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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT180    『核テロリズム』


 ルオ商会の経済基盤を支えている収入源は多くある。建築業もその一つであった。

 一年戦争や、グリプス戦役という連邦内部での内戦は、地球の都市部を破壊して来た。それらを再建するという仕事は、ルオ商会の発展を支えることになる。

 ……ルオ商会には、都市再建を掲げる大勢の政治家や、戦中のドサクサに紛れて広大な土地の管理者―――事実上の所有者となった軍人などとの深い繋がりもあった。

 ルオ商会の絡まない公共建造物など存在せず、それはハードナー基地にも言えるのだ。最新設備が大量に盛り込まれた、この基地をルオ商会の協力ナシで作れば、費用は数倍、工期も2年は延長されていただろう。

 ハードナー基地の地下構造の設計図を、ルオ商会は保持しているのだ。だが、あくまでも偶然を狙いたいというのが、隊長の考えだった。

 当然のことだ。今後も長らくルオ商会と付き合うことになる、地球連邦軍を襲撃するというのだから。最大の商売相手と、仲違いさせるわけにもいかない……だからこそ、ステファニー・ルオは丁度良い生け贄にもなるのだ。

 ルオ商会のリーダーの一人が、テロリズムに巻き込まれた。そいつは大きな悲劇であり、連邦軍の疑いの眼差しからルオ商会を守ることにつながるだろう……。

 ステファニー・ルオを乗せた車が、予定の通りのコースを通る。秘密に偽装されていたハズの脱出路は、隊長のグフ・カスタムからそう遠くには離れていなかった。

 計算通り、グフ・カスタムの核エンジンが起こす核爆発の圏内にステファニー・ルオはいたのだ。

 それから先は……デザインされた計画の通りに全ては動く。

 隊長のグフ・カスタムが、核爆発を起こすのだ―――地球を再び汚染してしまう攻撃ではあるが……さんざん、汚染され尽くしている地球においてのことだ。心が痛むことはない。

 その罪深さに見合うだけのメリットを、隊長たちは享受することも出来るのだから。

 ……その核爆発は、周囲四キロを爆風と熱線で破壊していく。モビルスーツさえも、その爆発に巻き込まれたら甚大なダメージを負ってしまうだろう。

 地上を焼き払うその炎から、連邦軍のモビルスーツは必死になって逃げようとしていたし、オーガ4もまた同じことだ。

 オーガ4のグフ・カスタムの手のひらにいる隊長は、地上の全てを掃いて捨てようとするかのような勢いで迫ってくる土煙を帯びた衝撃波を見つめていた。

 スラスターの燃料は残ってはない。ただただ、グフ・カスタムの脚により大地を蹴って進むだけの逃げ方だ。最高のアルゴリズムで組まれた、逃走行為ではあるが……音速を超えて迫ってくる土煙から逃れるほどのスピードは、どうしたって持ってはないのだ。

『隊長、コクピットに……ッ」

 グフ・カスタムを走らせながら、オーガ4はコクピットを解放する。そして、コクピットの手前に、隊長を乗せたモビルスーツの手を動かすのだ。

 隊長はすまなく思う。この動作をしなければ、助かる確率が少しでも上がったのだが。しかし……してくれたことには応じなければなるまい。

 今さらこの行動を無かったことには出来ない。隊長は、グフ・カスタムのコクピットの中へと身を投じていた。オーガ4は素早く、コクピットのハッチを閉鎖していた。

「隊長、捕まっていてください!!」

「……わかった。頼んだぞ」

「ええ!!」

 隊長はグフ・カスタムのコクピットの内部を走る支柱に、鍛え上げれた太い腕を絡めた。警報音が鳴り響くなか……オーガ4はついに決断する。

「逃げ切れません。地面にダイブして、腹ばいになりますね……運が良ければ、助かるでしょうから」

「お前に任せている。オレに断りを求めず、何だってやるがいい」

「……はい!ダイブします!!」

 グフ・カスタムが衝撃波に呑み込まれる寸前で、地上に向けて前倒しに跳んでいた。地面に叩きつけられた衝撃の直後に―――衝撃波による振動がグフ・カスタムに襲いかかっていた。

 隊長とオーガ4は、装甲を焼かれて行くモビルスーツのなかで、生きた心地を感じることもないまま、ただ耐えるのみである……。

 だが、この揺れが激しい程、コクピットの室温が上昇してしまうほどに、隊長は歓喜してもいる。これだけの威力を持つ衝撃波が、脱出用の小型車両を襲ったら?何十回だって天と地が逆さまになるほど、転がり回りつつ燃え尽きてしまうだろう。

 そうなれば、どんな医療スタッフと最良の環境で、ステファニー・ルオが治療を受けたとしても耐えられはしない。

 数千度の熱で、はらわたの奥底まで焼かれながら、吹き飛ばされる衝撃のなかで、何度もその体をあちこちに打ちつけることになる。

 致死量の放射線も浴びて、全身の細胞に微少な穴が開いちまうことになるのだ。そのどれもが致命傷になりえるが、そいつが全て合併してしまう……よしんば命だけ助かったところで、その命も長くはあるまい。数時間後には、確実にあの世に行くことになる。

 しかし……可能ならば、そんな地獄の苦しみなど、短い方が良いだろう。オレは、アンタが邪魔だから殺しにかかったわけだが、別に恨みはない。安らかな即死が訪れることを、アンタのために祈るよ、ステファニー・ルオ。

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