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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
目次

ACT079    『それでも戦士は……』




「リタ……ヒトってのは……どうして、こんなにも、ろくでもないんだろうな……」

 頭のなかに、笑うリタ・ベルナルの姿を思い出す。最後に見たのは、15才の頃だった。その頃のリタは、それまでよりも笑わなくなっていた。

 私とミシェルが、オーガスタ研究所から脱出するための計画を練っていたことを察していたのだろうか?……その結末に待ち受けているものも……。

 私たちが、その後の十年を、離れ離れに過ごすことになることも……すべてを、知っていたから、あんなにさみしそうで、それまでよりも笑わなかったのだろうか。

 ……ああ。リタ……どうして、お前を最後に見たとき、笑顔を見せてくれたんだ。まるで……アレが、最後だからって…………そういうことなのか……?

 ジュナ・バシュタ少尉は、しばらくの間、その翡翠色の双眸を開いたまま……涙を拭うこともなく、獣のような貌をして、マーサ・ビスト・カーバインから提供されたという情報を聞くことになる。

『……NTDを強制起動させられる直前、『フェネクス』と……つまり、リタ・ベルナル少尉と連絡が取れなくなっていたようです。『バンシィ』の放つ、感応波の影響なのか……『フェネクス』自体の機体のトラブルだったのかは、分かりません』

「……そうか」

『……『フェネクス』に、NTDの強制起動コードが送信された時、リタ・ベルナル少尉の…………ライフサインは……心拍、血圧、感応波測定……全てが……途絶えていたようです』

「…………死んでいたのか?」

『……リタ・ベルナル少尉は、地球連邦軍が独自開発したユニコーンガンダム3号機、『フェネクス』の専属テスト・パイロットでした。強化人間としての手術と投薬を繰り返されていた彼女の肉体は、蝕まれていた。『バンシィ』との競合演習に、肉体が耐えられず……死亡しても、おかしくはないそうです』

 ……ブリック・テクラートは、可能な限り真実を話しながらも、死者とジュナ・バシュタ少尉への敬意を払おうと心がけていた。

 彼の聞いた音声データは、もっと辛辣だった。マーサ・ビスト・カーバイン。彼女は、強化人間のことを道具にしか見ていない態度で、ミシェル・ルオが企画した尋問に答えていた。

 ―――使い捨ての強化人間が、よくあそこまで生きていたものよね?……子供の頃から頭も弄られて、機械も入れられていた。彼女、皮膚の色が氷みたいに青ざめていたわ。あれ、合併症よ。ティターンズの粗雑な手術で、内臓機能なんてダメになっていた。

 ―――きっと、口でゴハンなんて、食べられなかったんじゃないの?……大腸とかもなくて、排便とかする必要もなかったかもねえ。それ用の穴とか、開けられていたのよ。あははは!!きっとね、見られた裸じゃなかったかもね。あちこち、手術の痕だらけよ!!女として、もうとっくの昔に、色々と死んでいたのよね!!穢らわしい強化人間らしいわよ!!

 ―――あいつが、色々とケチのつけ始めだったわ……『フェネクス』のせいで、私がどれだけ苦労させられたか……クソガキどもに先んじて、本当に、私を苦しめて!!……あの損害を、取り戻すために、どれだけの!!……あの出来損ないの、ゴミ女が、不始末をやらかしたせいで……ッ!!

 ―――暴走して、自分の母艦を破壊する!?……ついでに、『バンシィ』まで破壊して!!私たちの肝いりのプロジェクトは、大きな失敗をもたらされたのよ。あの役立たずの、ゴミ女のせいで……教化人間なんて、本当にゴミよ。もっと、ヤツらの『消費期限』ってのを、明確にしておくべきだわ……。

 ……ミシェル・ルオでさえも激昂する言葉だ。世の中の闇に精通する彼女でさえも、感情的に殺意に駆られる言葉―――だが、真実の言葉。それを、私はジュナ・バシュタ少尉に伝えなくて済むのは……きっと、ミシェルさまのやさしさのおかげです。

 ―――ジュナには、言わないで。

 その命令のおかげで、嘘をつけることを、ジュナ・バシュタ少尉に最低な真実を隠せることに、感謝いたします、ミシェルさま。私は……彼女に、そんな言葉を告げられない。

『……リタ・ベルナル少尉は、NTD発動前後に、死亡している可能性が高い』

「……でも。動いているんだな、『フェネクス』は?」

『……はい。最新の目撃情報では、第一次ネオ・ジオン紛争が起きた宙域を、飛び回っているようです』

「攻撃しているのか、何かを?」

『いいえ。ただ、飛び回っているだけです。その理由は、分析出来ていません。何か、目的を感じているのかもしれない。リタ・ベルナル少尉の、パイロットとしての評価は……実に責任深く、誠実で……模範的なものだったようです。パイロットとして、あるいは、個人として、何か、すべきと感じていることが、彼女にはまだあるのかもしれない』

「……そうか」

 翡翠色の双眸を閉じる。あふれていた涙のせいで、目を開きっぱなしにしていても、苦痛は少なかった。暗闇に戻る。リタの声を……頭に思い浮かべる。

『生まれ変わったら、私は鳥になりたいな!……ジュナは?』

「……答えを教えてやるさ……おい!サイコスーツを持って来い!!……ジェスタとの戦いに備えるぞ!!……今は、全員で協力して、生き残る!!死んでる場合は、ないんだからな!!……私たちは、『フェネクス』に……リタに会うために……宇宙に出るぞ!!」
 

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