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バカとテストと転校生

原作: その他 (原作:バカとテストと召喚獣) 作者: のんの
目次

第八問③

「一騎打ち?」


「ああ。Fクラスは試召戦争として、Aクラス代表に一騎打ちを申し込む」



 恒例の宣戦布告。

 今回は代表である雄二を筆頭に、俺、明久、姫路さん、木下にムッツリーニと首脳陣勢揃いでAクラスに
来ていた。

 ……毎回こうしていれば明久の制服は繕いだらけにならなかったのでは?



「うーん、何が狙いなの?」



 現在雄二と交渉のテーブルについているのは木下――の双子の姉である木下優子。木下を女の子にしたそ
のままの姿で、とても可愛い。……可愛いんだけど、人のことを平気で豚呼ばわりするような性格だと思う
と、非常に残念だ。

 ただ、さっきから木下姉が俺の方をちらちらと見ているような気がするのだが……気のせいか?



「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ」



 木下姉が訝しむのも無理はない。下位クラスに位置する俺たちが、一騎打ちで学年トップのAクラス代表
に挑むこと自体不自然なのだから。当然何か裏があると考えるだろう。



「面倒な試召戦争を手軽に終わらせることができるのはありがたいけどね、だからと言ってわざわざリスク
を犯す必要も無いかな」


「賢明だな」



 予想通りの返事。ここからが交渉の本番だ。



「ところで、Cクラスの連中との試召戦争はどうだった?」


「時間は取られたけど、それだけだったよ? 何の問題もなし」



 変装した木下の挑発に乗り、Aクラスに攻め込んだCクラス。その勝負は半日で決着がつき、Cクラスは
現在Dクラスと同等の設備で授業を受けている。



「Bクラスとやりあう気はあるか?」


「Bクラスって……、昨日きていたあの……」


「ああ、アレが代表をやっているクラスだ。幸い宣戦布告はまだされていないようだが、さてさて。どうな
ることやら」


「でも、BクラスはFクラスと戦争したから、三ヶ月の準備期間を取らない限り試召戦争はできないはずよ
ね?」



 試召戦争の決まりの一つ。準備期間。

 戦争に敗北したクラスは三ヶ月の間、自ら戦争を申し込むことはできない。これは負けたクラスがすぐさ
ま再戦を申し込んで、試召戦争が泥沼化しない為の取り決めだ。



「知っているだろ? 実績はどうあれ、対外的にはあの戦争は 『和平交渉にて終結』 ってなっているっ
てことは。規約にはなんの問題もない。……Bクラスだけじゃなくて、Dクラスもな」


「……それって脅迫?」


「人聞きが悪い。ただのお願いだよ」


「……まるで根本だな」


「誰がクズだコラァッ!」



 ……クズとは言ってないんだが。



「うーん……わかったよ。何を企んでいるのか知らないけど、代表が負けるなんてありえないからね。その
提案受けるよ」


「え? 本当?」



 意外とあっさりとした返事に驚き、会話に参加していない明久が声をあげる。



「だって、あんな格好した代表のいるクラスと戦争なんて嫌だもん……」



 根本に女子制服を着せたおかげで提案が通るなんて、これは思わぬ収穫だ。



「でも、こちらからも提案。代表同士の一騎打ちじゃなくて、そうだね、お互い五人ずつ選んで、一騎打ち
五回で三回勝った方の勝ち、っていうのなら受けてもいいよ」



「なるほど。こっちから姫路が出てくる可能性を警戒しているんだな?」


「うん。多分大丈夫だと思うけど、代表が調子悪くて姫路さんが絶好調だったら、問題次第では万が一があ
るかもしれないし」



 まるで姫路さんが軽く見られているかのような発言。

 だが、Aクラス代表は、それほどの実力を持っているってことなんだろう。



「安心してくれ。うちからは俺が出る」


「無理だよ。その言葉を鵜呑みには出来ないよ」



 これは競争じゃなくて戦争だからね、と付け足す。その通りだ。



「そうか。それなら、その条件を呑んでも良い」



 と、雄二の返事。

 確かに、この勝負負けるとは限らない。俺と姫路さんと雄二、その三人が勝てばいいのだから。



「ホント? 嬉しいな♪」


「けど、勝負する内容はこちらで決めさせて貰う。そのくらいのハンデはあってもいいはずだ」


「え? うーん……」



 またもや悩む木下姉。クラスを代表しての交渉だ。慎重になるのも当然だろう。



「……受けてもいい」


「ぅわっ!」



 驚いて声をあげる明久。煩い奴だ。



「……雄二の提案を受けてもいい」



 突然現れた、静かだけど、凛とした声。

 いつの間にかAクラス代表の霧島が近くに来ていた。

 写真で見るよりも、数段綺麗な容姿。こんな美人な幼なじみがいるなんて、雄二の野郎、いつか殺す。



「あれ? 代表。いいの?」


「……その代わり、条件がある」


「条件?」


「……うん」



 うなずいて、霧島は雄二を見た後に姫路さんを値踏みするかのようにじっくりと観察した。そして、顔を
雄二に向けて言い放つ。



「……負けた方は何でも一つ言うことを聞く」



 わお。これは姫路さんの貞操の危機か? やっべ、デジカメ買ってこないと。



「………… (カチャカチャ)」


「ムッツリーニ、まだ撮影の準備は早いだろ! ていうか、負ける気満々じゃねえか!」



 まずいな。このままだとこちらの士気が下がってしまう。さすがはAクラス代表。なんて恐ろしい作戦だ。



「じゃ、こうしよう? 勝負内容は五つの内三つはそっちに決めさせてあげる。二つはうちで決めさせて?」



 さすがに全てを譲ってはくれなかったけど、木下姉の妥協案が得られた。



「交渉成立だな」


「ゆ、雄二! 何を勝手に! まだ姫路さんが了承してないじゃないか!」


「心配すんな。絶対に姫路に迷惑はかけない」


「……どういう意味だ?」


「さあな。だが、それは確かだ」



 自信満々な雄二の台詞。勝利を確信しているってことだろうか?


「……勝負はいつ?」


「そうだな。十時からでいいか?」


「……わかった」


「よし。交渉は成立だ。一旦教室に戻るぞ」


「そうだね。皆にも報告しないといけないからね」


「あ、転校生君。ちょっと待って」



 交渉を終了し、Aクラスをあとにしようと廊下に出ると、木下姉に呼び止められた。

 無視するわけにもいかないので、雄二達に先に戻るよう告げ、その場にとどまる。



「なんだ? Aクラスに寝返れ、とかいう話なら、答えはNOだぞ?」


「違うよ。……ねえ、アタシのこと、覚えてない?」


「おう? …………。……えっ……と……すまん」


「そう。まあ仕方ないかな。転校生君、あの後すぐにどこかに行っちゃったし」



 少し悲しそうな表情をする木下姉。



「? 話が見えてこないんだが」


「ああ、アタシ、三週間前に変な人たちに絡まれてるところを転校生君に助けられたのよ」


「……。……そういえば、そんなこともあったような……」



 文月学園に転入するための手続きやら、新しく住む家や町の下見等をしに来たときに、そんなこともあっ
たような気がする。

 あの時は、自己中幼なじみと一悶着あったりしたから、そっちで頭が一杯で詳しく覚えていないけど。



「ああ、思い出した。あったな、そんなこと」


「そう? まあ、詳しい話は、試召戦争が終わった後にでもしましょう? お礼とかもしたいし」


「気にしなくてもいいぞ? たいしたことしてないし」


「気にするよ。それにアタシ、人に貸しってあんまり作りたくないのよ」


「そうか。なら、お言葉に甘えるよ」


「ええ。それじゃあ、試召戦争の準備もあるし、アタシは行くね。えと……」


「竜崎智也だ」


「ん。また後でね、竜崎君」



 木下姉がAクラス教室に入ったのを確認してから、Fクラスに戻る。

 俺達の試召戦争の終結は、すぐそこまで迫っていた。


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