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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT192    『ナラティブ・パーツ』



 フォン・ブラウン市に入った後、状況はすみやかに展開していく。輸送船からナラティブガンダムは降ろされて、そのままアナハイム・エレクトロニクス社の工場へと運ばれるのだ。
 ジュナ・バシュタ少尉たちパイロットには、休暇が与えられる。これ以上、訓練を継続しても体調を悪化させるだけだという事実をスワンソン大尉も認めていた。それぐらい濃密に訓練を行い、彼らは短期間に実力を磨けてはいる……この休暇では、軍用艦では出来ない行為を選んでいた。
 レストランに行き、美味い料理をたらふく食べるという行動であった。効率最優先である軍用艦の、ケミカルとバイオテクノロジーが支えた栄養食ではなく、家畜と植物から構成される、ちゃんとした食事である。宇宙空間を漂っている間は、まず食べることが出来ないその贅沢に、パイロットたちは走っていた。
 ルオ商会がついているから、財布の心配をすることは全くなかった。これは必要経費なのである。ルオ商会からすれば、いい税金対策だろう―――そんなことを頭の隅に浮かべながら、ジュナ・バシュタ少尉は牛肉で作られた分厚いステーキを貪っていた。
 工場に運ばれたナラティブガンダムには改修が施されていく……120名のエンジニアたちの手作業になる。最も全員がナラティブガンダムに取りついて、油まみれになっての作業というわけではない。
 30名ほどはオペレーション・ソフトを筆頭に、各種の制御システムに対する改修を行うことになった。
「……パイロットに合わせて、ここまでリデザインする機体ってのは、久しぶりですね」
 工場長の一人がミシェル・ルオに語りかけた。工場長は生粋のメカニックということなのだろうか?……何とも嬉しそうな表情を浮かべていた。
「そう。ジュナにどこまでも合わせてもらえると嬉しいわ。ジュナの感覚を表現することが出来る機体に仕上げて。サイコミュの数だって、増やしてくれて構わない」
「パイロットへの負担は配慮しないのか?」
 お飾りながらも、アドバイザーとしてついて来ているイアゴ・ハーカナ少佐は、己の職業倫理に基づいて発言していた。工場長は肩をすくめる。
「サイコミュのダメージを、ナラティブの専属パイロットは受けちゃいませんよ」
「どういうことだ?」
「データが示しています。彼女は、頑健だ……というか、ニュータイプ専用機への高い適性を持っている」
「そうなの?……オーガスタ研究所が素直に解放したから、そこまでの才能はないんだと考えていたケド?」
「人の才能なんてものは、シミュレーション結果で把握できやしませんよ。まして、ニュータイプ専用機なんて、未知数の部分がつきまとうような機体は、パイロットの適性を選ぶことが難しい」
「ナラティブガンダムはニュータイプ専用機なのか?」
「元々は、そういうレベルに対応しようとした失敗作です」
「ジュナが聞いたら怒る言葉よ。失敗作だなんてね」
「……ああ、すみません。まあ、その……開発途中で、アムロ・レイ大尉とチェーン・アギ技術士官による、νガンダムの製造計画がスタートしましたからね……そのまま、ナラティブはお蔵入りです」
「どこが悪かった?問題が無い機体なら、νガンダムを製作した後でも開発を続けられるだろう?」
「……コンセプトが右往左往しちまったんですな」
「どういうことかしらね?」
「重武装で行きたいのか、よりコンパクトに機体の質を高めたいのか。サイコミュ搭載兵器をつけたいのか、独自開発したバイオセンサーを搭載するだけにしておくのか……ナラティブガンダムには、多くを求めすぎて、汎用性という言葉を、拡大解釈しすぎる結果になってしまいましてね」
「……特化させるべきストロング・ポイントまで見失ったということかしら」
「そうです。まさに、そのとおり。この機体は、あまりにも技術的に詰め込もうとし過ぎた形です。何にでも対応させようとして、結果、『得意なこと』という部分を見失ってしまった機体なんですよ」
「……二兎を追う者は一兎をも得ずということか」
「ええ。十六匹ぐらいは追いかけていましたね……でも、悪い素体ではありません。むしろ、時間を経ることで得をした部分もあります」
「どんなことかしらね?」
「ガンダリウム合金を、より安定させることが出来ました」
「安定?」
「金属は、製造してから、しばらく建った方がより硬くなったり……まあ資材として強みが出ることがありましてね。ナラティブは分解されて、それを構成するガンダリウム合金たちに、我々が理想とする重力とか機械的な圧力を加え続けることにより、モビルスーツの『骨』と『革』として、より適した金属に仕上げています……分子構造がより安定しているってわけですよ」
「……『熟成』してたってことね。金属無いに……合金同士の分子結合の密度を高めた。析出って、ヤツかしら」
「ええ、我々としては、素材開発用の実験道具にしていたってわけですよ。このナラティブのことをね」


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