ACT155 『月へと向かう面々』
また新しい朝が来た。パイロットたちにとっては、戦場へと向かう朝であった。『不死鳥狩り』のチームはより大きな部隊に編成し直される。
ジュナ・バシュタ少尉とシェザール隊たちパイロット・チームに、大勢のエンジニア、そしてこれまた大勢の医療スタッフだ。双子たちは医療スタッフの多さに疑問を抱く。
「どーして、そんなに白衣の人たちがいるんですかねー」
「ほんとだよな。アンタら、何をするってんだい?」
「ああ。我々はサイコフレームの調整を行うチームだよ」
「エンジニアの仕事っぽいんじゃねー?」
「本当だよな。モビルスーツの仕事になるんじゃないのかい……?」
「サイコフレームに対する、我々の研究結果による選択だよ。あの装置は、ヒトの脳神経を模して、極小のサイコミュが金属内部で固まっているんだよ。『外付けの脳』とも呼べる」
「……最近、よく聞くフレーズなんすけどー……」
「ホントだ。大尉も言っていたなあ、サイコミュ装置ってのは、そういうもんなのか?」
医療スタッフはうなずいた。おでこの広い金髪・眼鏡のドクターは語りたがりな面を持っているらしい。研究者という存在は皆、どこかそういった側面を持つ者ではあるのだが。彼もまた例外に漏れることはなかったというわけである―――。
「―――そうなんだよ!!」
「うわ。食いつきがいーなー」
「オレたちみたいな物わかりの悪そうなヤツらに質問されて、喜ぶってのは奇特なんだぜ」
「奇特か。よく言われていたよ、幼少の頃からねッ!!……今は、周囲の研究スタッフたちからも言われている。マニアックだってねッ!!」
「本当のマニアさんだぜー。マニアっていうことを誇りに思っているように話してる」
「筋金入りのマニアやオタクってことだ。人生を顧みずに、研究に没頭するタイプだな」
「まさに、その通りだ。色々なものを投げ打っちゃって、ここにいる。ルオ商会の莫大な研究費用を使いながら、脳神経とサイコミュの研究をしているんだよね!!」
「サイコミュねー……結局のところ、アレはどういうシロモノなんだー?」
「そういや、オレもよく知らねえな。宇宙に昇るんなら、知っておいて損はなさそうだ」
「無いどころか、命を救われかなねい重要情報じゃないか?……敵を知らないとさ?ネオ・ジオンの『袖付き』も動いてるってんだろ?彼らには、強化人間だっているんだから」
「強化人間ねー……ジュナ・バシュタ少尉みたいな存在?」
「あの姉さんはニュータイプなんじゃなかったか?」
「……どちらかは何とも判断のつかないところだろうね。元々、同じような存在だ。あえて言えば、天然ものか、人工的に作り上げたものか……ってところ。能力はヒトに寄りけりだ……ああ、人工的に作られた分、肉体や精神の障害が多く在るってのも、強化人間側の特徴じゃある」
「脳みそいじくられるんだろー。ハードだな」
「ホント。ヒトって悪魔みてえなことするよなぁ」
「そうですね。それは否定は出来ませんが…………私ね、不謹慎って言われちゃうんですけどね。そういう研究、好きなんですよね」
素直な研究者はそう発言していた。強化人間の製造については、非人道的だという非難は数多く上げられているし―――たしかに、それは認めざるを得ない。だが、面白いじゃないか?
「ヒトの能力を、強化することが出来る。今は、かなり深刻な後遺症が起きる処置をしているけど……これが完成して、その後遺症の管理が完璧に出来るようになったら?……それって、スゴいことじゃないかい?」
「マッドなサイエンティストだなー、アンタ?」
「エゴイストっぽいぜ」
「そのどちらでもあるけれど。もしも、君たちが二時間の手術を受けることで、エース・パイロット並みの戦闘能力を獲得することが出来たら?……あるいは、超能力と言われるような力を身につけられるとしたら?どうする?その手術に、後遺症がなかったら」
「……やってみたいよーな気もするけどよ」
「……パスだな。自分が変わっちまうことには、抵抗がある」
「そうか。でも、たとえば君たちが事故や何かで大ケガを負う。手足ももげて、脊髄がズタズタだ。一生、自力での歩行は困難。夢のまた夢だとする……そんな状態になったとき、自分の考え通りに動き、何なら感覚だって伝えてくれるようになるシステムを、首に埋めるのはイヤかな?そうすれば、手足は機械で動かすことになるけれど、君たちの生活の質は改善する」
「サイコミュで義手とか、義足を作ろうってことっすかねー?」
「なかなか面白そうな話じゃあるな。手足を失った兵士は、オレたちの知り合いにも多い」
「そうだろ?……サイコミュは、かつてはそれなりの感応波を必要としていたけれど、今、必要とされる感応波とても少なくなっている。センサーの技術革新や、小型情報処理装置の発展が、サイコミュへの入出力へのハードルを下げてくれている」
「じゃあ。オレたちもサイコミュ兵器が使えるようになるのー?」
「だとすれば、ファンネルってのを操ってみたいもんだぜ。アムロ・レイ大尉のよ」
「……あー。あれなら……『有線式』のヤツならあるよ?」
「ダセーって!!」
「四次元的な動きをしてこそのファンネルじゃね?」
「美学に反しているのかもしれないけれど。コードを切られるまでは、実際のファンネルの89%は模倣出来るって計算なんだけどな」
「……9割のファンネルってかー……」
「強そうだが、本当なのかよ?」
「ああ。まあ……動かせる数は少なくなるけどね。特徴的な、超速機動も……でないけどさ」
※会員登録するとコメントが書き込める様になります。