第24話
「どうして、裏切ったの?」
飛鳥嬢と男子生徒が、奥の扉に入っていった後。
智嬢が、私にそう尋ねてきました。
「……智嬢、貴女が奈々子嬢に協力する理由は、よくわかります。……私も、以前は落ちこぼれと言われた人間でしたからね」
そう遠くない過去。
私自身、落ちこぼれと蔑まれ、生きてきたことがあった。
だからこそ、智嬢の気持ちも、わからないこともない。
「なら、どうしてボクの邪魔をするの! もう少しで……もう少しでボクは落ちこぼれからエリートになれたのに!」
「簡単なことですよ」
過去、私がやってほしかったこと。
それを、そのまま智嬢にしてあげればいい。
「貴女を救うためです」
「どういう意味?」
「たしかに、貴女は奈々子嬢に協力することで、レベル7の妄想力を得ることが出来るでしょう。でも、貴女は必ず後悔する」
「後悔なんてしないよ!」
「……しますよ。貴女は優しい人間ですからね。自分のせいでエロマンガ島にすむ人間が、いえ、世界中の人間が悲しんでしまったら、貴女は必ず後悔する」
「……っ! どういうこと?」
私は、奈々子様の計画を話す。
エロマンガ島を支配した後、世界を支配する。
その言葉に、智嬢は少なからず動揺しているようだ。
なぜなら、智嬢は奈々子様の計画の全てを知っていたわけではないのだから。
もっとも、私自身昨日奈々子様に聞くまで知りませんでしたが。
「ボクは……」
肩を落として落ち込む智嬢。
そんな姿が、彼女とかぶってしまい、少し目頭が熱くなる。
――っと、いけない。今泣いてしまったら、せっかくのいい男っぷりが台無しになってしまう。
「なあに、今ならまだ間に合いますよ。飛鳥嬢に協力して、奈々子様……いえ、奈々子嬢の野望を食い止めましょう」
私は、できうる限り変態な笑みにならないように、微笑んだ。
◆
機械があった場所から、智たちがいる場所へ戻っていく。
「飛鳥……」
そこには、座り込む智と、なんかやりきった顔をしている変態の姿。
「飛鳥嬢。智嬢が、話があるようですよ」
「話? ホント、智?」
「……うん」
そして、智はゆっくりと言葉を紡いでいく。
自分の思いを。
レベル1の落ちこぼれであることの悩みを。
葛藤を。
努力しても報われない苦しさを。
ポツリ、ポツリと、語っていった。
「「…………」」
あたしと涼太は、声が出なかった。
普段、智は、こういった弱音を吐かないから。
いつも明るく、皆の中心的な存在だったから。
だから、素直に驚いている。
そして、後悔してもいる。
あたしたちは、智の親友だったはずなのに、智の悩みに気付いてあげられなかったことを。
智が、あたしたちに悩みを打ち明けてくれなかったことに。
「……飛鳥、涼太くん。ごめんね。ボク、どうかしてたよ」
全てを話し終えた後、智が頭を下げる。
「いや……あたしも、気付いてあげられなくて、ごめん」
「……悪い、俺も気付いてやるべきだった」
「ううん。二人は悪くないよ。でも、これでお互い謝ったから、ボクたちはまた友達、だよね?」
「……ああ!」
「勿論だ」
「うむうむ。学生の友情というものは、素晴らしいものですね」
なんか温かい眼差しを向けてくる変態。
ちょっと、キモい。
さて、これで一件落着だ。
今からなら、午後の授業に間に合うな。
面倒くさいけど。
「……サボって、どっか遊びに行くか?」
あたしの思いをくみ取ったように、涼太がそう言った。
「うん! いいねそれ! ボク大賛成だよ!」
智も、それに賛同する。
でも、それもいいかもしれない。
「そうだな。授業だるいし、どっか行くか」
「いえーい! ホテル行こうぜホテル」
「死ね!」
「涼太くん、死んで」
「ちょっ、冗談だって」
「……なにか、私の存在忘れられていますね。まあ、今日は帰るとしましょうか」
そうして、あたしたちはこの薄暗い地下倉庫を出て、外に遊びに向かう。
――はずだった。
「うっ……ぐっ、がはぁ……っ!」
「智? どうした? 大丈夫か!?」
突然、智が苦しみだして、その場に倒れそうになる。
間一髪涼太が智を支えた。ナイスだ涼太。
『全く、使えないですわね』
どこからか声が聞こえる。
「奈々子嬢……?」
変態も、その声の主に気付いたようだ。
その声は、綾瀬川奈々子のもの。
声が聞こえてきている方を見ると、そこには、さっきシャルが叩き壊した機械。どうやら、そこから綾瀬川奈々子の声が聞こえてきているようだ。
『上野衣智。貴女はもう用済みですわ』
「用済みって、どういうことだよ!」
『あら、その声は。上野衣さんが負けたのって、椎名飛鳥さんだったんですの?』
「あんた、智に何をしたんだよ!」
◆
『簡単ですわ。この機械が停止すると、上野衣さんの身体に異変を起こす細工をしていたのです。簡単なウイルスですわね。ああ、安心してくださいな。死ぬわけじゃありませんから。ただ、植物人間に近い感じになって、眠り続けるだけですわ』
「安心できるか! 今すぐ智を治せ!」
『それは無理ですわ。だって、その方は敗者なのですから』
「はぁ?」
『無様にも負けた者なのですから、こうした報いを受けるのは当たり前だと思いませんこと?』
「ふっざけんな!」
『ふざけてなどおりませんけど……まあ、どうしても助けたいと言うのなら、わたくしの元まで来なさいな』
「あんたの所まで?」
『ええ。わたくしも、そろそろ行動を起こしたいのすわ。そのために、邪魔者を消したくなってきましたので。貴女から来てくれるのならば、手間が省けますわ』
「…………」
『それでは、研究所で待ってますわね』
それっきり、声がしなくなる。
『どうするのじゃ? 行くのか?』
「行くさ。智と、翔平太のためだからな」
「……俺も行くぞ」
「涼太は来るな。邪魔だから」
「……飛鳥」
『そうじゃの。いくら妄想力が使えるからと言っても、お主は来ない方がいいじゃろう。そこのアダム、とかいったか? お主はどうする?』
「ふむ……私は、流れに身を任せます」
『そうか……』
「では、私はこれで。あんま長居すると、捕まっちゃいますからね」
と、変態は言って去っていった。
「…………」
『どうしたのじゃ飛鳥。急に黙りこくって』
「いや」
見間違いかもしれないけど、今あの変態、思いっきり拳を握ってなかったか?
まるで、怒りを抑えるかのように。
……気のせい、かな?
『とりあえず、この娘を病院に運ぶかの』
あたしは思考を中断し、シャルの一言に頷いた。
飛鳥嬢と男子生徒が、奥の扉に入っていった後。
智嬢が、私にそう尋ねてきました。
「……智嬢、貴女が奈々子嬢に協力する理由は、よくわかります。……私も、以前は落ちこぼれと言われた人間でしたからね」
そう遠くない過去。
私自身、落ちこぼれと蔑まれ、生きてきたことがあった。
だからこそ、智嬢の気持ちも、わからないこともない。
「なら、どうしてボクの邪魔をするの! もう少しで……もう少しでボクは落ちこぼれからエリートになれたのに!」
「簡単なことですよ」
過去、私がやってほしかったこと。
それを、そのまま智嬢にしてあげればいい。
「貴女を救うためです」
「どういう意味?」
「たしかに、貴女は奈々子嬢に協力することで、レベル7の妄想力を得ることが出来るでしょう。でも、貴女は必ず後悔する」
「後悔なんてしないよ!」
「……しますよ。貴女は優しい人間ですからね。自分のせいでエロマンガ島にすむ人間が、いえ、世界中の人間が悲しんでしまったら、貴女は必ず後悔する」
「……っ! どういうこと?」
私は、奈々子様の計画を話す。
エロマンガ島を支配した後、世界を支配する。
その言葉に、智嬢は少なからず動揺しているようだ。
なぜなら、智嬢は奈々子様の計画の全てを知っていたわけではないのだから。
もっとも、私自身昨日奈々子様に聞くまで知りませんでしたが。
「ボクは……」
肩を落として落ち込む智嬢。
そんな姿が、彼女とかぶってしまい、少し目頭が熱くなる。
――っと、いけない。今泣いてしまったら、せっかくのいい男っぷりが台無しになってしまう。
「なあに、今ならまだ間に合いますよ。飛鳥嬢に協力して、奈々子様……いえ、奈々子嬢の野望を食い止めましょう」
私は、できうる限り変態な笑みにならないように、微笑んだ。
◆
機械があった場所から、智たちがいる場所へ戻っていく。
「飛鳥……」
そこには、座り込む智と、なんかやりきった顔をしている変態の姿。
「飛鳥嬢。智嬢が、話があるようですよ」
「話? ホント、智?」
「……うん」
そして、智はゆっくりと言葉を紡いでいく。
自分の思いを。
レベル1の落ちこぼれであることの悩みを。
葛藤を。
努力しても報われない苦しさを。
ポツリ、ポツリと、語っていった。
「「…………」」
あたしと涼太は、声が出なかった。
普段、智は、こういった弱音を吐かないから。
いつも明るく、皆の中心的な存在だったから。
だから、素直に驚いている。
そして、後悔してもいる。
あたしたちは、智の親友だったはずなのに、智の悩みに気付いてあげられなかったことを。
智が、あたしたちに悩みを打ち明けてくれなかったことに。
「……飛鳥、涼太くん。ごめんね。ボク、どうかしてたよ」
全てを話し終えた後、智が頭を下げる。
「いや……あたしも、気付いてあげられなくて、ごめん」
「……悪い、俺も気付いてやるべきだった」
「ううん。二人は悪くないよ。でも、これでお互い謝ったから、ボクたちはまた友達、だよね?」
「……ああ!」
「勿論だ」
「うむうむ。学生の友情というものは、素晴らしいものですね」
なんか温かい眼差しを向けてくる変態。
ちょっと、キモい。
さて、これで一件落着だ。
今からなら、午後の授業に間に合うな。
面倒くさいけど。
「……サボって、どっか遊びに行くか?」
あたしの思いをくみ取ったように、涼太がそう言った。
「うん! いいねそれ! ボク大賛成だよ!」
智も、それに賛同する。
でも、それもいいかもしれない。
「そうだな。授業だるいし、どっか行くか」
「いえーい! ホテル行こうぜホテル」
「死ね!」
「涼太くん、死んで」
「ちょっ、冗談だって」
「……なにか、私の存在忘れられていますね。まあ、今日は帰るとしましょうか」
そうして、あたしたちはこの薄暗い地下倉庫を出て、外に遊びに向かう。
――はずだった。
「うっ……ぐっ、がはぁ……っ!」
「智? どうした? 大丈夫か!?」
突然、智が苦しみだして、その場に倒れそうになる。
間一髪涼太が智を支えた。ナイスだ涼太。
『全く、使えないですわね』
どこからか声が聞こえる。
「奈々子嬢……?」
変態も、その声の主に気付いたようだ。
その声は、綾瀬川奈々子のもの。
声が聞こえてきている方を見ると、そこには、さっきシャルが叩き壊した機械。どうやら、そこから綾瀬川奈々子の声が聞こえてきているようだ。
『上野衣智。貴女はもう用済みですわ』
「用済みって、どういうことだよ!」
『あら、その声は。上野衣さんが負けたのって、椎名飛鳥さんだったんですの?』
「あんた、智に何をしたんだよ!」
◆
『簡単ですわ。この機械が停止すると、上野衣さんの身体に異変を起こす細工をしていたのです。簡単なウイルスですわね。ああ、安心してくださいな。死ぬわけじゃありませんから。ただ、植物人間に近い感じになって、眠り続けるだけですわ』
「安心できるか! 今すぐ智を治せ!」
『それは無理ですわ。だって、その方は敗者なのですから』
「はぁ?」
『無様にも負けた者なのですから、こうした報いを受けるのは当たり前だと思いませんこと?』
「ふっざけんな!」
『ふざけてなどおりませんけど……まあ、どうしても助けたいと言うのなら、わたくしの元まで来なさいな』
「あんたの所まで?」
『ええ。わたくしも、そろそろ行動を起こしたいのすわ。そのために、邪魔者を消したくなってきましたので。貴女から来てくれるのならば、手間が省けますわ』
「…………」
『それでは、研究所で待ってますわね』
それっきり、声がしなくなる。
『どうするのじゃ? 行くのか?』
「行くさ。智と、翔平太のためだからな」
「……俺も行くぞ」
「涼太は来るな。邪魔だから」
「……飛鳥」
『そうじゃの。いくら妄想力が使えるからと言っても、お主は来ない方がいいじゃろう。そこのアダム、とかいったか? お主はどうする?』
「ふむ……私は、流れに身を任せます」
『そうか……』
「では、私はこれで。あんま長居すると、捕まっちゃいますからね」
と、変態は言って去っていった。
「…………」
『どうしたのじゃ飛鳥。急に黙りこくって』
「いや」
見間違いかもしれないけど、今あの変態、思いっきり拳を握ってなかったか?
まるで、怒りを抑えるかのように。
……気のせい、かな?
『とりあえず、この娘を病院に運ぶかの』
あたしは思考を中断し、シャルの一言に頷いた。
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