狩り
薄暗い巣穴に眩い閃光が奔る。
眼を焼かれた飛竜は意図せず頭部をのけぞらせた。
刹那にも満たない僅かな間が生まれる。
そして彼を激痛が襲う。
二足の生物でいう肩にあたる部分、空を飛ぶ飛竜にとっては翼の付け根から鮮血が舞った。
下手人は振り下ろした形のそれを軸に体を流し、次の瞬間には逆袈裟の型を取り薙ぎ払う。脇下からくる強烈な突き上げる衝撃に浮き上がるようにして倒れこんだ。
追撃の振り下ろしは先のそれとは隔絶して重い。
巨躯を誇る草食竜を簡単に持ち上げ自らも飛ぶ膂力を生む翼はそれで使えなくなった。
下手人たる狩人は一連の流れから畳みかけるべきと判断。機を逃すまいと武器を振り上げた。
―――されど空の王。
地に伏したとてその脅威は健在だった。
未だ明滅する視界の中で、咆哮とともに立ち上がりその巨体を回転させる。
振るわれたのは強靭な尾。
鈍い風切り音を巻き起こし、懐に在る敵を薙ぎ払う。体躯の小さい烏竜種ならば吹き飛ばされてそのまま絶命する威力のそれは当然の摂理をもって憎き狩人に一矢報いる。
ぬかったか。
器用にいなしつつも決して軽くない衝撃を受け、強制的に距離が開く。
渾身の一撃を三度。閃光玉を用いた奇襲で得られたアドバンテージはそこで打ち止めとなる。地を踏み鳴らし唸るリオレウスを前に、狩人は再び武器を構えるのだった。
★ ☆ ★
モンスターを狩るにあたり、ハンターたちは様々な武器を用いる。
オーソドックスな盾と剣を構える片手剣。
その剣を両手に持ち手数を重視した双剣。
起動要塞のようなガンランスに変形機構を組み入れたチャージアックスやスラッシュアックス。近接武器と呼ばれるカテゴリーは実に多種多様で、使っている狩人ですら仕組みが理解できていないようなものまで存在する。
里長はあまり運用しないが遠距離からの攻撃を可能にする弓やボウガンなども昨今ではかなりの進化を遂げており、その火力は尋常じゃないほどに高まっていると聞く。
今回、番の飛竜を狩るにあたり里長が持ち出してきたのはその中でも最もわかりやすい武器―――大剣である。
銘は角王剣アーティラート。
二種類の角竜を狩り、その象徴たる剛角を惜しげもなく素材とすることで山をも穿つと謳われる剛の剣。ポッケ村の近辺に常駐する狩人たちはこれを大剣の頂点と評することもあるほどの業物。
渾身の力をためて振り下ろしぶん回し叩きつける。
実に単純。実に豪快。
生半可な飛竜の外郭などものともしない破壊力を秘めたそれは、里長が持つ数多の武器の中でも頭一つ抜きんでている。
グルル
その破壊力を身をもって知ったリオレウスは甚大なるダメージを受けつつも既に冷静になっていた。
低く唸りつつも無暗に咆哮を上げたりはしない。
隙を見せることはすなわち大きな痛手を負うことである。
先の奇襲から学んだのは視線をそらさないこと。
意識を他に向ければそれは己の首を狩るということを知ったリオレウスがとった行動は、己も武器を使うことだった。
つまり、ブレス攻撃。
リオレウスが体内に持つ特殊な器官。
そこから吐き出されるエネルギーは口腔内を砲身と見立てて解き放たれる。
ゴウっ
空気が爆ぜる音が轟き、次いで灼熱の火球が狩人を襲う。
ちりちりと身が焦げる感覚を味わいながら狩人は転身回避。
飛び込んだ先は前方、二発目を放たんと顎を開けるリオレウスに抜刀したアーティラートを引きづりながら肉薄していく。
―――がりがりと地を削る感覚は、まるで自分が地中から獲物に迫る角竜になったかのような気分だ。
そして火球が再び放たれる直前、振り上げられた角の王はリオレウスの顎を粉砕し、再び地を舐めさせる。
もがくリオレウスが最期に目にしたのは、自身の頭部めがけて振り下ろされる分厚い刃だった。
―――まあ、ね。頭をつぶされたらそりゃあ死ぬよ。
第二話 了 第三話へ続く
眼を焼かれた飛竜は意図せず頭部をのけぞらせた。
刹那にも満たない僅かな間が生まれる。
そして彼を激痛が襲う。
二足の生物でいう肩にあたる部分、空を飛ぶ飛竜にとっては翼の付け根から鮮血が舞った。
下手人は振り下ろした形のそれを軸に体を流し、次の瞬間には逆袈裟の型を取り薙ぎ払う。脇下からくる強烈な突き上げる衝撃に浮き上がるようにして倒れこんだ。
追撃の振り下ろしは先のそれとは隔絶して重い。
巨躯を誇る草食竜を簡単に持ち上げ自らも飛ぶ膂力を生む翼はそれで使えなくなった。
下手人たる狩人は一連の流れから畳みかけるべきと判断。機を逃すまいと武器を振り上げた。
―――されど空の王。
地に伏したとてその脅威は健在だった。
未だ明滅する視界の中で、咆哮とともに立ち上がりその巨体を回転させる。
振るわれたのは強靭な尾。
鈍い風切り音を巻き起こし、懐に在る敵を薙ぎ払う。体躯の小さい烏竜種ならば吹き飛ばされてそのまま絶命する威力のそれは当然の摂理をもって憎き狩人に一矢報いる。
ぬかったか。
器用にいなしつつも決して軽くない衝撃を受け、強制的に距離が開く。
渾身の一撃を三度。閃光玉を用いた奇襲で得られたアドバンテージはそこで打ち止めとなる。地を踏み鳴らし唸るリオレウスを前に、狩人は再び武器を構えるのだった。
★ ☆ ★
モンスターを狩るにあたり、ハンターたちは様々な武器を用いる。
オーソドックスな盾と剣を構える片手剣。
その剣を両手に持ち手数を重視した双剣。
起動要塞のようなガンランスに変形機構を組み入れたチャージアックスやスラッシュアックス。近接武器と呼ばれるカテゴリーは実に多種多様で、使っている狩人ですら仕組みが理解できていないようなものまで存在する。
里長はあまり運用しないが遠距離からの攻撃を可能にする弓やボウガンなども昨今ではかなりの進化を遂げており、その火力は尋常じゃないほどに高まっていると聞く。
今回、番の飛竜を狩るにあたり里長が持ち出してきたのはその中でも最もわかりやすい武器―――大剣である。
銘は角王剣アーティラート。
二種類の角竜を狩り、その象徴たる剛角を惜しげもなく素材とすることで山をも穿つと謳われる剛の剣。ポッケ村の近辺に常駐する狩人たちはこれを大剣の頂点と評することもあるほどの業物。
渾身の力をためて振り下ろしぶん回し叩きつける。
実に単純。実に豪快。
生半可な飛竜の外郭などものともしない破壊力を秘めたそれは、里長が持つ数多の武器の中でも頭一つ抜きんでている。
グルル
その破壊力を身をもって知ったリオレウスは甚大なるダメージを受けつつも既に冷静になっていた。
低く唸りつつも無暗に咆哮を上げたりはしない。
隙を見せることはすなわち大きな痛手を負うことである。
先の奇襲から学んだのは視線をそらさないこと。
意識を他に向ければそれは己の首を狩るということを知ったリオレウスがとった行動は、己も武器を使うことだった。
つまり、ブレス攻撃。
リオレウスが体内に持つ特殊な器官。
そこから吐き出されるエネルギーは口腔内を砲身と見立てて解き放たれる。
ゴウっ
空気が爆ぜる音が轟き、次いで灼熱の火球が狩人を襲う。
ちりちりと身が焦げる感覚を味わいながら狩人は転身回避。
飛び込んだ先は前方、二発目を放たんと顎を開けるリオレウスに抜刀したアーティラートを引きづりながら肉薄していく。
―――がりがりと地を削る感覚は、まるで自分が地中から獲物に迫る角竜になったかのような気分だ。
そして火球が再び放たれる直前、振り上げられた角の王はリオレウスの顎を粉砕し、再び地を舐めさせる。
もがくリオレウスが最期に目にしたのは、自身の頭部めがけて振り下ろされる分厚い刃だった。
―――まあ、ね。頭をつぶされたらそりゃあ死ぬよ。
第二話 了 第三話へ続く
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