第2話
夜が明けて朝になっても、浩平は目の当たりにした殺人事件を何一つ理解することは出来なかった。事件を目撃した後、どうやって家に帰ったのかすら全く覚えていない。ただあるのは、信じられなかったが殺されたはずの人間が昆虫の蛹らしきモノから出てきたという異常現象の記憶だけ。
眠ったのか眠れなかったのか、それすらわからなかったが、とりあえず部屋の窓から朝陽が差し込むのを見て、浩平は朝なのだと思った。うっすら宙に浮いているような感覚の中、もしかしたらこれは全部夢なのではないかと浩平は考えるようになっていた。
もちろん今日も交番に出勤しなくてはならない。しかも昨日とは違い、今日は1日勤務と言われている。交番へ向かう足の感覚も怪しく、やはり何処か宙に浮いているような感覚のまま浩平は自分が勤務する交番に到着した。
「鈴木?おーい、どうした?」
「いや、昨日あんまり眠れなかったみたいなんです。」
「昨日の勢いはどうした?巡査長が今日は非番だから俺とおまえの二人なんだからしっかりしてくれよ。」
「あ・・・はい。がんばります。」
とぽとぽと交番の奥へ行き、制服に着替えた浩平はその場にあった椅子に座り込んでしまった。まだ事件の事が頭から離れず、体中の震えが止まらない。昨日のことが頭をずっとよぎっている。もしかしらた本当にあれは夢だったのではないか。それを確認するには、もう一度あの公園に行くしかない。そう決意した浩平は、先輩巡査に断りを入れ予定の時間よりかなり早いが、自転車に跨がり巡回パトロールへと向かった。
昨日巡査長と一緒に回ったパトロールのルートを走りながら、次第にあの公園が近づいてくる。浩平は、あと20mというところで自転車を止め、公園の入り口をじっと見つめている。
(あの公園だ。あのベンチに血痕があったら俺はどうしたら良いんだ?そもそも、死体がまだ放置されているとかそんなことあるのか?先輩は何も言っていなかった。あんな事件が本当にあったなら何か情報があっても可笑しくない。先輩から昨日の事件について話を聞いても可笑しくない。でもそんなことは一言も言ってなかった。何もなかった。
どうする。もし本当にあの事件が起こっていたとして、俺は目撃者。いや、警察官として事件解決に何か役立てるかもしれない。だが、ただ見ていることしか出来なかった俺に何が出来る・・・)
悶々と考えを廻らしてる浩平は、ふと昨日巡査長から聞いた噂を思いだした。
(死んだはずの人間が生きている・・・数日するとその人間がまた死ぬ?死んだあとはどうなるんだ?人間が2回も死ぬということなのか?本当にそんなことが怒っているのか?
昨日の事件で見る限り、もし本当に2回目も死んでいるとしたらあのバケモノ自体はなんだんだ。しかし、あのバケモノは蛹から出てきただけで死体にはなっていない。いったいどういうことだ?)
恐怖で足を震わせながら浩平は、一歩、また一歩と公園にゆっくり近づいていった。自転車を押しながら、浩平は公園の出入り口の前で立ち止まったが公園に視線を向けられないでいる。
(このまま公園のベンチを見れば、昨日のことが夢だったかどうかがわかる。しかし、血痕や殺人事件の痕跡が残っていたら俺はどうすればいいんだ・・・)
浩平は、自転車を脇に小一時間は公園の出入り口に立ち止まったまま固まっていた。意を決し、自分が警察官であることと、何かしらの事件だったならば自分も捜査の手助けが出来るかもしれない。そんな正義感を胸に、昨日の事件が起こったと思われる公園のベンチを凝視した。
しかし、公園は平和そのもの。小さな子供すら寄りつかない暑い日差しを浴びる公園には、人っ子一人いなかった。もちろん木陰にぽつんと置かれているベンチに、死体どころか血痕の一つもなかった。
違和感だらけの殺人事件が怒っていたはずの現場に少しずつ近づき、浩平はベンチやベンチの下、周りなど付近のありとあらゆる場所を徹底的にチェックしたが血痕の一滴すら発見することは出来なかった。なんとなく安心した気持ちになり落ちついた浩平は、昨日木陰にある灰皿の近くでライターをなくしていることを思い出した。自転車をベンチの脇に置き、木々に囲まれた灰皿を奥の方を見つけると、ライターがないか辺りを改めて探し出した。
――カツンッ
浩平は、自分の足下で何かに躓いた。どうやら昨日なくしたライターを、自分の足で蹴っ飛ばしてしまったようだ。数m先に飛んでいったライターを目視しながら、なんだこんな所にあったのかとライターを拾った浩平は、ライターが落ちている先の大きな草に囲まれた場所になにか落ちていることに気が付いた。
浩平は、きっと他にも誰かライターをとしてしまったのではないかと思い、大きな草の端にある小さな何かを拾い上げた。
「う、うわーーーーーーーー!!!!!」
とっさのことで手に持った物を離してしまったが、浩平がライターと思って持ち上げたそれは人間の指で、そこから大きな草の影から人間の死体が引きずられるように出てきた。そして、その死体は大きな草に隠されるように、無造作に転がっていた。
浩平は驚いた勢いで後ろへ飛び跳ね、木陰に立てられていた灰皿を倒してしまい、辺りが水に濡れたタバコのに臭いで充満している。
「警察を呼ばなきゃ!警察に電話・・・あ!俺が警察官だ!こういう場合はどうしたらいいんだ!何をすれば良いんだ・・・」
昨日目の当たりにした殺人事件を思い出しパニックになっている浩平の背後から、見知らぬ人間が声を掛けると、浩平はさらに怯えて大声を上げてしまった。
「うわーーーーーー!!!わーーーーー!!!た、助けてください!!俺は何も見てない!だから殺さないでください!!」
「ちょっと君。どうしたんだ?」
「え、いや・・・俺を食べても美味しくないし、殺してもなんにもならないから!!だからだから・・・」
「ちょっと落ち着きなさい。君、あの死体を見てしまったんだね。」
浩平はパニックを起こしその場で小さくうずくまっている。しかし、浩平に声を掛けてきた男性は優しく浩平の肩を叩き、状況整理と浩平の立場を察するように辺りを見回している。
「君が見た死体は、もしかしたら昨日の事件と関係があるのかい?もしそうだとしたら、私に話を聞かせてくれないだろうか。私は本庁の刑事で、ここ数年密かに起こり続けている殺人事件の捜査を担当している特務0983部隊所属の金村という者だ。君と同じ警察官だよ。まずは落ち着いて私の話を聞いてくれるかい?落ち着いたら君の話を聞かせてくれないか?」
男性の優しい話し方に正気を取り戻した浩平がゆっくりと顔を上げると、そこには少しくたびれたスーツを着て無造作な無精ひげをはやした50代くらいの男性が膝を折り自分に寄り添うように屈んでいた。
「俺は、俺は見てしまったんです。人間が昆虫みたいになって、その人間が座っている人間を食べる瞬間を。しかも、その喰った方が喰われた人間の姿になって現れて・・・俺は何が何だかわからなくなって。誰にもこんなこと言えないし・・・俺はどうしたらいいのか・・・」
浩平はその場で泣き崩れるように恐怖で怯えている。そんな浩平の背中を、金村と名乗った男性は優しくさすると浩平は落ち着いていった。
浩平は金村に言われるまま、警察庁の最上階へと連れて行かれた。
眠ったのか眠れなかったのか、それすらわからなかったが、とりあえず部屋の窓から朝陽が差し込むのを見て、浩平は朝なのだと思った。うっすら宙に浮いているような感覚の中、もしかしたらこれは全部夢なのではないかと浩平は考えるようになっていた。
もちろん今日も交番に出勤しなくてはならない。しかも昨日とは違い、今日は1日勤務と言われている。交番へ向かう足の感覚も怪しく、やはり何処か宙に浮いているような感覚のまま浩平は自分が勤務する交番に到着した。
「鈴木?おーい、どうした?」
「いや、昨日あんまり眠れなかったみたいなんです。」
「昨日の勢いはどうした?巡査長が今日は非番だから俺とおまえの二人なんだからしっかりしてくれよ。」
「あ・・・はい。がんばります。」
とぽとぽと交番の奥へ行き、制服に着替えた浩平はその場にあった椅子に座り込んでしまった。まだ事件の事が頭から離れず、体中の震えが止まらない。昨日のことが頭をずっとよぎっている。もしかしらた本当にあれは夢だったのではないか。それを確認するには、もう一度あの公園に行くしかない。そう決意した浩平は、先輩巡査に断りを入れ予定の時間よりかなり早いが、自転車に跨がり巡回パトロールへと向かった。
昨日巡査長と一緒に回ったパトロールのルートを走りながら、次第にあの公園が近づいてくる。浩平は、あと20mというところで自転車を止め、公園の入り口をじっと見つめている。
(あの公園だ。あのベンチに血痕があったら俺はどうしたら良いんだ?そもそも、死体がまだ放置されているとかそんなことあるのか?先輩は何も言っていなかった。あんな事件が本当にあったなら何か情報があっても可笑しくない。先輩から昨日の事件について話を聞いても可笑しくない。でもそんなことは一言も言ってなかった。何もなかった。
どうする。もし本当にあの事件が起こっていたとして、俺は目撃者。いや、警察官として事件解決に何か役立てるかもしれない。だが、ただ見ていることしか出来なかった俺に何が出来る・・・)
悶々と考えを廻らしてる浩平は、ふと昨日巡査長から聞いた噂を思いだした。
(死んだはずの人間が生きている・・・数日するとその人間がまた死ぬ?死んだあとはどうなるんだ?人間が2回も死ぬということなのか?本当にそんなことが怒っているのか?
昨日の事件で見る限り、もし本当に2回目も死んでいるとしたらあのバケモノ自体はなんだんだ。しかし、あのバケモノは蛹から出てきただけで死体にはなっていない。いったいどういうことだ?)
恐怖で足を震わせながら浩平は、一歩、また一歩と公園にゆっくり近づいていった。自転車を押しながら、浩平は公園の出入り口の前で立ち止まったが公園に視線を向けられないでいる。
(このまま公園のベンチを見れば、昨日のことが夢だったかどうかがわかる。しかし、血痕や殺人事件の痕跡が残っていたら俺はどうすればいいんだ・・・)
浩平は、自転車を脇に小一時間は公園の出入り口に立ち止まったまま固まっていた。意を決し、自分が警察官であることと、何かしらの事件だったならば自分も捜査の手助けが出来るかもしれない。そんな正義感を胸に、昨日の事件が起こったと思われる公園のベンチを凝視した。
しかし、公園は平和そのもの。小さな子供すら寄りつかない暑い日差しを浴びる公園には、人っ子一人いなかった。もちろん木陰にぽつんと置かれているベンチに、死体どころか血痕の一つもなかった。
違和感だらけの殺人事件が怒っていたはずの現場に少しずつ近づき、浩平はベンチやベンチの下、周りなど付近のありとあらゆる場所を徹底的にチェックしたが血痕の一滴すら発見することは出来なかった。なんとなく安心した気持ちになり落ちついた浩平は、昨日木陰にある灰皿の近くでライターをなくしていることを思い出した。自転車をベンチの脇に置き、木々に囲まれた灰皿を奥の方を見つけると、ライターがないか辺りを改めて探し出した。
――カツンッ
浩平は、自分の足下で何かに躓いた。どうやら昨日なくしたライターを、自分の足で蹴っ飛ばしてしまったようだ。数m先に飛んでいったライターを目視しながら、なんだこんな所にあったのかとライターを拾った浩平は、ライターが落ちている先の大きな草に囲まれた場所になにか落ちていることに気が付いた。
浩平は、きっと他にも誰かライターをとしてしまったのではないかと思い、大きな草の端にある小さな何かを拾い上げた。
「う、うわーーーーーーーー!!!!!」
とっさのことで手に持った物を離してしまったが、浩平がライターと思って持ち上げたそれは人間の指で、そこから大きな草の影から人間の死体が引きずられるように出てきた。そして、その死体は大きな草に隠されるように、無造作に転がっていた。
浩平は驚いた勢いで後ろへ飛び跳ね、木陰に立てられていた灰皿を倒してしまい、辺りが水に濡れたタバコのに臭いで充満している。
「警察を呼ばなきゃ!警察に電話・・・あ!俺が警察官だ!こういう場合はどうしたらいいんだ!何をすれば良いんだ・・・」
昨日目の当たりにした殺人事件を思い出しパニックになっている浩平の背後から、見知らぬ人間が声を掛けると、浩平はさらに怯えて大声を上げてしまった。
「うわーーーーーー!!!わーーーーー!!!た、助けてください!!俺は何も見てない!だから殺さないでください!!」
「ちょっと君。どうしたんだ?」
「え、いや・・・俺を食べても美味しくないし、殺してもなんにもならないから!!だからだから・・・」
「ちょっと落ち着きなさい。君、あの死体を見てしまったんだね。」
浩平はパニックを起こしその場で小さくうずくまっている。しかし、浩平に声を掛けてきた男性は優しく浩平の肩を叩き、状況整理と浩平の立場を察するように辺りを見回している。
「君が見た死体は、もしかしたら昨日の事件と関係があるのかい?もしそうだとしたら、私に話を聞かせてくれないだろうか。私は本庁の刑事で、ここ数年密かに起こり続けている殺人事件の捜査を担当している特務0983部隊所属の金村という者だ。君と同じ警察官だよ。まずは落ち着いて私の話を聞いてくれるかい?落ち着いたら君の話を聞かせてくれないか?」
男性の優しい話し方に正気を取り戻した浩平がゆっくりと顔を上げると、そこには少しくたびれたスーツを着て無造作な無精ひげをはやした50代くらいの男性が膝を折り自分に寄り添うように屈んでいた。
「俺は、俺は見てしまったんです。人間が昆虫みたいになって、その人間が座っている人間を食べる瞬間を。しかも、その喰った方が喰われた人間の姿になって現れて・・・俺は何が何だかわからなくなって。誰にもこんなこと言えないし・・・俺はどうしたらいいのか・・・」
浩平はその場で泣き崩れるように恐怖で怯えている。そんな浩平の背中を、金村と名乗った男性は優しくさすると浩平は落ち着いていった。
浩平は金村に言われるまま、警察庁の最上階へと連れて行かれた。
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