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ガンダムNT:S007

原作: 機動戦士ガンダム 作者: よしふみ
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ACT128    『強化人間の依存症』




 ゼリータ・アッカネン大尉は、強化人間らしく何処か壊れているように見えたが、それを魅力として認識させるほどの美しさを持ってもいた。

 宇宙空間で愛し合いながら、エリク・ユーゴ中尉は強化人間たちの特殊なロマンスにまつわる情報を思い出しているのだ。

 この壊れた超人たちは、どこか幼稚で残酷なところがあるものらしい。

 攻撃的であることや、戦闘に対する意欲の高さが強化されることは、決して悪いとは言えないものだが、この世の理は、あらゆる事象に対して、対価というものを求めがちである。

 強化人間たちが支払って来たのは、精神的な安定性の欠如というものであった。そのおかげで超人にはなれたが……心に宿る得体の知れぬ不安は、被害妄想や狂気の温床となることも多い。

 監視者は、それをサポートするためにあてがわれて来た。多くの場合は異性がその担当となる。

 性的な依存が発生する場合があるからだ。性欲を満たすことは、ヒトの心に正体不明の安心感をもたらすことにつながる……。

 それは実に獣のような発想ではあり、本能に根差した傾向であり、それゆえに効果的なものであった。性欲さえ満たせば、ヒトは多少の不安を解消することが可能な動物なのである。

 ネオ・ジオンの強化人間たちに対して取られた対策は、地球連邦の方針―――薬物を過剰な投与や、より強い抑圧に晒すということよりは、ある意味ではマシだという評価も出来るかもしれなかったが……性的に倒錯した人物たちは、風紀を乱しがちなものである。

 しかも、ネオ・ジオン内では、強化人間たちは高い地位と自由を与えられていたため、組織の協調性を乱してしまうことが多くあったという―――。

 ―――あくまでも対症療法的な行いであって、根本的な解決策ということではないってわけよね。

 性的欲求を満たすことで、強化人間たちは自分が失ってしまった『何か』を補おうとしている……でも、それは多くの場合、セックスに根拠を持つモノなんかじゃなかったのよ。

 脳や神経に、改造や薬物処理を施す……そんな行為で、どれだけのモノを彼女たちは失って来たのか。

 エリク・ユーゴ中尉は、自分に仔猫のような甘えっぷりで抱きついて眠る、全裸のゼリータ・アッカネン大尉の顔を見る。

 彼女の右目には痛々しい赤い義眼が輝いていた。そして……いつものように、エリクの耳は聞くことになる。

「……お父さま……私は……ジオンの役に立ちます…………」

 眠りのなかのゼリータ・アッカネンが忠誠心を発揮しているのは、祖国ではなく、大義ではなく、『お父さま』なのだろう。エリクはそんな推理をしていた。

 本来の彼女は……いつ頃か失われてしまった、本物のゼリータ・アッカネンという女性は、ややファザコン気味の良家のお嬢さまだったのだろう。

 名家の出身者だが、名家ゆえに、戦時となれば、戦争に供物を出す義務があった。

 それが、アッカネン家にとっては、ゼリータだったのだろう。幼い頃から、彼女はフラナガン機関で調整を受け続けてきた―――良家の子が、多少なりともニュータイプ能力を発揮してしまったのか。

 それとも、名家ゆえに差し出された供物だったのかは、分からない。第一次ネオ・ジオン紛争において活躍していた強化人間たちに比べても、ゼリータは強い能力を発揮することは出来なかったのかもしれない。

 だからこそ、連邦からの亡命科学者という、ジオンの本道ではないテクノロジーまで注がれて、より深い強化を実行する必要があった。シャア・アズナブルや、ハマーン・カーンのように……。

 もしかしたら……シャア・アズナブルの『再来』として製造され、完成を見せたフルフロンタルと、ゼリータ・アッカネンをカップルにでもしたかったのかもしれない。

 ゼリータが、ネオ・ジオンのカリスマであるハマーン・カーンの模造品として完成していたら?……フルフロンタルには、絶好のパートナーであったかもしれない。

 史実では、シャア・アズナブルとハマーン・カーンは破局を迎えたカップルであるらしいが。

 政治的かつ、象徴的な意味を持たせることが出来ただろう、もしも、ゼリータがハマーン・カーンに似ていたら……フルフロンタルは利用したかもしれない、ゼリータのことを。

 しかし、実際には、ゼリータにはフルフロンタルに対しての、劣等感と殺意が満ちてあふれているが……自分がシャア・アズナブルの『再来』になれなかったことを、口惜しがっているわけだ。

 男のように、女を抱こうとするのも……その劣等感からなのかしら。エリク・ユーゴはそんなことを考えながら……ゼリータへの同情が由来となる行為として、彼女の髪を撫でようとした。

 だが、その同情的な行為は、ゼリータの手により掴み取られてしまった。

 ゼリータの赤い瞳が、エリクを見つめていた。

「……起きていたの、ゼリータ?」

「……今、起きたのさァ!!……なんていうかさあ、この感覚っ。分からないか?分からないだろうなァ……!!」

「……貴方には、何が分かったのかしら、私のゼリータ?」


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