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HE★VENSのお姫様は病弱なボーカル兼作曲家!

原作: その他 (原作:うたの☆プリンスさま♪) 作者: 紫苑
目次

病気が奪っていったもの (玲菜side)

真っ白な部屋。消毒液のにおい。
ここは私が生きていくうえで欠かせない場所。小さい頃から慣れてしまったこの場所で、私は絶望的な事実を告げられた。
「落ち着いて聞いてね。・・・玲菜ちゃんの身体はもう限界を超えているわ。今すぐに歌うのをやめないと死んでしまうわ。」
小さい頃から私を見てくれている主治医の先生が何を言っているのか分からなかった。いや、本当は薄々気付いていたけれど、受け入れたくなかった。
「・・・・・・先生、私には歌しか・・・歌しかないんです。」
たっぷり数秒の沈黙を経て絞り出した声は、かすれていた。
「分かっているわ。それでも、私には玲菜ちゃんを生かす義務があるの。」
そう言って悲しそうな顔をする先生に、私はそれ以上何も言えなかった。

病院からどうやって事務所に戻ってきたのかはよく覚えていない。事務所の会議室で、次に何をしなければならないのかを考える。とりあえずメンバーとマネージャーに説明して、社長に話をしに行って、どうするのか決めなくては。どうせ明日になれば先生の方から社長に報告が上がってしまう。そのまえに、説明しに行った方が面倒ごとにならずにすむ。自分にとって生命線といってもいいものを失ったのに、どこか他人事のように思考回路が回っていく。そんな自分が少し、怖くなった。

1時間後、会議室にはsatelliteのメンバー全員が揃っていた。会議室には張り詰めた沈黙が満ちていた。私はここにきて、先程言われた事実をメンバーに告げることに対して恐怖を覚えた。satelliteはちょうど人気が出始めたところで。ここから、なのに。
「・・・玲菜、」
その沈黙を破ってくれたのはsatellite最年長のベース担当でリーダー。
「言いたいことがあるんだろう?」
その声に促されて私は声を絞り出す。
「・・・もう、私の身体は・・・歌うことに耐えられない」
私の言葉にメンバーが息をのむ。
「ごめんなさい・・・私はもう、satelliteにはいられない」
再び会議室に沈黙が立ち込める。それは先程の張り詰めたものとは違って、絶望に満ちたものだった。
「私は、satelliteを脱退する」
「いや、それなら解散しよう。」
私の言葉にリーダーは即座に反対してきた。
「私の個人的理由で、satelliteを終わりにする必要はない。みんなの実力なら、新しいボーカルを立ててもやっていける。」
私はメンバーの実力を信じていた。私の曲をイメージ通り、いやそれ以上に表現できるのはメンバーの実力があってこそだと分かっていた。
「ボーカルReinaがいないなら、それはもうsatelliteじゃない。たとえ、玲菜がこれまで通り曲を作ってくれるとしても。」
リーダーの言葉にメンバーは頷く。私の個人的理由でメンバーからsatelliteを奪ってしまうのに、私はその言葉が嬉しいと思ってしまった。

結果的に、satelliteは解散することになった。私たちがsatelliteの解散を決定し、社長に話をするために社長室を訪れたときには既に社長は先生から私の病状についての報告が上がっていた。実力主義で容赦なく切り捨てる姿勢から、怖がられているが、この人が本当はとても優しい人間であることを私は知っていた。その証拠に社長はいつもなら吸っている葉巻を吸ってはいなかった。私は、それが私の身体を思ってのことだと分かっていた。
「そうするだろうと思っていた。」
私たちの決断は社長にはお見通しだったようで、社長は私たちの解散に動じるような素振りは見せなかった。
「解散ライブをやるつもりはあるのか」
社長からの問いに私たちは間髪入れずに頷いた。このことについては先程満場一致で決まっていた。
「解散ライブは、私たちが・・・いえ、私がファンにできる唯一の償いです。もう既にこの身体が限界を超えているとしても、最後の一音まで手を抜くつもりはありません。それが、作曲家として、そしてボーカルReinaとしてできる全てです。」
私の言葉に社長は頷いた。
「いいだろう。単独ドームを用意してやる。」
その言葉に私たちは驚いた。単独ドーム・・・単独でのドームでのライブは私たちが目指してきたものだった。
「それが、お前たちsatelliteの価値だ。」
実力主義のレイジングエンターテインメントでは、実力、すなわち人気がないと解散ライブすらやらせてもらえないこともある。その中で、この言葉は社長にとって最大限の誉め言葉だった。
「「「「ありがとうございます!!」」」」
「とりあえず会見だな。明後日の午後にホテルの会議室をおさえた。それまでにどのようなことを言うのか考えておけ。」
社長の言葉に私たちは頷いた。

社長への報告がおわり、メンバーと別れてから私は事務所の談話室に戻ってきていた。談話室には誰もいなくて、私は一人で談話室のソファーの上で体育座りをしていた。特に何をするでもなくボーっとしている私の頭の中を流れるのは今日一日の出来事。病気はいつも私から大事なものを奪っていく。
 健康体
 両親
 歌
 居場所
 生きている、意味
浮かんできた思考を振り切る。一番辛いのは私ではない。satelliteのメンバーからsatelliteという居場所を奪った。私は加害者だ。

なんで私ばっかりこんな思いをしなきゃいけないのだろう

そんなこと、思ってはいけない。
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