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桃太郎物語

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: ハラミ
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「ところでそちらの娘子と若武者は……」
 猿(仮称)とにらみ合うだけにらみ合うと、犬(仮称)は今度はこちらに注意を向けたようだ。権威は落ちているものの一応幕府の所司代ということで桃太郎と雉は緊張する。
「お、俺は鬼退治を志す者で、この島の出身の桃太郎だ。こちらは、途中で仲間となった雉」
「志を共にするもの……、というわけか。良き武者とお見受け致した。ここはひとつ、それがしと心一つに、無法を働く鬼どもを一網打尽にしてやりましょうぞ!」
 何はともあれ犬は桃太郎のことが気に入ったらしく、桃太郎の手を取って固い握手を交わす、がもう一方の手を今度は猿が握る。
「へっ!落ちぶれて俺たちすら取り締まれない幕府なんかに鬼退治なんか任せちゃおけねぇよ!なぁー桃太郎とやら、海の上で一番頼りになるのは俺ら海賊衆だぜ?乗れる船選べて泥船選ぶ奴ァいねぇよな?」
「貴様……、言わせておけば公方様まで愚弄しおって」
「なんだぁ?幕府の犬よ、やんのか?」
 収まったと思ったところでまたしても険悪な雰囲気になり始めた二人。
「ま、まぁまぁ二人とも!……そうだ!きっと二人とも甘いものが足りないからイライラしてんですよ、ほら!これでも食べて!」
 そう言って雉が差し出したのは、いつ桃太郎からとったのか、二つ残っていた最後のきびだんごだ。猿と犬は、雉からきびだんごを受け取ると、訝しながらも食べ始める。
「こ、これは……!」
「う、うめぇ!力が沸き上がってくるみたいだぜ!」
 二人ともなんとか、お互いに対する嫌悪感を忘れてくれたようで、雉にしては珍しい気遣いに桃太郎は心の中で感謝する。

 元気になるとお互い機嫌が良くなったようで少し表情が穏やかになった。
「とりあえず船がないんだっけか?なら俺様の小早舟を使えよ!」
 小早舟とは、水軍が用いる舟の一種である。長さは三丈半(およそ10m)と小さめだが、機動力と速度に優れ、哨戒船や偵察船と活躍の幅の広い船だ。
「これが海賊衆の使っている船か……」
 無論小さいとは言え、海を渡るには申し分ない。それに瀬戸内の海を知る海賊衆もいるとあらば「渡りに船」とはまさにこのこと。
「んで、鬼を退治しに行くのはいいが、いつ行くんだい?なんなら今からでも帆を上げられるが」
 猿の質問に犬が答える。
「やはりここは善は急げ、まさか敵も昨日襲った島からこんなに早く追っ手が来るとは思うまい。すぐに出立すべきであろう!」
「ん、それも一理ある……。よし、今すぐ船を出して酉の方角へ向かう。鬼たちは乱取りが成功したあとで油断しているはずだ、そこを一気に叩けば俺たち人間でも、勝てる!」
「おぉー!」

「ほほぉ、さすがは我が息子……。人間の手下を三人も集めるとはな」
 鬼退治に向け着々と準備が整う中、その桃太郎を追う二人組がいることに桃太郎はまだ気づいていない。
「私は気に入らないな、人間の手下など……。人間ってのは非力なくせに悪知恵だけは働く卑怯者で……」
「まぁまぁいいじゃないか。あの鬼どもを退治してくれるというなら働かせてやればいい」

 瀬戸内の夕暮れどきは島の間に太陽が沈む様が美しい。その夕暮れを背景に二人は凶悪な笑いを浮かべるのだ。
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