ネット喫茶.com

オリジナル小説や二次創作、エッセイ等、自由に投稿できるサイトです。

メニュー

ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT104    『ストレガ・ユニット/誕生』




「……幾つかの機能を再現することに成功いたしました」

 丸刈りにされたマルガ上級研究員は、手錠をはめられたままだが、連邦軍の技術士官たちの前で、説明を開始する。判決は死刑。戦争犯罪人として認定されたのだから、当然ではある。大きな不満はあるが、もうすぐ、それは執行される。

 自分は殺され、自分の知的活動を主催している脳は腐敗を始めるだろう。私は終わるのだ。残念ながら、社会から大きな誤解をされたまま。

 だが、そうだというのなら、したいことは一つであった。

 研究者として、科学者として。マルガは自分の発明と研究の偉大さを、科学の道を志す、世界中の同志たちに公開したいと考えていたが……まあ、ここにいる十数名の連邦軍の科学者たちだけでも、いいだろう。

 彼らなら、自分の研究を進めるはずだ。その自信がある。私は、ニュータイプ研究における、偉大な足跡を残して、死ぬのだ。私の功績から、多くの研究が生まれていくことになるだろう。

 私は、偉大なる母親なのね。さあ、子供たち、授業を始めましょう。ママの知恵を少しでも理解して、ママの研究を継いでちょうだい。そして、たくさんの子供たちの脳という、実にありふれたどこにでもいる素材を使って、最高の兵器をたくさん創りましょう。

 そうすれば。

 ニュータイプの能力が、脳のどこにあるのかなんて、すぐに特定することが出来るようになるんだからねえ―――。

「―――この装置は、被験者たちの脳を機械と接合して構成してあります。合成された薬品を大量に与えることで、本来は統合的かつ連動して機能する脳というシステムから、兵器として要らない部分を削ぎ落としています」

「……子供を、殺して?」

「ええ。子供であることは、条件ではありません。大人に比べて、損傷の少ない、子供の中枢神経繊維であることが、重要なのです。その方が、薬物および電気信号に対するレスポンスが速く……何より、長くもちます。戦闘時における衝撃にも強くなるでしょう。ああ、収容容器は、キツツキの頭蓋内の仕組みを応用しています。強い衝撃にも耐えられるように」

 実にエコノミックな仕様であるでしょう?……感動してもらいたいところの一つよ。人頭大の大きさしかないユニットの内部には、発明が詰められている。

「このユニットは、ニュータイプの能力を、再現することが可能です。モビルスーツとの電気信号的な接触を行うことで、オペレーション・システムの機能向上と……あるいは恣意的な暴走による、能力の向上も行えます。ヒトが入力する信号を、『彼女たち』が、代わりに務めることも出来ます」

「……AIなのかね?」

「いいえ。言わば、『外付けの脳』ですわ。これを得ることで、ヒトは己の脳を強化することが出来ます。これは、自我というモノを、ほとんど持ってはいない。このユニットと、感応波で接続するパイロットがいることで……そのパイロットは、強化人間に……いいえ、ニュータイプと同じ能力を獲得することでしょう」

「……どんな能力なのだろうか?そのユニットは?」

「強化人間どもは、実に幼稚な精神構造ですが、それだけに兵器としての純粋さも持ち得ます。過度な恐怖心は、モビルスーツの索敵範囲と感度を3倍には向上する。制御不能な怒りは、攻撃に対する集中力を。近くにいる者に対しての、性的な依存は……結果としては、組織への忠誠心をもたらすでしょう」

「……良いことずくめだね」

「ええ!……ニュータイプって、本当に素晴らしい脳をお持ちの連中ですわね。このユニットを作れば、それを増産することも可能なわけです。我ながら、素晴らしい発明です」

「……索敵、攻撃への集中力、そして組織への忠誠。たしかに、消耗品でもあるモビルスーツのパイロットに与えられることが可能なら、素晴らしいの一言だ。とんでもなく、非人道的なシロモノではあるがね……」

「ですが、一々、強化人間を育成するよりも安上がりです。期間も費用も。生後60ヶ月から190ヶ月の脳は……地球にだって、実にありふれた資源です。採取も簡単です。何なら、生きたまま、所定の部位だけ抜き取ればいい。それなら、死にはしません」

「死にはしませんか……」

「脳は一部が欠損したぐらいでは、へこたれませんからね。機械的に、その欠損部位を補うことも可能です」

「……そうか。それで……兵器としての有用性だけは、私には理解することが出来たが、これを使うべきパイロットが、どれだけいるんだね?……地球在住者の人口における、サイコミュへの適性者が、どれだけ希少なのかは、君がよく知っているだろう?」

「……オーガスタに運び込まれて来た素体のレベルでも、十分です。パイロットは、己をある種、兵器と化す訓練を何百、何千時間と繰り返しています。高度に発展したモビルスーツにも、彼らは依存している」

「……多くの者に、使えると?」

「断言できます。使用者は、精神的な危機にさらされた時、たとえば、戦場で敵に殺されかけた、あるいは、仲間が殺害された。そういうことで、一時的に規定の感応波を達するだけで、このユニットとの接続が開始されます。ハードの調整も必要ですが、一般的な兵士でも、十分に接続は可能なレベルでしょう」

「追い詰められたら、発動するか……」

「そんなところです。地球連邦軍は、このユニットを大量に生産することで、確実にスペースノイドの武装組織が保有するよりも、数十倍は多くの、ニュータイプ能力を持つ兵士とモビルスーツを確保することになる。アムロ・レイ並みの能力者が、スペースノイドたちにあふれても……マルガ・ユニット―――いいえ、『ストレガ・ユニット』があれば、どんな戦争にも勝利は確実です」


目次

※会員登録するとコメントが書き込める様になります。