ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT105    『ストレガ・ユニット/魔女の呪い』




「……『ストレガ・ユニット』?」

「ええ。皮肉です。私のことを、皆が、何故だか、そう呼ぶのです。『魔女/ストレガ』と。だから、私の名前をこの子たちに冠するのは、止めることにいたしました。私は、誤解され、戦争犯罪人として処刑されます。この子たちには、私のファミリー・ネームは不利に働くでしょうから」

 実に心外のことではあるが―――科学者として、世間が自分に向けている間違った感情を客観的に評価することは、マルガ上級研究員には可能なのである。昔からそう、男どもは、自分より賢い女を、悪く言いたがるものなのよ。

「ハハハ。『ストレガ・ユニット』!!……その売り込みのために、名前まで考えてくれるかね!」

「そうです。軍と企業のパートナーシップについては、学生時代に学びましたから。私の名前よりも……いっそ、『魔女/ストレガ』の方が、インパクトもあるでしょう?」

「……たしかに、これは、悪魔というか……『魔女』の発明品だからね。だが、能力もある、使用者も多く確保できる……では、そうなってくると心配事も出て来るね」

「そうでしょうね」

「……コレの、『ストレガ・ユニット』の『副作用』は……?」

 聞いてくれたわね。

 素晴らしい側面だけを聞くのであれば、ただの興味本位でもある。

 でも、『副作用』を懸念してくれるのならば、脈有りなのかもしれない。少なくとも、よりこの子たちを売り込むチャンスにはなっている。いいわ、教えてあげましょう。そして、もっと、この子たちの魅力に取りつかれなさい、地球連邦軍の兵器開発責任者の方々。

「もちろん、あります」

「……どれぐらいのものだね、この有力なユニットの、弊害は?」

「もちろん、今後の研究課題として、皆さまにお預けすることになりますが、改善の余地はあります。私は、研究のための時間を確保できなかった。貴方がたは、違うでしょうから」

「……質問に答えないのかい?」

「いいえ。詳細は添付しているはずの資料を後から見て下さい。概要だけを、口頭で説明しましょう。『ストレガ・ユニット』は、対象者の脳にニュータイプとしての能力を付与する、『外付けの脳』です。おそらくは、使用者の脳には不可逆的なダメージを与えることになるでしょう」

「やはり……パイロットは、死ぬのか?」

「使用時間に比例して、脳細胞やシナプス結合が破壊されていくだけのことです。使用時間が短ければ、死ぬことはありません。ただし、脳へのダメージは、どんな微細なものでも、全てが不可逆的。壊れたら治りません」

「……使う程、パイロットの命を縮めるわけだ。魔女の呪いだね」

「ウフフ。私は、呪ってはいません。この子たちのことを、とても愛していますよ」

「……君は、子供は愛せないのに、子供の脳の欠片を機械につないだ物体は、愛せるんだね」

「ええ。子供よりも、私が必要としている能力だけを発揮してくれるんですから」

「……君は…………」

「科学者として、事実を述べたまでです。私は、元気に動き回る子供たちに、軍事的な資産としての価値を見出しません。もちろん、それらが成長して、立派な兵士にもなるでしょうが……有事においての、子供たちには、大して軍事的資産の価値は見えません」

「……まあ、そうかもしれないね。でも、呆れた答えだ」

「私は素直過ぎるだけですよ。全ての女が、子供好きではありません」

「……女性に幻想を抱くなかれか」

「魔女の遺した言葉として、大佐の心にお納めください」

「……そうしよう」

「ですが、一つの事実をお伝えしておきます。一年戦争で、人類の半数が消失するほどの被害が生まれた。一年ですよ?……これだけの短い期間に、ヒトはそれだけの死者を生み出す力があり……モビルスーツの発展は、その死者数を跳ね上げているでしょう。次の全面戦争は、もっと短期間で、もっと大勢のヒトが死ぬことになる」

「……まあ、たしかに。そうなのだろうね。それで?」

「軍事的な戦力としての価値の無い子供が、大人になるまで待っている余裕はないということですよ。有事に際して、『それら』を軍事的に有効な利用法を、構築しておくべきです。ヒトは、必要になれば、必ず全ての行いを受容します」

「……次の全面戦争に、備えろというのか?」

「ええ。滅びたくなければ。スペースノイドには、ニュータイプとしての能力を持つ個体が多く現れている。それは、地球に住む者として、全力をもって恐れなければならない真実なのですよ。アムロ・レイが100人でも生まれたら?……彼らが、かつてのガンダムよりも優れた、ニュータイプ専用機を操って、敵に回ったら?」

「……それは……悪夢だろうね」

「そうです。そのときのために、我々、地球に住む人間も、備えをしておかなければなりません」

「……いい演説だが、君の処刑は……延期されることはないよ」

「延命のために、こんな熱弁を振るっているわけじゃありません。私の子たちが、地球連邦軍にとって、どれだけ必要なのかを、お伝えしているだけです」

「……そうかい。では……時間だよ。最後に、何か、我々に伝えるべきコトがあれば、発言しなさい。君の言葉が、誰かに伝わるのは、これで最後なのだから」

「……この機会を下さったことに、感謝しています――――私は、魔女として処刑されますが、この子たちは末永く使って下さい。オーガスタの保管庫には、この子たちの兄弟姉妹となる子供たちの生体標本が、最適な形で保存されているはずですよ。きっと、今この時でさえも」

 間違いない。

 連邦軍は、オーガスタを真の意味では手放すことなんて出来やしない。

「それらの『資源』が尽きたら、そこらを走り回っている適齢期のやかましいクソガキどもから、好きなだけ採取すればいい。地球連邦軍なんですから、地球をスペースノイドたちから守るためには、何だってしていいってことを、私はティターンズの研究者として学びました。勝てば、いいんです。負ければ、私は犯罪者となって死ぬ。戦争というものは、勝利が全てと言うわけです。次の戦いでも、地球連邦の勝利を、心からお祈りいたしております」


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。