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HE★VENSのお姫様は病弱なボーカル兼作曲家!

原作: その他 (原作:うたの☆プリンスさま♪) 作者: 紫苑
目次

僕たちと彼女の出会い(ナギside)

「ねぇ、聞いた?satellite解散かもしれないんだって」
HE★VENSの新曲PVの撮影が機材の不調で中断し、楽屋待機を余儀なくされてからおよそ1時間。僕が雑談の話題を提供するつもりで言った一言は思った以上に反響を受けた。
「そうなのか!?」
瑛一が身を乗り出してくる。無言だが、綺羅も驚いているのが分かった。
「そんなに信用できる情報ではないけどね。事務所のスタッフの人たちが噂してた。」
「・・・今は、ありえない。」
綺羅が最低限の言葉でそれに反対してくる。
「そうだよねー。人気あるし、今解散するメリットなんて一つもないように思えるんだけど。」
satelliteはレイジングエンターテインメント所属の超売れっ子バンドだ。作曲も担当している才能にあふれたメンバー最年少のボーカルReinaを中心としたバンドで、切ない系のいわゆる『泣き歌』で人気を集めている。そんなバンドが解散するなんて、信じられなかった。
「解散したらあのボーカルはどうなる?フリーになるのか??」
瑛一がさらに距離を縮めてくる。
「そんなの僕が知るわけないでしょー?そんなに知りたいなら直接聞いてよね。」
「HE★VENSにsatelliteのボーカルが曲を作る・・・イイッ!!」
「ちょっと瑛一、僕の話聞いてた?まだ解散が決まったわけじゃないし、解散したとしてもReinaがフリーになるとは限らないからね?」
「・・・瑛一はReinaのファン・・・仕方ない・・・」
「ファンとはなんか違うような気がするけど・・・」
「俺はあのボーカルを手に入れたいだけだ。あの曲には力がある。」
確かにReinaが作る曲はどれも素晴らしい出来で、業界でもあれほどの才能を持つ作曲家にはなかなか巡り合うことができない。
「瑛一は本当にReinaのこと好きだよね~」
「・・・そういうナギも、」
「それを言うなら綺羅だって好きじゃん」
「醜い争いをするな。お互い様だろう?」
そう、瑛一の言う通り僕たちHE★VENSはみんな彼女の才能に惚れている。

僕たちが初めてReinaの歌を聴いたのは、僕たちがデビューして軌道に乗ったころにあった、レイジングエンターテインメント主催の合同ライブでのことだった。satelliteも僕たちと同時期にデビューをしていて、既にそのころには期待の新人バンドとして有名になりつつあった。デビュー時期が近いこともあって、僕たちとsatelliteは出演順が近く、僕たちがステージから裏に戻ってくるタイミングでsatelliteは最終確認を行っていた。衝撃だったのは、Reinaが苦しそうに顔をゆがめていたこと。ステージから漏れた光に一瞬だけ照らされたその顔は血の気が引いていて真っ青だった。どう考えても今からステージで歌えるような状況でないことは明白で、satelliteは今回出演できないのかと思っていた矢先、satelliteにスタンバイがかかった。
「おい、その状態でステージに出すのか!?」
それに対して待ったをかけたのは瑛一だった。社長の息子からの発言だからなのか、スタッフに緊張がはしった。そんな状況の中、声を上げたのは渦中の人であるReina本人だった。
「大丈夫です。きちんといつも通りのパフォーマンスができます。」
フラフラと立ち上がり、瑛一の前まで来て、彼女はそう言った。
「そんな状態で歌えるわけがないだろう?」
瑛一は珍しく子供に窘めるように優しく言った。確かにReinaは僕の一つ上。子供と言っても差し支えない年齢だった。
「歌えます。体調を言い訳に下手なパフォーマンスをする気もありません。・・・行かせてください。私には、歌うことしかないんです。」
彼女の目は真剣だった。
「・・・わかった。」
結局負けたのは彼女の目に耐えられなかった瑛一だった。
「ありがとうございます。・・・見ててくださいね、私たちのパフォーマンス!」
そう言った彼女に先程までの苦しそうな表情は1ミリもなかった。そして、そのまま彼女はスタンバイの場所に走っていった。

結論から言うと、satelliteのパフォーマンスは圧巻だった。特に彼女のボーカルは時に甘く、時に切なく、様々な色を魅せて観客を魅了した。おそらく観客は誰一人彼女がステージ裏で苦しそうにしていたと気付かなかっただろう。ステージから戻ってきたReinaの体調は予想通りというべきか、ステージ裏に戻ってきた途端に立っていられない程の状態まで悪化していて、マネージャーに背負われながら楽屋に戻っていった。
「・・・あれだ。」
その一部始終を見ていた瑛一が呟いた。
「あのボーカルがほしい。そうすればさらに強くなれる。」
それに僕は反射的に頷いた。それは綺羅も一緒だったようで。
「・・・歌も、曲も・・・素敵だ。」
彼女の才能、そしてあの意志の強さは僕たちを魅了して離さなかった。

そんな衝撃的なライブから数日後、僕たちの楽屋をReina本人が訪ねてきた。
「先日はご心配をおかけしてすみません。これ、お菓子です。皆さんで食べてください。」
そう言ってお洒落な紙袋を渡してきた。
「ありがと~ナギたちに何か用事?長くなるようだったらお茶でもどう??」
「え?いや、でも・・・」
「いいからっ!ね?」
「じゃあ、少しなら・・・」
僕が持ち前の可愛さでReinaの腕を引いて楽屋に入れる。綺羅が用意してくれた紅茶を前にして黙ったままの彼女に最初に声をかけたのは瑛一だった。
「体調はもう大丈夫なのか?」
それに対して彼女は少しビクッとしてから答えた。
「は、はい。今はだいぶ落ち着いています。ありがとうございます。」
その返答に僕は少し引っ掛かりを覚えた。
「落ち着いている、ってことは完治したわけじゃないの?」
その問いに彼女は黙り込んでしまった。それからこう言った。
「今から話すこと、誰にも言わないと約束してくれますか?」
それに僕も瑛一も綺羅も大きく頷いた。それを確認した彼女は意を決したように口を開いた。
「私、病気持ちなんです。」
それは僕たちに衝撃をあたえた。
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