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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT041    『少佐』




 いい裁きを聞いた気がするぜ。隊長はそう考えながら、口元をニヤリと歪ませる。

 やはり、彼女はいい女王になりそうだ。オレが見て来たルオ商会らしい長になりそうだ。ルオ・ウーミン会長は、自分の本質を二人の娘に分割しすぎたな。

 商売人としての表の顔は、ステファニー・ルオに。

 マフィアとしての裏の顔は、我らが女王陛下であるミシェル・ルオに。

 そいつは分かるし、理解ができるが。どうにも、贔屓したくなっちまうぜ……そうだ。まったくもって、自分はミシェル派になってしまったよ。

 必死にこの場から脱出していく、かつての同胞たちと、彼らが地球で手にした家族の背中を見ていると、この結末を導いたミシェルに敬意を示したくてしょうがなくなってしまうぜ……。

 ああ、自分がミシェルさま好みの美少女であったら、いくらでも抱かせてやるのに。

 ミシェルさまがレズビアンであることと、自分がその性愛の対象からもっとも遠いであろう最強に厳つい中年野郎ということが、何とも残念に思えて仕方がない。

 とはいえ、最高の仕事をしたし、最高の上司を知れたことは、傭兵にとってはこれ以上ない有意義な時間と言える。

「……さてと。オーガ3、任務を片付けるとしようぜ。捕虜にされていたとかいう、少佐殿ってのを回収しろ」

『了解です』

 拳法の達人でもあるオーガ3が、愛機から飛び降りて半壊している建物の外壁に取り残されている、ロープで縛られた男の元に接近していく。警戒しつつ近づいていった。

 男の周囲に爆発物が仕掛けられていないのかを疑っているようだが……。

 結果を言えば、爆発物はそこには存在しなかった。オーガ3はヘルメットをさわりながら、オーガ1のグフ・カスタムを見上げている。

『……確保しました。カメラ映像、送れていますか?』

「通信がクリアになっているわね。うん、今なら、動画転送も可能よ。映像を共有しましょう」

『了解、共有します……おい、ドクター・カシマ。こちらを向け。オレのヘルメットを見ろ。カメラがあるんだ、分かるだろ?』

『……あ、ああ……君たちは、一体?どこの誰なんだい……?ボクを……どうしようっていうの、かな……?』

 ミシェルは端末に送られて来た男の顔を、資料の画像と照合させていく。97.98%で本人と一致。あちこち殴られているれど、頭部の骨格はそこまで変形させられていないようだ。

 常識的な暴力を振るわれていたらしい。ルオ商会の捕虜の扱いと比べると、スペースノイドたちは穏やかであるらしい……。

「……さて。あなたが、ドクター・カシマね?連邦軍の少佐殿」

『……はい。そうです』

「……こいつ、軍人にしちゃあ、えらくお淑やかですなー」

「……彼は、技術屋なのよ」

「はあ。エンジニア?……なるほど、さっきの不細工モビルスーツの製作者サマってことか」

「多分ね。モビルスーツの知識もあるし……マーサ・ビスト・カーバインの主導していた『袖付き』への物資提供を隠蔽するための知識もある」

「ハハハ。なかなかの悪漢ですなあ。彼のおかげで、オレたちは割の良い仕事に出会えたってわけですがね」

「持ちつ持たれつだった。敵と味方の双方に武器を売りつける大商人マーサおばちゃまの手腕で、世界には少しばかりの血が流れながら、お金が動いていた……それに、政治家たちも得していたのよ」

「政治家ですか?」

「戦争を指揮する指導者って、支持率が上がるのよね。乱暴な物言いをするヤツって、バカでも強そうに見える。『治安を荒らしてくれるジオンの残党』がいれば、モビルスーツを配備して、防衛力を上げよう!って主張しているだけで選挙で当選は確実でしょう?」

「歴史の教科書にも書いておくべきですなあ。ヒトは戦を上手く使って、マネーと権力を得ていると」

「地球連邦政府は、そんな教科書にサインをしちゃくれないでしょうけれどね……さて、オーガ3。そいつとハナシをさせて?」

『イエス・マム!……おい、クズ野郎、オレたちの女主人さまが、貴様と話したいと仰っている。態度に気をつけながら、淀みなく質問に答えろ!!』

 軍人の皮が剥がれて、マフィア気質が出てしまっているわね?……女主人さまだなんて言葉は、マフィアでも使いそうにないけれど。嫌いでなくてよ。

『わ、わかったよ。だから、拳銃を突きつけないでおくれ……ボクが荒事に向くタイプじゃないって、想像つくだろ?』

「……ねえ。ドクター・カシマ」

『は、はい!』

「どうして、彼らは協力者であるはずの貴方を、拉致したの?」

『……正体を隠していたんだけど、それがバレたんだ。ジオンである彼らも、ボクたちアナハイム派の連邦軍人も……お互いの素性なんて詳しく知るべきじゃなかった。でも、ボクが手配したはずのスラスターが……何故か最新鋭の装備に変えられていた』

「……どうやら、ヤツは、連邦軍に売られたようですな。積み荷を変えられて、素性がバレてしまった。死を望まれていわけですか、身内の連邦軍から」

「ええ。そうみたいね―――」


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