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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT042    『ドクター』




『―――それで、ボクの素性がバレた。この拠点には、『袖付き』の残党が流れついていて、そいつはボクが連邦軍人だって分かると、激怒した』

「『袖付き』ね」

『……若くて凶暴で、いきがってるヤツだったよ。ボクのことを散々、殴りつけた。彼はここの連中よりも、生粋のテロリストだったね。ネオ・ジオンってのは、やっぱり凶悪集団だ。子供に洗脳教育を施しているみたいだ』

「そうなのね」

「……オレはネオ・ジオンはとっくの昔に辞めてますんでね。『袖付き』は、シャアもどきに乗せられた一級品のテロ屋どもっすよ」

 とにかく凶暴なクズどもで、戦争で世のなかを変えられるとか考えている、おめでたい後輩どもだ……。

 世のなかってのは、そんなにシンプルじゃないものなんだがね……隊長はアザだらけでしゃべる少佐の顔を見つめながら、ため息を吐く。

 捕虜を殴るなんて、軍人としては失格だ。それだから、テロリスト扱いから卒業することも出来ないまま、壊滅状態になっちまうんだよ……地上のジオン系の連中を、そそのかして不幸で不毛な争いにまた巻き込むなんざよ……下らねえことだぜ。

『……とにかく。そんなカンジだよ。連邦軍じゃない君らは、どこの誰だい?……ボクを殺すのなら、もう一思いにやってくれよ……』

「殺してもいいけど、死にたくはないでしょう?」

『…………そうだね。死なないで済むのなら、とても嬉しいコトだ』

「ねえ、カシマさん。あなた、復讐をしたくないかしら?」

『え?……ふ、復讐かい?』

「そうよ。貴方はね、マーサ・ビスト・カーバインの悪事がバレたとき、その手駒の一つとして処分されることになった。連邦軍の同僚に、同じ仕事に携わっていた連中がいるでしょう?」

『……ああ。カートマンだ。あいつに決まってる。あいつが、ボクをハメた。自分だって、アナハイムの言いなりになってたくせに。ボクだけを切り捨てて、ボクを生け贄にした。スケープゴートってことさ』

「カートマン中佐なら知っているわ。彼と士官学校の同期の出世頭から、私は依頼を受けたのよ。捕らえられた貴方を使って捕虜の解放しようとしている、ここのジオンの連中を消してもらうことを頼まれたの」

『……君らは、軍じゃない?じゃあ……どこの、組織……ああ、そ、そうか……ルオ商会?』

「ウフフ。察しがよいのね。いいかしら、私はね、賢いヒトは嫌いないわ。もっと言うとね、私に従順なヒトはもっと好きよ」

『う、うん。その法則を、ちゃんと理解しておくことにするよ!ボクは、きっと貴方に従順な男だよ』

「連邦軍は、貴方に責任の幾つかを押し付けたまま、消えてもらうことにしたわけね。男として、そんなことされて黙ったまま逃げたい?」

『……いや。そんなことは……ないよ。でも、復讐しようとしても、相手は大きいし』

「私たちルオ商会が後ろ盾になるわ。何だって可能になる……カートマンには、早期に引退してもらって、アナハイム派のロビー活動団体を弱体化させるわ。彼は、別件で失脚するのはどうかしら?」

『別件?』

「……小児性愛よ。あいつ、ロリコンなのよね。偉大なマーサおばちゃまが逮捕された時に、色々と膿を出そうと連邦軍も政府も考えている。そうじゃないと、次の選挙で負けるヤツが大勢出そうだからね……貴方が私たちに、アナハイムの商売についての詳細を教えてくれるなら、カートマンに二度と公職につけない立場にしてあげられるわ」

『……それって、いいトレードだね。ボクは、もう表立って動くのは懲り懲りだ』

「情報だけでいいわ。マーサおばちゃまの人脈形成術を学べたら……逆引きすることで、どこの軍人に息がかかっているのか、私なら占えるもの」

『占い……?君は……ニュータイプなのか?……ルオ商会…………まさか、『奇跡の子供たち』?』

「そんなところね。私に協力する?……貴方がマーサ・ビスト・カーバインの悪行を証言してくれるなら、復讐はしてあげる。マーサに恩義は?」

『ないよ。彼女は、だって失脚したんだ。アナハイムもビスト財団も、終わるよ。ボクたちみたいなのは……保身のためなら、口を割るからね』

「だからこそ、口を割れないようにヒットマンを差し向けるってわけね」

「いい社会勉強になりますな。死人に口なしという、昔の流行語……コトワザってヤツを実体験で学べていますよ」

「殿方は悪趣味ね。そんなブラックなユーモアを楽しめるんですから」

 ミシェル・ルオは少々、呆れてしまう。隊長は、どこかしたり顔でブラック・ユーモアを口にした自分を誇示しているように見えた。中年男の、厄介なところの一つよね。ユーモアを示すことで、自分が素敵なオジサマなんだと勘違いする……。

「とにかく、私たちと一緒に来てくれるかしら?」

『ええ。お供させて頂きますよ、女主人さま』

「いい犬っぷりね。マーサにもそうやって尽くして来たのね?」

『そんなところだね。ボクは、忠実な男だよ。主体性はなくて、金が好き。暴力に怯えるタイプだから……あんまりヒドいことはしないでね?』

「しないわよ。でも、仕事は与えてあげるから、しっかりと働きなさいね?」

『わかった。それで……どんな仕事なんだい?ボクがすべきことってのは、何かな?』

「……貴方のMIT時代のお友だちに、ルオ商会から莫大な研究資金の提供を行おうと思うと伝えて欲しいの」

『…………じゃあ、アレをお望みなんだね?』

「そうよ。賢い犬は好き。私の要るものを、用意してもらえるかしら?」

『彼も処分には困っているだろうから、すぐに寄越してくれると思うよ。地球製のサイコフレーム……精錬は宇宙で作ったヤツよりも弱いと思うんだけど、いいのかな?』

「いいのよ。サイコフレームを、より多く集めておきたい。そうでなければ、私の目的は達成されにくそうなのだから」


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