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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT179    『チーム・オーガその10』



 また一人、オーガ隊が少なくなってしまう。戦場に、爆炎が上がり、オーガ2のグフ・カスタムが千切れ飛んでいった……。

 それでも、オーガ1とオーガ2は、脚を止めることも振り返ることもない。オーガ2の献身に報いるための最良の方法が何なのかを、彼らはちゃんと理解しているのだ。

「走れ!!走れ!!走れ!!」

『了解です!!……我々、オーガ隊のためにも、仕事を果たしてみせますッ!!』

『後二機だ、囲めッ!!囲めッ!!』

『コイツらはとくに暴れまくってくれたヤツだな!!楽には殺すな、嬲り殺しにして、殺された戦友たちの恨みを晴らしてやるぞッ!!』

 遠距離からの砲弾が、再び濃密にオーガ1とオーガ2を襲う。装甲が削られて、機体のフレームが悲鳴を上げる。

 スラスターの燃料を消費し尽くしていたことは、幸いだっただろう。もしも、可燃性の燃料を何百リットルも背中に背負ったまま走っていたら、それに引火して、爆発が起きてグフ・カスタムの駆動系に重大なトラブルが発生してしまっていたところだ。

 悪いコトもあれば、良いこともあるものだ。隊長はそう考えながら、疲弊した体に鞭を打つ。

 必死になってマニューバを打ち込む、ジグザグに走ることで、敵からの攻撃を少しでも外すのだ―――多くの砲弾が、戦場の宙に無意味な軌道で撃ち込まれていく。

 それでも、少しずつは命中してしるのだ。散々に強化パーツを組み込まれている、オーガ隊のグフ・カスタムたちであったが……機体の装甲やフレームまでの強化は行えない。
 
 限界は近い。

 限界は近いが、ゴールもまたすぐ側だった。ステファニー・ルオの飛び出して来るはずの秘密の通路の出口から350メートルの場所に、オーガ隊の2機はたどり着いた。

「ここでいい!!あとは、オレがやる。お前は最後の時間を好きに使え、オーガ4!!」

『ならば、オレは……やはり、どれだけ撃ち抜けるか、試させてもらいますよ、隊長!!』

「そうしろ!!我が隊一のスナイパーとしての腕を、この戦場に刻みつけてから死ね!!」

『ええ、そうさせていただきますッ!!』

 オーガ4が地上に寝そべるようにして転がり、温存してきたビーム・ライフルで敵を狙う。狙撃は、連続して行われる。

 接近して来たジェガンとジェスタの装甲を撃ち抜いて、また戦場に命とモビルスーツの残骸を四散させる。

「……あいかわらず、いい腕だぜ」

 部下を褒めるための言葉を使いながら、隊長は愛機に最後の命令を打ち込んでいく。それはマニューバではなく、自爆プログラムだった。

 モビルスーツは核融合エンジンで動いている。隊長はこの核融合エンジンを暴走させて、核爆発を起こそうと考えているのだ。

 そのためには、わずかな仕組みを行えばいい……普段は動力炉内で封じ込められている放射線を、外部に解放すればいいだけのことだ。

 そんなことをすれば、周囲が放射性物質で汚染されてしまうし……何よりも、数キロに渡って爆炎の熱波が地上を焼き払ってしまう―――世界がまた一つ壊れてしまうことになるわけであるが……隊長は、それを問題には思わない。

 そうすることで、ステファニー・ルオを暗殺することに成功するのであれば、全く問題はない。どうせ死ぬのだから、コクピット内で多量の放射線を浴びることも、大して問題には思わなかった。

「……さてと、融合炉を……解放するぜ!!」

『隊長ッ!!グフから飛び降りて下さい!!』

「……ああ。逃げるフリをしなければな」

『そういうことですよ。理想的な状況を作れた。最後まで、やり抜きましょう』

「わかっているさ」

 ……いや、実のところ、そんなに分かってはいない。達成感にひたって死ぬのも、まあ悪くないと考えていたが……たしかに、少しでもこの演技の完成度を高めるのも、悪くはないか。

 判断力が、弱まっているな……放射線を浴びすぎて、脳が少しダメージを受けているのだろうか?

 隊長はそう考えながら、愛機のコクピットハッチを開放して、その場所から飛び降りていた。オーガ4が動き、その巨人の手を使って、隊長を受け止めていた。

『では、離脱します!!』

「……たのんだ」

『砲撃が止んだぞ!?』

『撤退して行く……クソ、逃がすんじゃないぞッ!!』

『い、いや……ちょっとまで、放射線の濃度が高まっているッ!!あ、あいつ、核融合炉を暴走させやがったんだッ!!』

『やつら、自分たちが逃げるための煙幕代わりに……核爆発を起こすつもりなのかよッ!!』

「……ああ、そんなところだ。慌てても遅いぞ……とっくの昔に、臨界点を迎えている。ステファニー・ルオ……アンタが、その通路から出るときが、核爆発のそのときだ」

 センサーと連動させている。ステファニー・ルオの左手首が、あの地下通路を出た瞬間に、すべてが吹っ飛ぶんだよ―――隊長は集中砲火を浴びるグフ・カスタムの手の上で、爆笑していた。

「さあて、全部、終わりにしようぜ、ステファニー・ルオ!!アンタの未来は、これから潰えるんだッ!!」
 

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