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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT212    『魔女』


 ジュナ・バシュタ少尉が拳銃を抜いていた。銃口をイアゴ・ハーカナ少佐に向ける。周囲に緊張が走る。ジュナの表情は、極めて冷静なものであり―――迷いが無い感情のもとに統御された行動であることは明白であった。

 彼女は、彼女の想いのままにイアゴ・ハーカナ少佐の人生にピリオドを打つことが出来る。彼女は冷静な殺人者としての機能を一時停止させたまま、その唇を動かして言葉をつむいでいた。

「選べよ。私に撃ち殺されても、ティターンズもどきの正義に媚びへつらうのか。それとも、不幸な女に、よりマシな道を与えてやろうって正義に参加するのか。アンタは、決められるだろう?……どっちがいいんだ。さっさと選べ」

「……脅しているつもりか?」

「違うな。脅してなんかいない。選んで欲しいと考えているだけだ。アンタは有能だからな、私よりもパイロットとしては上だ。だが、地球連邦軍の少佐ってことも事実……迷ったな、リタを連邦軍に差し出す可能性を、少しは頭に浮かべた。それはいいさ。だが、決めて欲しい。アンタの命は、私たちと連邦軍、どっちの正義に費やすのか」

「……リタ・ベルナルは、連邦軍に渡すべきではないだろう。ルオ商会のもとで、適切な治療を受けることが、彼女にとってベストだ。たとえ、死んでいたとしても……連邦軍に渡れば、永遠に実験材料だか標本として、彼女の全ては消費されるだけだ」

「……フェネクスを渡したくないと、ごねているのかしらね」

「……そうだな。オレは……君にも……いや、誰にも、フェネクスという兵器が渡るべきではないのではないかと考えている。破壊すべきではないのか?……あのフル・サイコフレーム・モビルスーツという怪物と、NTDというシステムも」

「……それには、私も少しは賛成だ。リタを取り戻せるのなら、他のことはどうでもいいからな」

 ジュナ・バシュタ少尉が拳銃を降ろす。そして、彼女の双眸はミシェル・ルオを睨みつけていた。

「……ミシェル。お前は、あのフェネクスをどうしたいんだ?」

「永遠の命を得るための方法よ。回収し、独占するに決まっているでしょう?……連邦軍とのカードにもしたいもの。アレを確保していれば、ジオン共和国にだって売りつけることも出来る。連邦軍のモビルスーツ・パイロットの水準は、ジオンのパイロットに比べると大きく下がるもの。脅威となるわね」

「交渉カードとして使うってかー」

「すげえな、ミシェルさん!悪党だぜ!」

「双子、宇宙に生身で放り出されるとどうなるか知っているかしら?」

「……知ってるよー……だから、その」

「悪党って言ったことは、忘れてください」

「忘れてあげるわ、今回だけわね。私のことを悪く言わないほうがいいわよ。じゃないと、貴方たちのお腹のなかに仕掛けた爆弾を起動させるかもしれないわ」

「うそー!?」

「ま、まさか!?」

「……冗談よ。でも、私のことを、どんな女だと認識しているのか、分かった気がするわね」

 ショックだとは思わなかった。軍隊も地球連邦政府も恫喝しようとしている自分は、それなりに暴走しているような気持ちもするのは事実だ。ルオ商会とアナハイム・エレクトロニクスは組んだ。そして、月の『女帝』の命も確保してあるし……地球も宇宙も、気骨ある厄介者のほとんどは滅んでいる。怖い存在は、ミシェル・ルオにはもはや存在してはいないのだ……。

 連邦軍も、かつてほどの結束を保てることはないだろう。アフリカ勢は、ティターンズの兵器を使った。その事実は、他の連邦軍の高官たちにも伝わっている。ギクシャクしているし……連邦軍は地上のジオン残党軍への対策で手一杯な状況でもある。ルオ商会の戦力を敵に回しているほどの余裕はないのだ。

 ジオン残党軍は弱かろうとも、彼らの潜む範囲は広いものだから……コロニーのシンパにも、隊長たちが地球の連邦軍の基地を一つ潰して核攻撃まで実行したという武勇伝は伝わっている。宇宙から、大量の支援物資が降り注いでいるのが現状だ。

 ……アナハイム・エレクトロニクスも、連邦軍と対立し始めている。月の『女帝』の影響力は大きいものだった。アナハイム・エレクトロニクス製の部品が、どういうことか数百トン分ほど消えてしまっているそうだ。今ごろ、大気圏を突破して、地上にいるジオンの残党に物資が届いている頃だろう。

 連邦軍はそれらへの警戒をしなければならない……過激な対応を取れば、スペースノイドは敵に回ることになる。第二のティターンズだというレッテルを貼られたら?……地球連邦軍は、再び内戦状態に陥るだろう。ティターンズとエゥーゴで争ったグリプス戦役の再燃だが……そうなれば、もはや連邦体制を維持することさえ困難だ。

 ルオ商会もアナハイム・エレクトロニクス社も……次の機会には、地球連邦の存続を望むようには動かない。どちらも、いい加減、地球連邦にはウンザリしているのだ。現状をメイクした最大の理由は、ミシェルにとってルオ商会の権力を完全に掌握するためであるが……それ以外の副作用も多く出ている。

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