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桃太郎物語

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: ハラミ
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### 07

 海戦が始まってから数十分経った頃にはやっと桃太郎も船の上でふらつかないようになってきていたものの、流石に気分が悪くなってきていた。必死に戦ったかいあってか、二隻の小早も制御を失ってようやく渦潮に巻き込まれている。本当に難しい海域だ。
 左側を担当していた雉はどうやら早々に鬼たちの船を渦潮に葬ってやったあと、後方からまだ追ってくる敵を飛び道具で相手をしているようだ。
「おいお前ら!いよいよ上陸だ、行くぞ!」
 いつの間にか目視ができる距離に鬼が島は迫ってきていた。不慣れな海の戦いもこれで終わり、ようやくこれで陸の戦いに移れる、そう思った時だ。
 突如風の音が聞こえて桃太郎のこめかみに軽い痛みが走る。何事かと思って触ってみると耳の下あたりを触ってみると赤いべっとりとした液体が溢れ出てきていた。
「弓兵部隊だ!伏せろ!」
 どうやら陸地から矢が届く範囲にまで近づいていたらしい、まるで降り始めの雨のように矢がどんどん飛んでくるもので一同は船に這いつくばるように身を隠す。
「んー、キリがないねぇ」
 しばらくその状態が続いたあと、しびれを切らしたのか、雉は懐から何か球状のものと火打石を取り出す。なんとか身をよじらせ、やっと火が付いたのか彼女は火が付いたと思われるその球状のものを敵陣に思いっきり投げつければ、投げつけたそれは凄まじい破裂音がしたと同時に、ひっきりなしに飛んできていた矢も突如やんだ。
「いまですよ猿さん!船を寄せましょう!」
「え?おっ、おう!!」
 戸惑いながらも猿の動きは早く、たくみに櫂を動かして素早く陸に寄せる。
「し、しまった!人間が乗り込んできたぞぉ!」
「うおお!!殺せぇ!」
 突然の不意打ちに浮き足立っていた鬼たちも、桃太郎たちが近づいてることに気がついたようで一気に十人ほどが襲いかかってきた。
「う、うわぁちょっと多くないですか敵!?」
 雉は弱音を吐きながらも、棒手裏剣を二発放って確実に鬼の二人を戦闘不能にしている。
「でもここは凌ぐしか……!」
 桃太郎もなんとか目の前の鬼と戦うが、いかんせん敵の力が強すぎて、まともに打ち合った一太刀目で桃太郎は後ろに吹き飛ばされる。
「くっ、いたたた……」
 倒れた時に腰を打ち付けて、やっと上半身を持ち上げたのだが、悪いことというのは続くもので桃太郎が倒れ込んだ場所はもうひとりの鬼の目の前だった。
 桃太郎が気がついたときは鬼がこん棒を振り上げた時で、これは今太刀を構えたところで受け止めきれない類の場面である。
「はははっ、死ね」
 避けることもできないと桃太郎が覚悟した時だ、突如目の前に覆いかぶさり、鬼の巨大なこん棒を巧みに受け止める影があった。
「んなっ!」
 鬼が力を入れようとするその影は巧みにその力を利用して太刀を引く、逆に鬼はつんのめるかのように前に倒れこみ、完全に態勢の崩れた鬼の一人に彼は太刀を突き立てる。
「てめっ!なめんなぁ!」
 なおも執拗に襲い掛かってくる最初に桃太郎と戦っていた鬼も襲って来るが、まるであしらうかのような剣技でこれも下すその影。
「あ、あんた……強いな。犬」
「だから、陸の上なら戦えるといっただろう?」
 その影の正体は誰でもない、さっき海の上で吐きまくっていたときとは別人のようになっていた犬吉である。
「こう見えてもそれがし、京の都で京八流の免許皆伝を持っている。京の犬吉といえば吉岡憲法随一の弟子として知られていてな」
 なるほど、道理で強いわけだ。

 その時だ、島の奥から野太い声で、
「なんじゃあ!騒がしいぞ!」
 っと、これまでの鬼たちとは明らかに格の違う声が聞こえてきたと思えば、突然これまで騒いでいたあたりの鬼たちが大人しくなる。
 間違いなくこれまでの鬼とは違う雰囲気にあたりの空気が張り詰める。
「お、おいこれって……」
「あぁ、間違いない」
 武士である犬はこの雰囲気を瞬時に感じ取っているようだ。
「この島の大将のお出ましのようだな……」

 桃太郎にも緊張が走る。
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