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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT046    『残存率』




 ……罠だと分かっていても、近づいてしまう罠。それこそが、真に優れた罠だとするのならば、ミシェル・ルオの考えた罠は、何とも性能が良いモノかもしれない。

 『幼なじみ』。強化人間の狭くて、悲惨な人間関係からすれば……その存在は宝物のように美しい気がする。

 もちろん、強化人間が、過去の思い出を……幼少時の思い出を記憶しているほどに、精神構造が崩壊していなければのハナシではあるが。

 だが、他の者では、彼女のエサにはなりえないというのも事実だろう。リタ・ベルナルの幼い頃の日々―――人間として過ごせた、当然の時間。そこにいた人物がエサになるのであれば、あの凶悪な不死鳥も……興味を抱くのかもしれない。

 捕獲することが出来るとすれば、たしかに、ジュナ・バシュタ少尉だけってことですね、ミシェル・ルオ……貴方は、恐いお方だ。合理的で、手段を選ばない。そして、大きな権力と資本を持っているわけで。

 ……。

 ……恐ろしいとか、おぞましいとか思うべき人物なのかもしれません。でも、エンジニアってのも、ヒドい動物ってことですなぁ。自分は、楽しんでしまっていますよ。それらの罠が、本当に組み上がることが可能なのか。

 ヒトの知恵と、ヒトの技術。そして悪辣さが作った罠に……『シンギュラリティ・ワン』とまで呼ばれている存在が、技術的特異点が……捕らえられるのか。それは、なんだか、とても好奇心がくすぐられる勝負じゃないでしょうかね。

「……少尉」

『なんだ?』

「了解しました。高速機動装備のデータをアップロードします。第二次ネオ・ジオン抗争の宙域を、生き延びられるようにして下さい。こちらも……禁じ手の存在を解禁します」

『禁じ手?』

「『隠しキャラ』ってところですよ。本来は……訓練の妨害にしかならないから……投入することはないんですがね」

『……ほう。なるほどな、読めては来たよ』

「ニュータイプ能力が、研ぎ澄まされて来たのでしょうか?」

『そうじゃないと思うが。まあ……お前の語り口から推察したんだよ』

「なるほど。では……それらも、その宙域に放っています。興味があれば、接近してみてください。勝てなくてもいいので、生き延びてくださいね。理屈上は……その装備なら逃れることは可能です」

『……『フェネクス』に追いつくための装備だからな』

「装備を使いこなせるように、鬼ごっこというわけですよ―――では、作戦開始、150秒前です」

『……む。ホントだな。シミュレーターが、あちこちギシギシ言っている』

「再現用の圧をかけているだけですが、実際のと同じGをかけられます。この施設、最大の売りですが……死ぬほど辛いですので、バイタルサインに異常が発生すれば、即座に訓練を中止します」

『……わかった。ここで死んでる場合でもないからな』

「そういうことです。では……装備の確認を」

『ああ。マニュアルで読んだ通りではあるな……巨大な増設ブースターをつけて、ミサイルポッドを装備。大型ビーム・サーベルに……ハイメガキャノン』

「そして、ナラティブの目玉である、『サイコ・キャプチャー』です。マニピュレーターと連動し、捕縛フィールドを構築……」

『……『フェネクス』をフィールド内に閉じ込めて、無効化する』

「サイコフレームに干渉して、その能力を減弱させつつも物理的な重量と圧力でも拘束します……それで捕らえることが出来ないのであれば、他のどんな装備を使ったとしても捕獲は不可能、その事態は避けるべきですが―――分かっていますよね?」

『…………回答したくないなぁ』

「でしょうね。でも、少尉は……連邦軍のモビルスーツ・パイロットです。『フェネクス』を放置した時に、起こりえるリスクが……一体どれほどのものなのかは、お分かりでしょう?」

『……まあ、な』

「搭乗者の意図を超えて、動いている可能性があります。オートパイロットの一種が暴走している……詳細は我々にも分かりませんが、『フェネクス』は……27人も殺しているんですよ。母艦を攻撃した」

『……っ。きっと……そいつらのことが、嫌いだったのさ。自分の脳を開いちまうようなヤツらだから……リタだって……殺したかったなじゃないかな』

「本当に、そう思っていますか……?」

『……いや。分からない。リタとは、10年も会っていないんだ。かつてのリタなら、そうは思わないだろう。だが……かつてのリタは、どれぐらい残っていたんだろうな……?』

「…………それは」

『……分からないよな。すまない。そんなことで、落ち込んでいる場合ではないな』

「ええ。試験開始まで……あと。10、9、8、7、6―――」

 ―――どれぐらい残っていた。まったく……ヒトに対して、使うべき言葉ではないですな。平和な時代が訪れたら、失職するかもしれませんが……ヒトをモノ以下の扱いをすクズどもが減ると思えば……他の仕事を探すのだって、悪くないことじゃありますよね。
 

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