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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT045    『加速との戦い』



 ―――ブリック・テクラートは一連の説明を受け取ると、ミシェル・ルオからの通信が入ったためにこの場を後にした。

 エンジニアは、彼が去った後に耳へとつけたインカムから、怒鳴り声を喰らうことになる。

『おい!!『高機動装備』のデータをアップロードしろと、さっきから言っているのが、聞こえないのか!?』

「あ、ああ!!すみません。ちょっくら、上司に業務報告をしていたんですよ」

『……ブリックが来ていたのか。ミシェルの秘書なのだから、アイツについておけば良いものを』

「彼も色々とお忙しいのでしょう。それに、ナラティブと少尉の調整は、『不死鳥狩り』における最重要のメソッドですから」

『……たしかにな。だが、そうだというのなら、次の段階に進むぞ』

「……え。ああ……たしかに、撃墜数がいつの間にやら70になっていますね。かなりのもんですよ、これ」

『死にまくった結果だから、素直には喜べんがな……何なんだ、この凶悪な状況設定は……第二次ネオ・ジオン抗争ってのは、本当に、ここまでハードだったのかよ……』

「体験したパイロットたちは、もっと悲惨だったと仰いますな」

『パイロットの体験談なんて、誇張されているのがデフォルトってものだろう』

「たしかに。だから、このシミュレートは、回収することが出来たデータだけに基づいて作られています。妥当な再現率だと思いますよ」

『……エンジニアに口車では勝てそうにないな』

「上司にアイデアを聞き入れてもらうためには、こちらの考えを魅力的に伝える手段は必須条件ですからね」

『……ああ。わかったよ。わかったから、次に進ませろ』

「……休憩すべきでは?疑似的な無重力空間にいるとはいえ、サイコスーツは硬くて重たい。機動すればGで締めつけられるでしょう?」

 全身が痛むはずだ。こんな訓練、普通のパイロット・スーツを着て3時間行っただけでも、全身の関節がバラバラになりそうなぐらいの負荷はかかる。

 そうだというのに、彼女は文句一つ言わない。エンジニアとしては感情論を排して評価をすべきと考えていますから……あえて先ほどはテクラートさんに報告しませんでしたが。

 他のエンジニアも指摘している通り、根性……執念。そういう分野を数値化することが可能なのであれば……ジュナ・バシュタ少尉は超一流の成績だと思います。

『……どうした?私の休息時間は十分だぞ。女を抱く時間を減らしてでも、訓練に全てをそそいでいる』

「え?女?」

『……ああ。女だ。女が女を好きだと、問題があるか?』

「いえ。別に。ボクも女性が好きですから、気持ちは分かります」

 中の上以上の美人だけど、そういう趣味では男にはモテませんな。まあ、女性オペレーターにはモテているようですが。

『問題ないなら、始めるぞ』

「……了解です。ですが、バイタルに異常が出れば、すぐに中止しますからね。肉体にかかるGは、今ままでの数倍ってところになります。体感的には、機動の度に全身がねじ切られて、ついでに打撃を浴びたようなことになるみたいです」

『踏んだり蹴ったりだな……』

「そうです。まさに踏んだり蹴ったりです!」

『だけどさ。そのためのサイコスーツだろ。手足を圧迫したりして、無理やりに私の血圧を管理したり……私のカラダが壊れないように締めつけてくれる』

「……ええ。ですが、分かっておられるはずですが……その作用だって、肉体を傷つけることになります。分かっていますよね?」

『もちろんだよ。私だってパイロットだ』

「……なら―――」

『―――だが……慣れなければ、リタに…………いや、『フェネクス』に追いつかない。変幻自在な動きのあげく、下手すれば光速のスピードまで出すような相手だ……光速を出されたらどうにもならないが……機動力を殺すための方法論は一つだけ』

「……はい。こちらも速度を上げて、スピード勝負にする。そうすれば、機動力は『フェネクス』と言えども減少するはずですからね」

 未知のスペックを発揮する、フル・サイコフレーム・モビルスーツ。『フェネクス』。他のユニコーンガンダムたちも、異能を発揮していたが……3号機は、その異能を発揮始めてから暴走し……15ヶ月も経っている。

 ……光速を出していたとすれば、タイムマシン状態になって、『フェネクス』の内部の時間経過は遅れているのかもしれませんが―――それにしたって、非常識すぎるターゲットであることには間違いない。

 そんな相手に、常識的な方法論で挑むというのも……果たして、有効な発想なのか?

 ……エンジニアには答えを出せそうにない。

 いや、出せている答えが、どうにも否定的なのだから、口にしたくもないだけだったか。

「……『フェネクス』……存在自体がイレギュラーな相手です。それと、スピード勝負をする、ですか?」

『……我々には、常識的なことしか出来ないさ。あちらが、『こちらの遊びに付き合ってくれる』のなら……チャンスは、そこにしかない』

 ……ああ。そうか。

 エンジニアはジュナ・バシュタ少尉が選ばれた理由がハッキリと分かった。能力も要るけれど―――少尉は、『エサ』なのだろう。『フェネクス』のパイロットである、リタ・ベルナルを釣るための……幼なじみだから、リタ・ベルナルは、彼女となら遊んでくれる可能性が存在しているのか……。


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