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『あなたになる私の犯行』

ジャンル: ホラー 作者: 渚
目次

第1話

日本のT県M市は、この街は何処にでもある所謂ごく普通の街である。

実際世界から見ればほんの小さな街だが、この街で起こっている殺人事件に世界中がザワついている。殺人事件と言っても、ニュースで流れるようなよくある殺人事件ではない。犯人はもちろん、犯行の動機や凶器が見つかっていないという所まではよくある殺人事件だが、決定的に違う点は被害者が殺された後も目撃されているということだ。

犯人不明はしょうがないとしても、被害者となった人間が死体発見の翌日でもごく普通に生活をしているという怪奇現象に、捜査している側も困惑の色を隠せない。この情報は内容が内容だけに、世間には絶対に出回らないようになっている。しかし、事件性の異常さから世界中の研究者や捜査関係者から注目を集めている。

犯行はこうだ。

発見された被害者の死体の共通点は、特定の部位が鋭利な刃物で切断されたようになくなっている。その切断面はキレイすぎる程の切り口で、元々そこには何もなかったのではないかと見間違えるほどキレイにスッキリなくなっている。切断されている特定の部位は毎回違うが、唯一同じ箇所としてなくなっている部位は頭部である。遺体発見時、物盗りのような痕跡がなく、持ち物から遺体の名前などがすぐわかってしますということも事件の謎を深めている原因の一つである。死体発見から1週間後、被害者となった人物が再び突如姿を消す。そんな非日常の事件が知られることなく3年も続いた・・・



鈴木浩平。俺は、今日から警察官になります。

新米巡査としてT県M市のとある街交番に配属となった鈴木浩平は、夢だった警察官になれた喜びと期待に胸を膨らまし、初日の業務にあたっていた。

交番勤務の警察官といっても、実際は事務仕事が多く街の平和を守る正義のヒーローという印象からは遠く離れている。しかし、そんな現実もこれからの頑張りで少しでも市民の役にたてるようにと、浩平は意気込んでいた。

「おい新人の鈴木。ちょっとパトロールの巡回ルートを教えるから一緒に来い。」

「はい!わかりました。すぐに準備します!」

「そんなに意気込まなくても大丈夫だよ。実際は自転車で街をグルッと回るだけの簡単なお仕事だから気楽にいこうや。」

「はい!!」

浩平は、同じ交番に勤務する巡査長と一緒に自転車でパトロールに向かった。パトロールといっても、街をぐるりと何周か回るだけだった。時には数少ない不審者がいないかや喧嘩などの事件が起きてないか、もし起こりそうなら声を掛けて事前に解決するということもあるが、実際その場に居合わせる可能性はごく僅かで本当に少ない。

そんなパトロール中に自転車を押しながら浩平は、一緒に巡回している巡査長から不思議な話を聞いた。

「おまえ、知っているか?この辺でおかしな殺人事件が何年も未解決で起こり続けているって噂があるんだってよ。」

「殺人事件ですか?」

「その事件てのが奇妙で、亡くなったはずの被害者が実は生きていて、何日かするともう一回死んじまうらしんだ。」

「ん?どういうことですか?」

「俺も詳しくは知らないんだが、どうやら本庁のお偉いさん達が捜査してるって噂だ。まぁ所轄が関わるなってことだろうが、現場で起こってるなら俺らが呼ばれないってのも可笑しくてな。無線でそれらしい事件が起こっているような話も耳にするんだが、実際この近所にあるどの交番勤務の連中に聞いてもそんな事件に立ち会ったことないって言うんだ。」

「本当にそんな可笑しな事件が起こっているんすか?」

「俺も詳しく知らないし、噂程度にしか耳に入ってこないんだよ。本当にそんな事件があったら、犯人も被害者もひっちゃかめっちゃかになるだろうな。」

「そうですね・・・」

浩平と巡査長の二人は街を3周ほど周り、異常がないことを確認すると交番に戻った。その後も、浩平は業務日誌の書き方や報告書の記入方法、提出方法などを巡査長に教わり、初日の勤務が終了した。

夢の新米警察官になって初日を終えた浩平は、興奮収まらず初勤務の余韻を楽しんでいた。初日で半日勤務となっていたその日は、夕方の日差しが差し込むにもまだ早い時間だった。このまま帰るのがもったいないと感じた浩平は、昼間巡査長と一緒に回ったルートの復讐にと目的もなく街をぶらぶら歩くことにした。

季節は夏。時間的には6時を回っていたが日が沈む時間が遅くまだ夕日の輝きにあと少しといった感じに夏の暑い日差しが浩平の汗をせかしている。

1周半くらい回ったところで、浩平は一休みと近くにあった公園にあるベンチに腰掛け、夏の暑い日差しでひどい結露が垂れている缶コーヒーを一口飲んだ。

「今日も暑いなぁ。確かニュースで37度とか言ってたっけ。異常気象もここまでになるとよくわからなくなるな。」

木陰のベンチで少し温くなっている缶コーヒーをちょびちょび飲みながら、普段あまり吸わないタバコを取り出し、何処かに灰皿がないかとキョロキョロしていると、木陰の奥に据え置きの灰皿が立っていた。最近は喫煙スポットが少なくなり、タバコの本数も減っていたが、今日は頑張ったご褒美に青空のしたでゆったりとタバコを吸える喜びを感じた。ラッキーと思いながら灰皿に近づきタバコに火を付けようとしたとき、浩平は手を滑らしライターを地面に落としてしまった。運良く蚊は飛んでいなかったが、灰皿の周りは公園の木々に囲まれていた。落としたライターが見つからなかった浩平は身を屈め、小さくなって辺りの草をかき分けながら探している。

「あれ?おっかしいな。この辺にあると思うんだけどなぁ。」

地面で身を屈め小さくなってライターを探している浩平の耳に、若い男女の楽しく会話する声が聞こえてきた。

(こんな暑い中公園デートか?若いってのはいいなぁ)

浩平もまだ20代半ばで十分若いはずだが、恋人のいない浩平としては真っ昼間から公園デートが出来る男女が単純にうらやましかっただけである。ただでさえ小さくうずくまっている浩平の姿は、楽しく会話する男女達からは完全に見えない位置だった。暑い日差しを避けるように置いてある灰皿の近くは木陰の涼しい場所で、浩平からも男女の姿を確認する事は出来ない。

聞こえる声は暑苦しい程のイチャイチャぶりで、聞いていて恥ずかしくなる程だった。そんな会話を聞いている浩平は立ち上がることも出来ずライターも見つからず、ただただ男女がその場を離れることを待っているだけだった。

何処かに行く様子のない男女の会話が突然止まると、公園は背筋が凍るような雰囲気を漂わせ物音一つしない静かな空間となった。

「んーーー!!!んーーーー!!!!」

――ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・クチャ・・・クチャ・・・

すると、男女の方から怪しげ音が聞こえてきた。浩平は、こんなとこで真っ昼間からおっぱじめやがったと思ったが、様子がどうにも可笑しい。

「んーーー!!!んーーーー!!!!んっんっんーーーー!!!!」

どう聞いてもこれは口を封じられているように聞こえる。しかも、男の方が。

――バサバサ・・・バサバサ・・・

先ほどの唇を重ねるような水音とは違い、今度は布をバタバタと広げホコリを払うような音が聞こえてきた。浩平からは男女の様子が全く見えない状況は変わらない。ただ、音だけがはっきりと浩平の耳に届いていた。何が起きているのか状況確認する為に浩平はそっと状態を起こし、遠目に男女の方を覗き込んだ。

目にした先には、男がさっきまで浩平が座っていたベンチに縛り付けられていた。さらに、男の前に立つ女性の首から下が、一枚の布のようになった胴体が風になびいているように見えた。よく見ると、ベンチに縛り付けられている男の肩は見えるが、何故か両腕がない。両腕がないというよりも、元々なかったのではないかと見間違えるほど両腕の痕跡がなく、レゴブロックで腕のパーツだけを取り除いたような、合体ロボットの両腕を装備し忘れたような見た目になっている。

ただただ怯えているだけの男は、口を何か布ようなモノで覆われしゃべることも叫ぶことも出来ないようだった。そして、女性の顔をした布のような存在が男に覆い被さると、さっきまで声にならない悲鳴を上げていた男の声がスッと止んだ。

女性の顔をした布のような存在男から離れると、そこには男の顔がなくなっている。正確には、顔と両腕だけがロボットのおもちゃのようになくなっている。血が噴き出すわけでもなく、切り口からすーっと垂れるだけだった。

男から離れた女性の顔をした布のような存在は、そのままゆっくりと昆虫の蛹のように丸くなった。時間して数秒のことだろう。浩平のおでこにあった汗が顎の下から地面に向かって垂れ落ちるまでの時間の間に、さっきまで女性の顔をした布のような存在が蛹から出てくると、体格の良い男の姿になっていた。何事もなく去って行く後ろ姿に浩平は見覚えがある。その後ろ姿は、さっきまで女性の顔をした布のような存在に襲われていた男の後ろ姿だった。

一部始終を目撃してしまった浩平は、さっきまで加えていたタバコを落としたことわからず息をすることも忘れるほど、その場から動くことが出来なかった。
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