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桃太郎物語

ジャンル: ロー・ファンタジー 作者: ハラミ
目次

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「こ、これは……」
 噂というのは大抵紆余曲折して誇張されるものであるが、この鬼の襲来に関してはそうではなかった。聞いていたよりもずっとひどいのだ。
 建物という建物はすべて破壊され、あたりに奪われたものが汚く散らかっている。人の姿はもはや見えず、見えるのは廃墟廃墟廃墟……。
「信じられない、どのような力を加えれば長屋がこんな壊れ方をするのだ……?」
 決して楽観視していたわけではないが、これから戦う敵の強さというのを目の当たりにし、桃太郎は武者震いをする。伊達に鬼と呼ばれているわけではないようだ。
「桃!桃さん!」
 ここで沿岸についてから姿の見えなかった雉が戻ってきた。傍らにはかなり年老いた老婆を連れている。
「雉、探したぞ」
「いやいや~、面目ない!そのお詫びじゃないんだけれど、鶴婆が、この島を出て行く鬼の姿を見たらしい!もしかしたら手がかりになるかもしれないって思ってさ、連れてきた!」
 どうやら雉の隣にいる老婆は鶴、というらしい。この老婆は運良く鬼の乱暴から逃れ、集落から脱出した。その途中で去っていく鬼の船を見たのだという。
「そうか、鶴さんと言われたか。去っていく鬼はどちらの方角へ向かったか、わかられるか?」
「えぇえぇ、若いのはわしを逃がして、自分は捕まって行ってしもて……」
 どうやらこの鶴婆は耳が遠いようだ。桃太郎は少し困った顔をして、もう一度大きい声で鶴婆に尋ねる。
「鬼はどちらの方角へいったか、分かられるか!?」
「鬼ぃ?あぁ、鬼のぉ。確かに見ましたわ、やつらは船に乗り、酉の方角へまっすぐ行きおりましたわい。おそらくあの方角にやつらの拠点があるのじゃろうて」
「酉の方角、か……」
 これで行き先はわかった、が問題がまだある。それは鬼の拠点へと行く方法だ。このあたりは確かに漁師町ではあるものの、追跡をさせないためであろうが鬼たちは去り際に漁師らの舟をすべて破壊しつくして行っている。そのせいで出せる船はない。
「どうしたものか……」
 桃太郎が考え込んだ時、雉がまたしても「桃ー、桃さんー!」と言いながら走ってきた。っていうかいつの間にかまたどこかに行っていたらしい。
「まったく、また……」
「そんなことより桃!こっちにも誰かいるみたいだよ!」
「そうか、すぐに行こう。鶴婆、お話感謝する!」
「あぁ、くれぐも気をつけるんだよ」
 とりあえず鶴婆を座らせ、桃太郎は雉に連れられて海辺へと走る。そこにいたのは男が一人、女が一人だった。が、どうも様子がおかしい。
「だーかーらー、何度言ったらわかんだ!?鬼ヶ島へは俺が行くんだよ!」
「否!鬼ヶ島へ行くのはそれがしにござる、邪魔立ては無用!」
「うるせぇ、この幕府の犬が!」
「ふっ、海猿風情がなにか申したようじゃの」

 なんだか険悪な雰囲気で火花を散らす男女、その中心に雉が空気を読まずに
「あー、お二人さんちょっといいかなぁ」
 などと入っていく。それだけならまだしも……
「えーっとー、猿さんと犬さんっていうのかな?」
 などと言い出すものだからふたりの眉間に青筋が立つ。
「黙れ!おぬし、それがしが幕府より派遣された奉行と知っての愚弄か!あぁ!?」
 どうやらそう怒鳴っている方の男、このあたりにしては小奇麗な格好だと思っていたら幕府の役人だという。
「それがしは、公方様より遣わされた京都所司代の細川犬吉と申す者。今回の鬼の件を重く見られた公方様はありがたくもそれがしを派遣し、鬼どもの狼藉を鎮圧するよう命じられたのだ。ありがたく感謝し、協力せよ!」
「へっ、何が狼藉の鎮圧だよ!鬼が荒らし回ったあとにやってきて威張り散らすだけなら世話ねぇよな」
「ま、まぁまぁ……。幕府の方が来てくださったのはなんとも心強いじゃないですか!ねぇ!?」
 雉はなんとかその場を抑えようとするが、二人は以前にらみ合ったままだ。
「んで……、そちらの女性の方は?」
「あぁ?俺かい?」
 話題を変える意味でしなやかな体の線を強調させる潮でいたんだ服を着ている方の女性に桃太郎は尋ねてみる。
「俺は、このあたりの海賊衆の佐瑠海だ。この島が鬼に襲われたってぇ聞いてな!んで、頭領の命で駆けつけてきたんだ」
 犬吉とさるみ。さっき雉が言っていた犬と猿というのもあながち間違いじゃないんじゃないか……?
 という喉まできていた疑問を桃太郎は、なんとか押さえ込むのであった。
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