない……もちろん、スペックが高すぎれば、どうにもならないがな」

 ……高速で動けば動くほど。スペックを発揮すればするほどに……予想の範囲から逸脱した動きをモビルスーツは刻めなくなるものだ。それは、敵の動きを予測し続けて来た飛行機乗りの時代から作られたパイロットたちの伝統が持つ、無人機へ抗うための最後の領域でもあった。

『強いほどに、弱くなる?』

「最適解は一つしかない。それをしてくれるなら、予測するのは難しいものではないさ。アルゴリズで誤魔化せば、パイロット並みには腕も落ちるだろうよ」

『なるほどね……ニュータイプだけじゃないのね、未来を予知するのは』

「似た存在だから、力が引きずり出されることもあるのかもな」

『貴方はそうならなかった』

「残念には、思わないことにしている」

『分からないわよ。アムロ・レイに、ジュナ・バシュタ、そして一応は私。ニュータイプの力に触れているあいだに、貴方も何かを得るかもしれない』

「オレの脳内構造が、君らのスペックを模倣する?」

『ありえないとは思わない。ニュータイプって、伝染するのよ。使い方を学べば、それなりに引き出される……』

「……そうはならないよ。オレは、どこかオールドタイプのパイロットであることに、誇りと執着を持っている。そうであることこそが、役目のような……気もしているんだ」

『男のロマン?……教化人間に憧れたことはない?』

「……今のところはな。自分のまま、生きて行きたいと願っている。それでも、少しぐらいは、自分の手の届くところぐらいは、守ってやれるかもしれないから」

『意外と私の言葉を気にしてくれているのね。買収するのはムリだけど、仕事をさせることは難しいタイプじゃないわ。貴方、苦労を売りつけられてしまう性格しているわね』

「誠実な人柄なのさ」

『あはは。そうね、いつか私と組んで仕事をすればいい。生まれてくるニュータイプの護衛になってくれるヒトは、多い方がいいものね』

「……守ってやるさ。手が届くところにいるのならな。オレは……そうだ。自分よりも、年下のヤツが死んじまうことが、どうにも嫌いなんだ」

『いいヒトね。私がレズビアンでなかったら、惚れていたかもしれないわ。きっと、ブリックには愛されるタイプね』

「……ん?彼は、男で……」

『私に手を出さない存在だから、お父さまは彼を私の秘書にした。理解してくれた?』

「……分かったが。オレは、女性が好きなタイプのオールドタイプだって、伝えておいてくれよ」
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